「自分の家族は普通だったのだろうか」
大人になってから人間関係や生きづらさを振り返る中で、機能不全家族という言葉にたどり着く人もいるでしょう。
機能不全家族という言葉は、家族というまとまりの中で、コミュニケーションや役割、感情のやりとり、境界線などがどのように機能していたかを見るための言葉です。
この記事では、機能不全家族とは何か、家族の中でどのような機能がうまく働かなくなるのか、大人になってからの生きづらさとどのように関係する可能性があるのかについて解説していきます。
Contents
機能不全家族とは?その定義を解説
機能不全家族とは、家族が生活していくうえで必要になる役割やコミュニケーション、感情のやりとり、問題解決などの機能がうまく働きにくくなっている家族を表す言葉です。
家族療法や家族研究では、家族を個人の集まりとして見るだけではなく、お互いに影響し合う1つのシステムとして捉えます。
代表的な家族機能の考え方であるマクマスター家族機能モデル(McMaster Model of Family Functioning)では、家族の機能を「問題解決」「コミュニケーション」「役割」「感情への反応」「感情的な関わり」「行動の調整」など複数の側面から捉えています。
たとえば、家族の中で問題が起きたときに話し合って解決できるか、自分の気持ちを伝えられるか、誰か1人に負担が集中していないかといったことも、家族機能を見る手がかりになります。
家族の中に問題や衝突がまったくないことを意味する概念ではありません。
問題が起きたときに家族の中でどのように扱われ、どのような関係パターンが繰り返されているのかまで含めて考えていく概念です。
機能不全家族では何がうまく働かなくなるのか
では、機能不全家族では何の機能がうまく働かなくなるのでしょうか。
一見すると問題のない家庭でも、気持ちを話せない、役割が固定されている、自分と相手の境界が曖昧になっているなど、家族の中で特定の機能が働きにくくなっていることがあります。
ここからは、家族機能を理解するための6つの視点から見ていきます。
1. 問題を話し合うコミュニケーション
1つ目に、問題を話し合うコミュニケーション機能がうまく働かなくなっているというケースです。
家族には、生活の中で起きた問題について話し合い、必要な情報や気持ちを伝え合う機能があります。
機能不全が強くなると、問題そのものについて落ち着いて話すことが難しくなることがあります。
たとえば、
- 困っていることを話すと怒られる
- 本音を言うと責められる
- 問題が起きても誰も触れない
- 話し合おうとすると喧嘩になる
- 家族の中で言ってはいけないことが増える
といった状態です。
家族の中で何か起きても問題そのものを扱えないため、誰かが我慢する、黙る、怒る、距離を取るといった方法で関係を保つようになる場合があります。
子どもにとっては、何を言えば安全なのかを周囲の反応から判断することが増え、自分の気持ちより家族の空気を読むことが優先されることもあります。
2. 家族の中での役割
2つ目に、家族の中での役割がうまく機能しなくなっている場合です。
家族にはそれぞれ役割がありますが、その役割は年齢や状況によって変化していくものです。
機能がうまく働かない家族では、特定の人に役割が固定されたり、本来の立場とは違う役割を背負ったりすることがあります。
たとえば、子どもが親の相談相手になったり、家族の喧嘩を止める役になったり、きょうだいの世話を過度に引き受けたりするケースです。
家族療法や発達研究では、子どもが親の感情や生活を支えるような役割逆転を「親役割化(parentification)」などの言葉で扱うことがあります。
家庭の事情によって子どもが家事やきょうだいの世話を手伝うこと自体が問題になるわけではありません。
子どもの年齢や力を超えた責任が長期間続き、自分の気持ちや必要としているものを後回しにしなければ家族が成り立たない状態になると、負担が大きくなります。
3. 感情を表現し受け止める関係
3つ目に、感情を表現し受け止める関係という機能が崩れていることもあるでしょう。
家族は、うれしい、悲しい、怖い、腹が立つといった感情を経験し、それを誰かと共有する場所でもあります。
家族機能の中には、相手の感情に気づき、状況に応じて反応することも含まれます。
この機能が働きにくい家庭では、
- 泣くと怒られる
- 怒ることを許されない
- 弱音を吐けない
- つらいと言っても取り合ってもらえない
- 親の感情だけが優先される
といったことが繰り返される場合があります。
すると子どもは、自分が何を感じているかより、「この感情を出したら家族はどう反応するか」を先に考えるようになることがあります。
その経験が続くと、自分の気持ちがわからなくなったり、感情を表に出すことに強い抵抗を感じたりすることもあります。
4. 自分と相手を分ける境界線
4つ目に、自分と相手を分ける境界線がうまく機能していない状態もあります。
家族療法では、自分と家族との間や、親と子どもの世代間にある心理的な区切りを「境界」として捉える考え方があります。
境界線が極端に曖昧になると、
- 親の機嫌を子どもが管理する
- 親の問題を子どもが解決しようとする
- 子どもの進路や人間関係に親が過度に入り込む
- 親への反対意見を持つことが難しい
- 家族と違う価値観を持つと強い罪悪感を覚える
といった状態が起こることがあります。
反対に、家族同士の境界が強く閉ざされ、困っていても助けを求められないほど心理的な距離が離れている場合もあります。
家族システムの中で考える境界線は、単に「距離を取ればいい」という話ではありません。
つながりを持ちながら、それぞれの感情や考え、責任を区別できることがポイントになります。
自分と相手の境界がわからなくなりやすい場合は、境界線という概念を知ることで、人間関係の見え方が変わることがあります。
5. ルールや行動を調整する力
5つ目に、ルールや行動を調整する力が機能していないというケースです。
どの家庭にも、その家庭なりのルールがあります。
生活時間やお金の使い方のように言葉になっているルールもあれば、「父親が怒っているときは黙る」「家のことは外で話さない」といった暗黙のルールもあります。
家族機能がうまく働いている場合は、状況や子どもの成長に合わせてルールを変えていくことができます。
一方で、家族の中に強い緊張や混乱があると、極端に厳しいルールが続いたり、そのときの親の気分によってルールが変わったりすることがあります。
同じことをしても昨日は何も言われなかったのに今日は怒られる状態では、子どもはルールそのものより周囲の機嫌を読む必要が出てきます。
何が起こるかわからない状況が続けば、常に先回りして危険を避けようとする行動につながることもあります。
6. 安心と一人ひとりの尊重
そして6つ目に、安心と一人ひとりの尊重が崩れてしまっているケースです。
家族の中では、お互いに関心を持ちながら、一人ひとりが別の考えや感情を持つ人間として扱われることも大切です。
家族への愛情や一体感が強くても、個人の意思や違いが認められなければ、自分自身として存在することが難しくなる場合があります。
たとえば、親と違う意見を言うと「裏切った」と受け取られたり、家族が望む進路を選ばなければ愛情を失うように感じたりするケースです。
反対に、家庭の中でほとんど関心を向けられず、困っていても気づいてもらえない状態が続くこともあります。
つながりを持ちながら、それぞれの感情や考え、人生が存在できることも家族機能の一部です。
機能不全家族で育つとどうなる?
では、機能不全家族で育った子どもはどうなるのでしょうか。
子どもは家庭の中で、人との関わり方や感情の扱い方、自分をどう捉えるかを少しずつ身につけていきます。
家庭の中で安心や尊重が得にくかったり、周囲に合わせることで関係を保っていたりすると、その関わり方が大人になってからも残ることがあります。
ここからは、生きづらさとして表れやすい傾向を4つに分けて見ていきます。
1. 人との関係で安心しにくくなる
家族の反応が予測しにくかったり、本音を言うことで関係が悪くなったりする環境では、人と関わるときに相手の反応を強く意識するようになります。
大人になってからも、相手の表情や言葉の変化に敏感になり、「嫌われていないか」「怒っていないか」と確認したくなる人もいます。
一方で、傷つくことを避けるために、親しくなる前から距離を取る人もいます。
人に近づきたい気持ちと、人を警戒する気持ちが同時に生まれやすいのも、こうした家庭環境と関連する対人パターンの1つです。
2. 自分の感情がわかりにくくなる
家庭の中で自分の気持ちを聞いてもらえなかったり、怒りや悲しみを表すことを止められたりすると、感情を表に出さないことが身につきます。
また、親の機嫌や家族の空気を読むことが優先されていた人は、自分の感情より周囲の状態に意識が向きやすくなります。
その状態が続くと、大人になってから「嫌なのに断れない」「つらいのに自分でも気づかない」「何がしたいのかわからない」といった形で表れることがあります。
感情そのものがなくなるのではなく、自分の感情に気づいて言葉にするまでに時間がかかりやすくなります。
3. 自分より相手を優先しやすくなる
家族の中で相手の機嫌を損ねないことや、期待に応えることが重視されていた場合、自分より相手を基準にして行動する癖が残りやすくなります。
「私はどうしたいか」よりも、「相手はどう思うか」「期待に応えられるか」を先に考えるようになります。
- 頼まれると断れない
- 相手が困っていると放っておけない
- 自分の希望を選ぶと申し訳なく感じる
こうした反応の背景には、家族の中で関係を保つために身につけた他者優先のパターンが関わっている場合があります。
境界線の引きにくさや罪悪感も、この延長で現れます。
4. 自分の価値を周囲の反応で決めやすくなる
家族の中で、期待に応えたときに認められる、失敗すると強く否定されるといった経験が続くと、自分の価値と周囲からの評価が結びつきやすくなります。
褒められているときは安心できても、否定されたり期待に応えられなかったりすると、自分そのものに価値がないように感じてしまいます。
そのため、仕事で成果を出し続けようとしたり、人から必要とされる役割を引き受け続けたりして、自分の価値を確かめようとする人もいます。
自己否定や罪悪感の強さも、こうした自己価値の持ち方とつながっていることがあります。
こうした影響を、大人になった本人側から捉える文脈では、アダルトチルドレンという言葉も使われます。
家庭環境だけで大人の生きづらさは決まるのか
子ども時代の家庭環境は、その後の人間関係や自分自身の捉え方に影響を与える要因の1つです。
ただし、家庭環境だけでその人の人生や人間関係が決まるわけではありません。
人の発達には、持って生まれた気質、学校や友人との関係、その後に出会った人、社会環境、人生経験など、さまざまな要素が関わっています。
だからこそ、自分が育った家庭を振り返るときは、「すべての原因は家族にある」と結論づけるよりも、家族の中でどのような関わり方を身につけ、それが今の自分にどう残っているのかを見ていく方が、自分の生きづらさを理解しやすくなります。