新しいことに挑戦したいのに「私にはできない気がする」と動けなくなったり、少し失敗しただけで「やっぱり無理だった」と諦めたくなったりした経験はありませんか?
そんなとき、自分の能力そのものだけではなく「自分はその行動をできそうだと思えているか」が影響していることがあります。
この「自分ならできそうだ」という感覚と深く関わっている心理学上の概念が、自己効力感です。
自己効力感はセルフ・エフィカシー(self-efficacy)とも呼ばれ、一般向けの文脈では「エフィカシー」と表現されることもあります。
この記事では、自己効力感の意味や自己肯定感・自己信頼感などとの違い、行動への影響と高め方について解説していきます。
Contents
- 自己効力感とは?その定義を解説
- 1. 「自分ならできる」という行動への見込み
- 2. 自己効力感は課題や状況によって変わる
- 自己効力感と似た言葉の違い
- 1. 自己肯定感との違い
- 2. 自己信頼感との違い
- 3. 自己概念との違い
- 4. 自己価値との違い
- 自己効力感は行動にどう影響する?
- 1. 挑戦するか避けるか
- 2. どこまで努力を続けるか
- 3. 失敗や困難のあとも行動できるか
- 自己効力感を育てる4つの情報源
- 1. 達成経験
- 2. 代理経験
- 3. 言語的説得
- 4. 生理的・情動的状態
- 自己効力感を高めるには?
- 1. 小さくても自分で達成した経験をつくる
- 2. 自分に近い人の成功過程を見る
- 3. 現実的な励ましやフィードバックを受ける
- 4. 不安や緊張を能力不足と決めつけない
- 「自分にはできない」と感じるときに見直したいこと
自己効力感とは?その定義を解説
自己効力感、つまりセルフ・エフィカシーは、カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した概念です。
1977年に発表された自己効力感理論は、その後、学習や仕事、健康行動など幅広い領域で研究されてきました。
まずは、自己効力感が何を意味しているのかを2つの視点から見ていきましょう。
1. 「自分ならできる」という行動への見込み
自己効力感とは、ある状況で必要な行動を「自分は実行できる」と考えられる感覚のことです。
アメリカ心理学会(APA)では、特定の状況で必要な行動をとり、目標に向かって物事を進める自分の能力についての主観的な認識として説明されています。
たとえば、人前でプレゼンテーションをする場面を考えてみましょう。
「資料を準備して、自分の考えを人前で説明できそうだ」と思えるなら、その課題に対する自己効力感は比較的高い状態です。
一方で、実際には十分な知識や経験があっても「どうせうまく話せない」「私には無理だ」と感じていれば、その場面での自己効力感は低くなります。
自己効力感で見ているのは、実際にどのくらい能力があるかだけではありません。
その能力を使って必要な行動を実行できると、自分自身がどのくらい見込んでいるかがポイントです。
また、「必要な行動をできると思えること」と「望んだ結果が必ず得られると思うこと」も分けて考えます。
たとえば「転職活動で応募や面接はできる」と感じることと、「必ず希望する会社に採用される」と思うことは別です。
自己効力感が表しているのは、主に前者の「自分は必要な行動をとれるか」という感覚です。
2. 自己効力感は課題や状況によって変わる
2つ目のポイントは、自己効力感が課題や状況によって変わることです。
自己効力感は「その人に自信があるかないか」を一括りに表すものではありません。
仕事では「自分なら何とかできる」と思えていても、人間関係では「自分から話しかけるのは難しい」と感じることがあります。
反対に、人と関わることには自信があっても、新しい仕事を任された途端に「私にできるだろうか」と不安になる人もいるでしょう。
同じ人の中でも、
- 仕事を覚えることならできそう
- 人前で発表するのは無理そう
- 新しい資格の勉強なら始められそう
- 転職活動は怖くて動けない
というように、対象によって感覚は変わります。
そのため、「私は自己効力感が低い人なんだ」と自分全体を評価するよりも、私は何をするときに「できない」と感じているのかを具体的に見る方が、自分の状態を理解しやすくなります。
自己効力感と似た言葉の違い
自己効力感には、自己肯定感や自己信頼感など、意味が近く見える言葉がいくつかあります。
どれも「自分をどう捉えているか」に関係しますが、それぞれ見ている対象が異なります。
ここからは、特に混同しやすい4つの概念との違いを整理していきましょう。
1. 自己肯定感との違い
1つ目は、自己肯定感との違いです。
自己肯定感は、欠点や失敗も含めて、自分自身を肯定的に受け止められる感覚に関係します。
一方、自己効力感は「この課題に必要な行動を自分はできそうか」という、行動に対する見込みです。
端的に分けるなら、
自己肯定感は「私は私でいていい」
自己効力感は「私はこれをできる」
という違いがあります。
そのため、自己肯定感が比較的安定していても、初めて取り組む仕事では「私にはできない」と感じることがあります。
反対に、仕事では「自分ならできる」と思えていても、失敗した自分を強く責めたり、自分そのものを否定したりすることもあります。
「できるかどうか」と「自分自身をどう受け止めているか」は、別の軸です。
2. 自己信頼感との違い
2つ目は、自己信頼感との違いです。
自己信頼感は、自分の気持ちや判断を信じ、自分自身を頼りながら進んでいける感覚に関係します。
自己効力感が「この行動を自分はできる」と感じることなら、自己信頼感は「うまくいくときも、うまくいかないときも、自分を頼りながら進んでいける」と感じられることに近いでしょう。
たとえば、転職に挑戦するときに「面接をやり切れる」と思えるのは自己効力感です。
一方で、「もし不採用になっても、自分で考え直して次を選べる」と思える感覚は自己信頼感に近くなります。
つまり、自己効力感は特定の行動に対する「できそう」という感覚であり、自己信頼感は、もう少し広く自分自身を頼れる感覚だと考えると違いがわかりやすくなります。
3. 自己概念との違い
3つ目は、自己概念との違いです。
自己概念とは、「私はどんな人間なのか」という、自分自身について持っている認識のまとまりを指します。
たとえば、
- 私は人見知りだ
- 私は責任感が強い
- 私は人前で話すのが苦手だ
- 私は新しいことが好きだ
といった、自分についての捉え方は自己概念の一部です。
それに対して自己効力感は、「今この状況で、この行動を自分はできるか」という、より具体的な判断です。
「私は人前で話すのが苦手だ」という自己概念を持っていても、「今回は十分に準備したから発表できそうだ」と感じることはあります。
反対に、「私は仕事ができる方だ」と考えていても、初めて経験する業務では「これはできるだろうか」と自己効力感が下がることもあります。
自己概念が「私はどんな人か」という自分についての大きな認識だとすれば、自己効力感は、その中の特定の場面で「私はこれをできそうか」と判断する感覚です。
4. 自己価値との違い
4つ目は、自己価値との違いです。
自己価値は、自分自身を「価値のある存在だ」とどのくらい感じられているかに関係します。
自己効力感が「何かをできるか」という行動への見込みであるのに対して、自己価値は「自分という存在に価値があるか」という感覚です。
たとえば、仕事で失敗したときに「今回はうまくできなかった」と考えることと、「失敗した私は価値がない」と考えることでは、起きていることが違います。
前者では、その仕事に対する自己効力感が下がっている可能性があります。
後者では、1つの失敗が自分自身の価値の評価にまで広がっています。
「できる・できない」と「価値がある・ない」が強く結びついていると、何かに失敗するたびに、自分そのものまで否定しやすくなります。
そのため、「私はできない」と感じたときには、特定の行動への自信が揺れているのか、それとも自分の価値まで低く感じているのかを分けて見ることが、自分の状態を理解する手がかりになります。
自己効力感は行動にどう影響する?
自己効力感は、頭の中で感じる「自信」だけに関係するものではありません。
バンデューラの理論では、何を選ぶか、どのくらい努力するか、困難に直面したときにどのくらい続けるかといった行動にも関係すると考えられています。
ここからは、行動との関係を3つに分けて見ていきます。
1. 挑戦するか避けるか
1つ目は、そもそもその行動を選ぶかどうかです。
「やってみればできるかもしれない」と思えることには、人は比較的取り組みやすくなります。
反対に、「どうせ私にはできない」と感じていることは、実際に試す前から避けやすくなります。
たとえば、興味のある求人を見つけても「私の経歴では無理」と応募しない。
やってみたい仕事があっても「失敗するに決まっている」と手を挙げない。
人と話したいと思っていても「きっとうまく話せない」と声をかけない。
このような場面では、実際にできるかどうかを確かめる前に、「自分にはできない」という見込みによって行動を選ばなくなっていることがあります。
そのため自己効力感は、能力そのものだけでなく、そもそも挑戦する機会を自分に与えられるかどうかにも関わっています。
2. どこまで努力を続けるか
2つ目は、行動を始めたあとにどのくらい努力を続けられるかです。
自己効力感があると、少し難しいことが起きても「方法を変えればできるかもしれない」と考えやすくなります。
そのため、別の方法を試したり、人に聞いたり、練習を続けたりする余地が残ります。
自己効力感が低いと、同じ出来事を「やっぱり私には無理だった」という証拠として受け取りやすくなります。
すると、課題そのものが難しいのか、方法が合っていないのかを検討する前に、自分の能力不足として結論づけてしまうことがあります。
努力を続けられるかどうかには、体力や環境、課題の難易度など多くの条件も関係します。
自己効力感はそのすべてを決めるものではありませんが、「もう少し試してみよう」と思えるかどうかに関わる要素の1つです。
3. 失敗や困難のあとも行動できるか
3つ目は、失敗したあとにもう一度行動できるかどうかです。
同じ失敗を経験しても、その受け止め方は人によって異なります。
「今回は準備が足りなかったから、次はここを変えてみよう」と考える人もいれば、「やっぱり私は何をやってもダメだ」と感じる人もいます。
自己効力感と関係するのは、「失敗した」という事実そのものより、その経験から自分の能力をどう判断するかという部分です。
うまくいかなかった経験が続けば、特定の課題に対する自己効力感が下がることもあります。
一方で、試行錯誤しながら困難を乗り越えた経験は、「難しいことがあっても対応できる」という新しい情報になります。
人生を立て直したいと感じるときや、これまでと違う働き方に挑戦するときにも、この感覚は関係してきます。
大きな変化を前に「また失敗するかもしれない」と感じるときは、未来そのものに自信がないというより、これから必要になる行動を「自分にできる」とまだ思えていないのかもしれません。
自己効力感を育てる4つの情報源
バンデューラは、自己効力感が形づくられる主な情報源として、達成経験、代理経験、言語的説得、生理的・情動的状態の4つを挙げています。
私たちは、こうした情報を受け取りながら「自分にはできそうか」を判断しています。
ここからは4つの情報源を順番に見ていきましょう。
1. 達成経験
1つ目は、達成経験です。
自分自身がある行動を行い、「できた」と経験することは、自己効力感を形成するうえで特に重要な情報になります。
たとえば
- 最初は難しいと感じていた仕事を1人で終えられた
- 苦手だった発表を最後までやり切れた
- 不安だった申し込みや問い合わせを自分でできた
こうした経験は、「自分にはこの行動ができる」という具体的な根拠になります。
ここで大切なのは、単に成功の数だけを増やすことではありません。
「自分が何をして、その結果どこまでできたのか」を自分自身が認識することが必要です。
周囲から見れば十分できていても、本人が「これくらい誰でもできる」「たまたまだ」と処理していれば、その経験を自分の能力についての情報として受け取りにくくなります。
反対に、最初はできなかったことを工夫しながらできるようになった経験は、「難しくても取り組めば進める」という感覚につながります。
2. 代理経験
2つ目は、代理経験です。
代理経験とは、他の人が何かを行う姿を見ることで、自分の可能性について判断することです。
特に、自分と年齢や経験、状況などが近い人の行動は参考になりやすくなります。
「特別な才能を持つ人だからできた」と感じる相手より、「自分と同じように最初は苦手だった人が、少しずつできるようになった」という姿の方が、自分にも応用できる情報になります。
たとえば
- 同じ年代で未経験から転職した人の過程を見る
- 自分と同じように人前が苦手だった人が、練習によって発表できるようになった経緯を知る
- 身近な同僚が新しい仕事を覚えていく姿を見る
こうした経験から、「この人にできたなら、自分にもできる可能性がある」と考えられるようになります。
3. 言語的説得
3つ目は、言語的説得です。
周囲から「あなたならできると思う」「ここまでは十分できている」と伝えられることも、自分の能力について判断する材料になります。
特に、その課題をよく知っている人や、自分が信頼している人からの具体的なフィードバックは影響を持ちやすくなります。
「絶対できるよ」と根拠なく励ますだけではなく、
「前回ここまでできていたから、次はここを練習すればできそう」
「この部分はすでにできている」
「今つまずいているのは能力より経験の問題だと思う」
というように、現状に基づいた言葉の方が、自分の能力を現実的に捉える材料になります。
自分だけでは「できなかったところ」に目が向きやすいとき、他者からの視点によって「すでにできている部分」に気づけることもあります。
4. 生理的・情動的状態
4つ目は、生理的・情動的状態です。
私たちは、何かに挑戦するときの緊張や不安、疲労などの身体感覚も、「自分にできるかどうか」を判断する情報として使っています。
たとえば、人前で話す前に心臓が速くなったとき、「こんなに緊張しているのだから、私はきっと失敗する」と解釈すれば、自己効力感は下がりやすくなります。
同じ緊張を「大事な場面だから体が反応している」と受け取れば、能力そのものへの評価とは切り離しやすくなります。
睡眠不足や強い疲労があるときにも、「今日は力が出ない」と「私は能力がない」が混ざることがあります。
その日の心身の状態と、自分の能力についての評価を分けて考えることは、自分の自己効力感を必要以上に下げないためにも役立ちます。
自己効力感を高めるには?
自己効力感を高める方法も、先ほどの4つの情報源を土台に考えることができます。
「私はできる」と何度も言い聞かせるより、自分ができると判断できる情報を少しずつ増やしていく方が現実的です。
ここからは、日常で取り入れやすい方法を4つに分けて見ていきましょう。
1. 小さくても自分で達成した経験をつくる
1つ目は、自分で「できた」と確認できる経験をつくることです。
目標が大きすぎると、達成までの距離が長くなり、「できなかった」という経験ばかりが残りやすくなります。
たとえば「転職する」を最初の目標にするのではなく、「求人を3件見る」「職務経歴書を1項目だけ書く」「転職経験のある友人に話を聞く」というように、実際に行動できる単位まで小さくします。
ここで見るのは結果だけではありません。
- 怖かったけれど応募できた
- わからないところを質問できた
- 途中で投げ出さず最後までやった
というように、自分が実際にとった行動を確認します。
自分に自信をつけたいときにも、漠然と「もっと自信を持とう」とするより、「何をできるようになりたいのか」を具体的にした方が、自己効力感につながる経験を作りやすくなります。
2. 自分に近い人の成功過程を見る
2つ目は、自分に近い条件の人が、どのようにできるようになったのかを見ることです。
完成した成功だけを見ると、「この人は自分とは違う」と感じてしまうことがあります。
自己効力感につなげるなら、結果よりも途中の過程を見ることが役立ちます。
- 最初は何ができなかったのか
- どこで失敗したのか
- 何を練習したのか
- どのくらい時間がかかったのか
そうした過程を見ると、「最初からできた人」ではなく、「できないところから進んだ人」として捉えられるようになります。
自分と似た状態から変化した人の経験は、「自分にも同じような道筋をたどれるかもしれない」という情報になります。
3. 現実的な励ましやフィードバックを受ける
3つ目は、自分の状況を知っている人からフィードバックをもらうことです。
自信を失っているときは、できなかった部分だけを見て、自分の能力を実際より低く見積もっていることがあります。
そんなとき、上司や同僚、先生、友人などから「どこまでできているか」を具体的に伝えてもらうと、自分だけでは気づかなかった情報を得られます。
「私って向いていると思う?」と漠然と聞くより、
- この仕事をするうえで、今の私に足りないものは何だと思う?
- 今回できていた部分はどこだった?
- 次に1つ改善するとしたら何がいい?
と聞いた方が、次の行動につながる材料を受け取りやすくなります。
励ましてくれる人を持つことと同時に、自分の現在地を現実的に教えてくれる人を持つことも、自己効力感を育てる助けになります。
4. 不安や緊張を能力不足と決めつけない
4つ目は、不安や緊張と「できるかどうか」を分けて考えることです。
初めての仕事や大事な面接、人前での発表などで緊張するのは珍しいことではありません。
そのとき「こんなに怖いのだから、私にはできない」と判断すると、身体の反応がそのまま能力の評価に変わってしまいます。
- 今は緊張している
- 準備不足の部分がある
- 疲れているから今日は集中しにくい
というように、今起きていることを具体的に見ると、「私はできない」という大きな結論と切り離しやすくなります。
自分の状態を整えたうえで、もう一度「今の自分ならどこまでできそうか」を考えてみると、最初とは違う答えが見えてくることがあります。
「自分にはできない」と感じるときに見直したいこと
この記事では、自己効力感の意味や似た概念との違い、行動への影響と育て方について解説してきました。
「私にはできない」と感じるときは、まず何ができないと思っているのかを具体的にしてみると、自分の状態を整理しやすくなります。
行動そのものを「できそうにない」と感じているなら、自己効力感が関係しているかもしれません。
一方で、「できなかったら自分には価値がない」と感じるなら自己肯定感や自己価値、「失敗した自分を支えられない」と感じるなら自己信頼感など、別のテーマが関係していることもあります。
また、やりたいことができない状態には、完璧主義や疲労など、自己効力感以外の要因が重なっている場合もあります。
自己効力感は、自分の価値を測るものではありません。
「今の自分なら、次にどこまでできそうか」を考えるための手がかりとして捉えると、自分の場合を整理しやすくなります。