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セルフコンパッションとは?意味と3要素を心理学から解説

セルフコンパッションとは?意味と3要素を心理学から解説

失敗したときや、思うようにできなかったとき、「なんでこんなこともできないんだろう」「もっとちゃんとしなければ」と、自分に厳しい言葉を向けることがあります。

そんな場面で出てくるのが「セルフコンパッション」という言葉です。

「自分に優しくすること」と説明されることも多い言葉ですが、心理学では、苦しみや失敗に直面したときの自分との関わり方を、いくつかの要素から捉える概念として研究されてきました。

この記事では、心理学研究におけるセルフコンパッションの定義と3つの要素、失敗や自責との関係、自己受容や自己肯定感などの近い概念との違いについて解説していきます。

Contents

セルフコンパッションとは?その定義を解説

セルフコンパッション(self-compassion)は、苦しみや失敗、自分の不十分さに直面したときに、自分自身に対して思いやりのある態度を向けることを表す心理学の概念です。

この概念を心理学研究の中で体系的に整理したのが、アメリカの教育心理学者クリスティン・ネフ(Kristin D. Neff)です。

ネフは2003年、セルフコンパッションを「自分へのやさしさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」という3つの要素から捉えました。

たとえば、仕事で大きなミスをしたとします。

そのとき、「自分は本当にダメな人間だ」と自分を責め続けることもあれば、「失敗してかなり落ち込んでいるんだな」と自分の状態を認識することもあります。

セルフコンパッションが扱っているのは、失敗そのものの評価よりも、その失敗によって苦しんでいる自分にどのような態度を向けるかという部分です。

そのため、「自分を素晴らしいと思えるか」「自分を好きになれるか」という自己評価だけでは捉えきれない概念です。

セルフコンパッションを構成する3つの要素

ネフの理論では、セルフコンパッションは3つの要素から構成されています。

それぞれは別々の要素ですが、実際には互いに関係しながら、自分が苦しんでいるときの自己との関わり方を形づくります。

ここからは3つの要素を順番に見ていきます。

1. 自分へのやさしさ

1つ目は、自分へのやさしさであるセルフ・カインドネス(self-kindness)です。

失敗したときや苦しいときに、激しい自己批判を向ける代わりに、自分の苦しさを理解しながら接する態度を指します。

たとえば、仕事で失敗したときに、

「こんなミスをするなんて最低だ」

「どうして自分はいつもこうなんだ」

「もっとちゃんとできるはずなのに」

と自分を責め続ける状態では、失敗したことに加えて、自分自身からも攻撃を受ける形になります。

自分へのやさしさは、同じ場面で「かなり落ち込んでいる」「失敗して苦しい」と、自分の状態を理解しながら関わる側面です。

ネフのモデルでは、この自分へのやさしさは、自己批判や自己判断であるセルフ・ジャッジメント(self-judgment)と対になるものとして整理されています。

ここでいう「やさしさ」は、自分の行動をすべて正当化する意味ではありません。

失敗した事実と、自分を必要以上に傷つけることは分けて考えられます。

2. 共通の人間性

2つ目は、共通の人間性であるコモン・ヒューマニティ(common humanity)です。

これは、自分の失敗や苦しみを「自分だけに起きている特殊な問題」として捉えるのではなく、人間が生きる中で経験するものの一部として認識する側面です。

失敗したときには、

「こんな失敗をするのは自分だけだ」

「みんなはちゃんとできているのに」

「自分だけ何かがおかしい」

という感覚が強くなることがあります。

すると、失敗そのものだけでなく、「自分だけが取り残されている」という孤立感も加わります。

共通の人間性は、失敗や不完全さ、思い通りにならない経験そのものが、人間の経験の一部であることを認識する視点です。

ネフの理論では、共通の人間性は孤立感であるアイソレーション(isolation)と対になる側面として整理されています。

3. マインドフルネス

3つ目は、マインドフルネス(mindfulness)です。

セルフコンパッションにおけるマインドフルネスは、自分の苦しい思考や感情を無視することも、そこに完全に飲み込まれることもなく、ある程度バランスを保ちながら認識することを指します。

たとえば、失敗した直後に、

「終わった」

「もう全部ダメだ」

「絶対に取り返せない」

という考えが頭の中を占めていると、その瞬間の感情や思考が現実全体のように感じられます。

このように、思考や感情と強く一体化してしまう状態を、ネフは過剰同一化であるオーバー・アイデンティフィケーション(over-identification)と呼んでいます。

マインドフルネスの側面では、「今、自分は強く落ち込んでいる」「失敗したことを何度も考えている」と、現在起きていることを認識します。

感情を消すのではなく、感情が存在していることと、感情に完全に支配されることの間に距離が生まれている状態です。

心理学研究ではどのように扱われている?

セルフコンパッションは、2003年にネフが理論的な概念を整理し、同じ年にセルフ・コンパッション・スケール(Self-Compassion Scale)を開発したことで、心理学研究の中で測定可能な概念として研究が広がりました。

尺度では、先ほどの3要素に対応して、

  • 自分へのやさしさ
  • 自己批判
  • 共通の人間性
  • 孤立感
  • マインドフルネス
  • 過剰同一化

という6つの側面が扱われています。

その後、セルフコンパッションと心理的健康、ストレス、自己批判、感情調整などとの関連について、多くの研究が行われてきました。

ネフが2023年にまとめたレビューでも、理論、測定方法、心理的健康との関連、介入研究など、それまでの研究蓄積が整理されています。

一方で、「セルフコンパッションが高ければ必ず心理状態が良くなる」という単純な因果関係として理解することはできません。

セルフコンパッションが高い人ほど特定の心理的特徴を持つという相関研究も多く含まれており、関連が確認されていることと、原因として効果が確認されていることは分けて考える必要があります。

尺度の構造や、6側面を1つの総得点として扱う方法についても研究上の議論があります。

そのため、セルフコンパッションは研究蓄積の多い心理学概念の1つですが、あらゆる心理的な問題を単独で説明する万能な概念ではありません。

失敗や挫折のあとに起きる自己批判

セルフコンパッションが特に関係するのが、何かがうまくいかなかったときです。

失敗や挫折をすると、人は出来事そのものだけでなく、その出来事から自分自身を評価することがあります。

「失敗した」という事実が、

「私は能力がない」

「私はダメな人間だ」

「こんな自分は恥ずかしい」

という自己評価へ広がると、失敗への落ち込みに自己批判や恥が重なります。

恥は、「悪いことをした」という行動への評価よりも、「そんなことをした自分そのものに問題がある」という自己全体への否定に近い形をとる場合があります。

そこで自分を責め続けると、出来事を振り返ることと、自分を罰することが同じものになりやすくなります。

自己否定ともこの部分で接点があります。

自己否定では、特定の行動や結果への評価が、自分全体の否定へ広がっていきます。

セルフコンパッションでは、そのような苦しさが生じている自分にどのような態度を向けるかが焦点になります。

完璧主義とも関連します。

高い基準を持つことそのものと、基準に届かなかった自分を激しく攻撃することは同じではありません。

完璧主義の中でも、失敗への強い懸念や自己批判が大きい場合には、基準に届かなかった経験が自己否定へ広がりやすくなります。

完璧主義な女性の特徴と原因|恋愛・職場への影響では、完璧主義そのものの特徴や背景について詳しく扱っています。

セルフコンパッションが扱うのは、その基準をなくすことよりも、基準に届かなかった自分とどのように関わるかという部分です。

そのため、自分に厳しい基準を持っていることだけを理由に、セルフコンパッションが低いと判断することはできません。

また、自分を責めているときには、認知の歪みと呼ばれる思考の偏りが関係している場合もあります。

たとえば、1回の失敗から「私は何をやってもダメだ」と結論づける考え方は、出来事の解釈の仕方に関わる問題です。

認知の歪みが主に「何をどう考えているか」を見る概念なのに対して、セルフコンパッションは、その考えや感情を抱えている自分にどう関わるかを扱います。

同じ場面で両方が関係することはありますが、見ている心理の層は同じではありません。

過剰適応とも接点があります。

周囲の期待や基準に合わせることが強くなっていると、「期待に応えられなかった」「迷惑をかけた」と感じた場面で、強い自己批判につながる場合があります。

セルフコンパッションは過剰適応そのものの原因を説明する概念ではなく、その結果として自分を責めて苦しんでいる場面で関係する概念です。

反芻思考や感情調整とはどう関係する?

セルフコンパッションは、自分に向ける言葉だけに関係する概念ではありません。

苦しい出来事のあとに、思考や感情をどのように経験するかとも関連が研究されています。

ここでは、反芻思考と感情調整の2つに分けて見ていきます。

1. 反芻思考

1つ目は、反芻思考との関係です。

反芻思考とは、過去の出来事や嫌な感情について、同じ内容を何度も繰り返し考え続ける思考のパターンです。

失敗したあとに、

「あのとき違うことを言えばよかった」

「どうしてあんなことをしたんだろう」

「やっぱり自分はダメなのかもしれない」

と、答えが出ないまま同じ考えが何度も巡る状態もその一例です。

セルフコンパッションの3要素のうち、特にマインドフルネスと過剰同一化は、この反芻との関係を考えやすい部分です。

思考と完全に一体化していると、「私は失敗した」という出来事から「私はダメだ」という結論までが、一続きの現実のように感じられます。

マインドフルネスの側面では、「失敗について何度も考えている」という現在の思考そのものも認識の対象になります。

近年の研究レビューでも、セルフコンパッションと心理的な状態をつなぐ心理過程として、反芻や心配などの反復的なネガティブ思考が繰り返し検討されています。

反芻思考そのものの特徴や、考えが止まらなくなる状態については、反芻思考の特徴と内省との違いで詳しく扱っています。

2. 感情調整

2つ目は、感情調整との関係です。

感情調整は、感情が起きたときに、その感情の強さや持続時間、表現や受け止め方などを調整する心理的なプロセスを指します。

セルフコンパッションでは、苦しい感情を感じなくすることよりも、その感情を認識しながら関わる側面が含まれています。

たとえば、恥ずかしさや悲しさが出てきたときに、その感情をすぐに消そうとする方法と、「今かなり恥ずかしいと感じている」と認識する方法では、感情との関わり方が異なります。

セルフコンパッションとメンタルヘルスの関連を説明する仕組みの1つとして、感情調整が媒介する可能性も研究されてきました。

一方で、感情調整にはさまざまな方法があり、セルフコンパッションと感情調整を同じ意味で扱うことはできません。

感情抑圧との違いもここにあります。

感情抑圧は、感情を感じないようにしたり、表に出さないように抑えたりする方向を含む概念です。

セルフコンパッションのマインドフルネスでは、苦しい感情が存在していることを認識します。

そのため、「つらくないことにする」のではなく、「つらいと感じている自分がいる」という状態も含めて捉えます。

感情を感じにくくなっている状態については、感情を取り戻す方法|何も感じない原因と自分の気持ちを知る5ステップでも詳しく解説しています。

セルフコンパッションと混同されやすい考え方

セルフコンパッションは「自分に優しくする」という言葉だけで説明すると、自己憐憫や甘やかし、ポジティブ思考と近いものに見えることがあります。

実際には、それぞれが扱っている内容には違いがあります。

ここからは3つに分けて整理します。

1. 自己憐憫との違い

1つ目は、自己憐憫との違いです。

自己憐憫では、自分の苦しみに強く意識が集中し、「どうして自分だけがこんな目に遭うのか」という感覚が大きくなります。

セルフコンパッションには「共通の人間性」という要素があります。

そのため、自分の苦しみを認識すると同時に、失敗や苦しさそのものが人間に共通する経験でもあるという視点が含まれます。

さらに、マインドフルネスによって、苦しい感情に完全に飲み込まれている状態とも区別されます。

自分がつらいことを認める点では似ていますが、苦しみを「自分だけのもの」として閉じていくか、人間に共通する経験の中に位置づけるかという違いがあります。

2. 甘やかしとの違い

2つ目は、自分を甘やかすこととの違いです。

セルフコンパッションでは、自分がした行動や起きた結果を確認することと、自分自身を激しく攻撃することを分けて扱います。

たとえば、自分のミスによって誰かに迷惑をかけた場合、ミスを認めることや、謝ること、修正すること、次に同じことが起きないよう考えることは残ります。

セルフコンパッションが変えるのは、「責任を取るためには自分を痛めつけなければならない」という部分です。

失敗した自分を責め続けなければ反省できないとは限りません。

実験研究でも、失敗や弱点に対してセルフコンパッション的に反応した参加者で、改善や償いへの動機が高まった結果が報告されています。

そのため、セルフコンパッションは責任をなくす考え方ではなく、責任を考えることと自己攻撃を分ける概念として捉えられます。

「頑張れない=甘え」と考えて自分を責める心理については、頑張れないのは甘え?自分を責める前に読んでほしい5つの真実でも扱っています。

3. 前向き思考との違い

3つ目は、前向き思考との違いです。

セルフコンパッションは、ネガティブな気持ちをポジティブな気持ちに変えることそのものを目的とした概念ではありません。

失敗したときに、

「でも私は素晴らしい」

「きっと全部うまくいく」

「これはいい経験だった」

と考え直せなくても、セルフコンパッションは成立します。

マインドフルネスの要素では、「悔しい」「恥ずかしい」「悲しい」「失敗したと感じている」という現在の経験を認識します。

気持ちが前向きになることが結果として起きる場合はありますが、前向きな感情を作ること自体がセルフコンパッションの定義ではありません。

近しい概念とは何が違う?

セルフコンパッションに近い言葉として、自己受容、自己肯定感、自己価値、自己信頼などがあります。

どの概念も「自分との関係」に関わりますが、それぞれが見ている部分は同じではありません。

ここでは4つの概念との違いを整理します。

1. 自己受容との違い

1つ目は、自己受容との違いです。

自己受容は研究者や理論によって定義に幅がありますが、自分の性質や感情、弱さや現実を含め、自分自身を受け入れる態度を表す文脈で使われます。

セルフコンパッションにも、自分の苦しみや不十分さを否定せず認識する部分があるため、自己受容とは重なるところがあります。

違いが見えやすいのは、苦しみが起きた場面です。

自己受容が「この自分を受け入れられるか」という方向を含むのに対して、セルフコンパッションは「苦しんでいる自分に、どのような態度を向けるか」までを扱います。

その中に、自分へのやさしさ、共通の人間性、マインドフルネスという要素が含まれています。

つまり、自己受容はセルフコンパッションの一部と完全に同じものではなく、重なりながらも焦点の異なる概念です。

2. 自己肯定感との違い

2つ目は、自己肯定感との違いです。

「自己肯定感」という日本語は幅広い意味で使われています。

心理学研究でセルフコンパッションと直接比較されることが多いのは、セルフ・エスティーム(self-esteem)です。

セルフ・エスティームは、自分自身をどの程度肯定的、価値あるものとして評価しているかに関係します。

一方、セルフコンパッションでは、自分を高く評価できることを前提にしていません。

「今回はうまくできなかった」と評価している状態でも、その失敗によって苦しんでいる自分に思いやりを向けることは可能です。

ネフらの研究でも、セルフコンパッションとセルフ・エスティームは関連しながらも異なる概念として扱われています。

整理すると、自己肯定感が「自分をどう評価しているか」に関わるのに対して、セルフコンパッションは「評価が下がったときの自分をどう扱うか」に焦点があります。

自己肯定感そのものについては、自己肯定感が低いのはなぜ?原因・特徴・高め方を解説で詳しく扱っています。

3. 自己価値との違い

3つ目は、自己価値との違いです。

自己価値であるセルフ・ワース(self-worth)は、自分自身の価値をどのように感じているかに関わる概念です。

自己価値については、「何を根拠に自分の価値を感じているのか」という研究もあります。

たとえば、仕事がうまくいったときには「自分には価値がある」と感じ、失敗すると「自分には価値がない」と感じる場合、仕事上の成果と自己価値が強く結びついています。

セルフコンパッションは、その自己価値の高さそのものを測る概念ではありません。

「今、自分には価値がないように感じている」という苦しい状態にいる自分へ、どう関わるかという別の側面を扱います。

そのため、自己価値が揺れている状態でもセルフコンパッションは成立します。

4. 自己信頼との違い

4つ目は、自己信頼との違いです。

自己信頼は、自分の感覚や判断、選択、行動などをどの程度信頼できるかという自分との関係に関わります。

たとえば、「自分で決めても大丈夫だと思える」「うまくいかなかったとしても自分で考え直せる」といった感覚は、自己信頼に近い領域です。

セルフコンパッションは、自分の判断が正しいと信じられるかどうかを中心にした概念ではありません。

自分の判断が間違っていたとわかったときや、自分を信じられなくなったときにも、その苦しんでいる自分にどう関わるかを扱います。

自己信頼そのものについては、自己信頼感とは?自己肯定感・自己効力感との違いと高め方を解説で詳しく解説しています。

セルフコンパッションは苦しい自分との関わり方を表す概念

この記事では、セルフコンパッションの定義と3つの要素、失敗や自己批判との関係、自己憐憫や甘やかしとの違い、自己受容や自己肯定感などの近い概念との違いについて解説してきました。

セルフコンパッションが中心に置いているのは、常に自分を高く評価することではなく、苦しみや失敗、不十分さに直面したときの自分との関わり方です。

失敗した事実を認識すること、自分の責任を考えること、悔しさや恥ずかしさを感じることと、自分を激しく攻撃し続けることは、同じ心理過程ではありません。

セルフコンパッションは、そのような場面で起きる自己批判、孤立感、感情への巻き込まれと対になる自己との関係を捉えるための心理学的な概念です。