人間関係や人生のことで悩み、心について学び始めると、「自分を受け入れる」「自分を大切にする」といった言葉に出会うことがあります。
自己愛などの言葉で語られることもありますが、その土台にある考え方のひとつが「自己受容」です。
けれど、「自分を受け入れましょう」「自分を受容しましょう」と言われても、何をどうすれば自分を受け入れたことになるのか、よくわからないことも多いでしょう。
この記事では、自己受容とは何か、自分を受け入れるとはどういうことなのかについて解説していきます。
Contents
- 自己受容とは?その定義を解説
- 自分を受け入れるとはどういうこと?
- 1. 感情をそのまま認識する
- 2. 弱さや限界も自分の一部として見る
- 3. 失敗や過去も含めて現在の自分を捉える
- 自己受容と似た概念の違い
- 1. 自己肯定感は自分への肯定的な評価
- 2. 自己価値は自分の存在価値についての感覚
- 3. 自己信頼感は自分を頼りにできる感覚
- 4. 自己概念は自分について持っている認識
- 自分を受け入れにくくなるとき
- 1. 理想の自分との差を受け止められない
- 2. 失敗から自分全体を否定してしまう
- 3. 感情を感じる自分まで否定してしまう
- 4. 過去の自分を今の自分から切り離したくなる
- 自己受容を深めるための考え方
- 1. 事実と自分への評価を分ける
- 2. 感情に良し悪しをつけずに気づく
- 3. 今の自分を現在地として捉える
- 今の自分を知ることが自己受容につながる
自己受容とは?その定義を解説
自己受容とは、今の自分の状態や感情、得意なことや苦手なことなどを、そのまま自分の一部として受け止めることです。
アメリカ心理学会(APA)では、自分の能力や達成してきたことをできるだけ現実に近い形で捉えながら、自分の限界についても認めていくこととして説明されています。
たとえば、人前に出ると緊張してしまう自分に気づいたとします。
そんなときに、「私はこういう場面だと緊張しやすいんだな」「今、不安を感じているんだな」と、自分の中で起きていることをそのまま見ていくことも自己受容のひとつです。
日本の心理学研究でも、自己受容は、自分を高く評価できるかどうかとは分けて考えられてきました。
自分を良いと思えるかどうかよりも、今の自分にあるものをどのように受け止めているかに関わるのが自己受容です。
自分を受け入れるとはどういうこと?
自分を受け入れるときには、自分の中にあるさまざまなものを「自分に起きていること」として認識していきます。
受け入れやすい部分だけを見るのではなく、自分にとって扱いにくい部分まで含めて見ると、自己受容の意味がわかりやすくなります。
ここからは、自分を受け入れるということを3つの側面から見ていきましょう。
1. 感情をそのまま認識する
1つ目は、自分の中に生まれている感情を認識することです。
うれしい、楽しいといった感情だけでなく、怒り、不安、嫉妬、寂しさ、悲しさなども、そのときの自分に起きている心の反応です。
たとえば誰かに嫉妬したとき、「こんなことを感じる自分は嫌だ」と自分への評価まで広げてしまうと、もともとあった嫉妬という感情が見えにくくなります。
「私は今、この人に嫉妬しているんだな」と気づければ、自分の内側で何が起きているのかを知ることができます。
自己受容では、感情をどう評価するかよりも、まず自分が何を感じているのかを認識することが入口になります。
2. 弱さや限界も自分の一部として見る
2つ目は、自分の苦手なことや限界も、自分についての情報として見ることです。
人には、得意なこともあれば苦手なこともあります。
- 人付き合いが得意ではない
- 人前で話すと緊張する
- 疲れやすい
- 傷つきやすい
など、自分にとって変えたいと感じる部分もあるでしょう。
そのときに「今の私は大人数の場が苦手だ」「今はこれ以上頑張れる状態ではない」と現在の自分を捉えられると、自分の状態を必要以上に歪めずに見ることができます。
自分の限界が見えることは、これからどうしたいのかを考えるための現在地を知ることにもつながります。
3. 失敗や過去も含めて現在の自分を捉える
3つ目は、失敗した経験や過去の選択も含めて自分を見ることです。
「あのとき別の選択をしていればよかった」
「あんなことを言わなければよかった」
そう思う出来事があると、過去の自分そのものを見たくなくなることがあります。
けれど、そのとき自分が何を考え、何を選び、どんな結果になったのかも、自分が経験してきたことの一部です。
後悔や恥ずかしさが残っているなら、その感情も含めて「私はこの出来事をまだ気にしているんだな」と認識できます。
過去を受け入れることは、その出来事を消すことではなく、今の自分につながっている経験として位置づけ直していくことでもあります。
自己受容と似た概念の違い
自己受容の周辺には、自己肯定感や自己価値、自己信頼感、自己概念など、似た意味で使われやすい言葉があります。
どれも自分との関係に関わるものですが、「自分の何を見ている概念なのか」がそれぞれ異なります。
ここからは、自己受容との違いを4つに分けて見ていきます。
1. 自己肯定感は自分への肯定的な評価
1つ目の自己肯定感は、自分をどのくらい肯定的に捉えられているかに関わる感覚です。
「自分には良いところがある」「今の自分にもそれなりに満足している」と感じられるかどうかは、自分に対する評価にあたります。
自己受容は、自分を高く評価できるかどうかよりも、今の自分にあるものをそのまま認識し、受け止められるかに関わります。
たとえば「人前で話すのが苦手」という部分を、自分ではあまり好きではなかったとしても、「私は人前では緊張しやすい」と認識することはできます。
自分を肯定的に評価することと、自分にあるものを受け止めることは、近いようで少し違う心の働きです。
2. 自己価値は自分の存在価値についての感覚
2つ目の自己価値は、「自分には価値がある」と感じられるかに関わる感覚です。
仕事で成果を出せたときや、人から必要とされたときには自分に価値を感じられるのに、失敗したり否定されたりすると「自分には価値がない」と感じることもあります。
このように、自己価値が見ているのは「私は価値のある存在だと感じられているか」という部分です。
一方、自己受容では、「今の私は自分に価値がないように感じている」という状態そのものも、自分の中で起きていることとして扱います。
自分に価値を感じられることと、価値を感じられない自分も含めて現在の状態を認識できることは、分けて考えることができます。
3. 自己信頼感は自分を頼りにできる感覚
3つ目の自己信頼感は、自分の感覚や判断、選択を、自分自身で頼りにできる感覚です。
「私はこう感じているから、この選択をしてみよう」と、自分の内側にあるものを判断材料として使えることも自己信頼感に関わります。
自己受容は、その前提となる「私は今こう感じている」「私はこういうことが苦手だ」と、自分の状態を認識する部分に関わります。
また、自分を信頼できる感覚と近い言葉に自己効力感があります。
自己効力感は「自分ならこの行動をできそうだ」「この状況に対処できそうだ」といった、自分の行動や遂行に対する見込みに関わる概念です。
自己受容、自己信頼感、自己効力感は互いに関係しますが、それぞれ見ている部分は異なります。
4. 自己概念は自分について持っている認識
4つ目の自己概念は、「自分はどんな人間なのか」について、自分自身が持っている認識です。
たとえば、
- 私は内向的な人間だ
- 私は責任感が強い
- 私は人に頼るのが苦手だ
といった「私はこういう人」という自分についての理解が、自己概念をつくっています。
自己概念が「自分をどのような人間だと認識しているか」だとすると、自己受容は、そこで見えてきた自分をどのように受け止めているかに関わります。
たとえば「私は人に頼るのが苦手だ」という自己概念を持っていることと、その自分を「今の自分にはそういうところがある」と受け止められることは別です。
だからこそ、自分について理解することと、その自分を受け入れることは、つながってはいても同じものではありません。
自分を受け入れにくくなるとき
自分について知ることができても、その内容をそのまま受け止められるとは限りません。
特に、自分の理想や期待と現実が離れているときには、今の自分を見ること自体が苦しくなることがあります。
ここからは、自分を受け入れにくくなりやすい場面を4つ見ていきましょう。
1. 理想の自分との差を受け止められない
1つ目は、理想の自分と現実の自分の差が大きく感じられるときです。
「もっと仕事ができる自分でいたい」
「人前でも堂々としていたい」
「もっと優しい人でいたい」
こうした理想を持っているほど、そこから外れた自分を目にしたときに、現実を受け止めにくくなることがあります。
本当は疲れているのに「まだ頑張れるはず」と考えたり、傷ついているのに「こんなことで傷つくべきではない」と感じたりするのも、そのひとつです。
理想があること自体よりも、理想と違う現在の自分をどこまで見られるかが、自己受容には関わります。
2. 失敗から自分全体を否定してしまう
2つ目は、ひとつの失敗が自分全体への評価に広がっているときです。
仕事でミスをしたという出来事から、「私は仕事ができない人間だ」「私は何をやってもダメだ」と考えると、失敗という出来事と自分全体が結びつきます。
すると、実際に起きたことを見るよりも、「ダメな自分」という評価の方が大きくなっていきます。
失敗した自分を受け入れるときには、まず「私はこの場面で失敗した」という出来事を見ることが出発点になります。
失敗は自分について考える材料のひとつですが、それだけで自分のすべてが決まるわけではありません。
3. 感情を感じる自分まで否定してしまう
3つ目は、ある感情を抱いたことから、自分自身まで嫌になるときです。
嫉妬した自分を見て「性格が悪い」と感じたり、寂しさを感じた自分を「弱い」と判断したりすることがあります。
感情に対する評価が強くなると、もともと何を感じていたのかよりも、「そんな感情を持った自分はどうなのか」という自己評価へ意識が移っていきます。
まず「嫉妬している」「寂しい」「腹が立っている」と感情そのものを見られると、その感情が何を知らせているのかも考えやすくなります。
感情と自分への評価を分けることは、自分の内側を理解するためにも役立ちます。
4. 過去の自分を今の自分から切り離したくなる
4つ目は、過去の自分を思い出したくないと感じるときです。
恥ずかしい選択をしたこと、人を傷つけたこと、もっとできたはずなのにできなかったことなど、振り返るだけで苦しくなる経験もあります。
「昔の自分は自分ではない」と切り離したくなるほど、その出来事への後悔や罪悪感が強く残っていることもあります。
自己受容では、当時の自分が何を考え、何を感じ、なぜその選択をしたのかも含めて見ていきます。
今の視点から過去を評価するだけでなく、その時点の自分が置かれていた状況まで見られると、過去の自分についての理解も変わっていきます。
自己受容を深めるための考え方
自分を受け入れようとしても、「受け入れなければ」と考えるだけでは、自分の見方はなかなか変わりません。
まず、自分に起きていることをできるだけ整理して見られる状態をつくることが必要です。
ここからは、自己受容を深めるための考え方を3つ見ていきましょう。
1. 事実と自分への評価を分ける
1つ目は、実際に起きたことと、その出来事から自分に下した評価を分けることです。
たとえば、会議で発言できなかったとします。
「会議で発言しなかった」というのは、実際に起きた出来事です。
そこから「私は意見を言えないダメな人間だ」と考えたとしたら、そこには自分への評価が加わっています。
この2つを分けると、自分について起きていることを少し具体的に見ることができます。
「今日は発言できなかった」
「緊張していた」
「間違えるのが怖かった」
このように事実や自分の状態を見ていくと、「ダメな自分」という大きな評価の中に隠れていたものが見えやすくなります。
2. 感情に良し悪しをつけずに気づく
2つ目は、感情が出てきたときに、まずその存在に気づくことです。
人に嫉妬したときには嫉妬があり、嫌なことをされたときには怒りがあり、大切な人を失えば悲しさがあります。
感情は、自分が何を大切にしているのか、何に傷ついたのか、何を求めているのかを知る手がかりにもなります。
「こんなふうに感じる自分はどうなのか」と評価する前に、「私は今、何を感じているのだろう」と見ることで、自分への理解が進みます。
自分の感情がよくわからないときには、出来事を思い出しながら、身体の感覚や頭に浮かんだ言葉から探していく方法もあります。
3. 今の自分を現在地として捉える
3つ目は、今の自分をこれからを考えるための現在地として見ることです。
たとえば、「人前で話すのが苦手」という自分に気づいたとします。
その事実を認識したうえで、「少しずつ慣れたい」と考えることもできますし、「人前で話す機会の少ない環境を選びたい」と考えることもできます。
現在地がわかると、変えたい部分と、そのまま付き合っていく部分を自分で考えやすくなります。
自己受容と変化は、どちらか一方を選ぶ関係ではありません。
今の自分を把握することが、その自分とこれからどう付き合っていくのかを考える土台になります。
今の自分を知ることが自己受容につながる
この記事では、自己受容の意味や、自分を受け入れるときに見ているもの、似た概念との違い、自分を受け入れにくくなる場面について解説してきました。
自己受容は、自分の感情や特徴、弱さ、限界、失敗や過去などを、現実に即して自分の一部として認識していくことに関わります。
自分への評価が先に立つと、「自分はダメだ」「もっとこうでなければ」という大きな言葉の中に、実際の自分の状態が隠れてしまうことがあります。
まず「今の私は何を感じているのか」「何ができて、何が難しいのか」「この出来事をどう受け止めているのか」と自分を見ていくことが、自己受容の入り口になります。