人生や人間関係に悩み、心理療法や心のしくみについて調べていく中で「インナーチャイルド」という言葉を目にする人もいるでしょう。
「傷ついたインナーチャイルドを癒すと生きづらさが和らぐ」といった説明もありますが、そもそもインナーチャイルドとは何を指す言葉なのでしょうか。
この記事では、インナーチャイルドの意味や傷つく背景、大人になってからの現れ方、癒し方について解説していきます。
Contents
インナーチャイルドとは?その定義を解説
インナーチャイルド(inner child)とは、直訳すると「内なる子ども」という意味で、子どもの頃の感情や欲求、体験の記憶などを、現在の自分の中にいるもう一人の幼い自分として捉える心理的な概念です。
私たちは大人になるまでにさまざまな経験を重ね、考え方や価値観を形成していきます。その一方で、子どもの頃に感じた喜びや悲しみ、寂しさ、誰かに認めてほしかった気持ちなども、現在の感情や人間関係の捉え方に影響していると考えられています。
インナーチャイルドは、こうした幼少期の自分の感情や欲求を「心の中の子ども」という姿で理解するためのイメージです。
そのため、インナーチャイルドには、子どもらしい好奇心や喜び、自由な感性といった肯定的な側面も含まれます。
一方、幼少期に強い悲しみや恐怖を感じたり、自分の気持ちを十分に表現できなかったりした経験があると、そのときの感情を抱えたまま大人になると考えられています。
心理療法や自己理解の場では、こうした状態を「インナーチャイルドが傷ついている」と表現し、その傷つきが、大人になってからの人間関係の悩みや生きづらさにつながっていると捉えます。
インナーチャイルドが傷つく背景
では、インナーチャイルドはどのような経験によって傷つくのでしょうか。
子どもは周囲の大人や友人との関係を通じて、自分の気持ちの表し方や人との関わり方を学んでいきます。
その過程で、自分の感情や欲求を十分に受け止めてもらえなかった経験などが、インナーチャイルドの傷つきにつながると考えられています。
1. 感情を受け止めてもらえなかった経験
子どもが悲しんだり、寂しがったり、怒ったりしても、その気持ちを周囲の大人に受け止めてもらえない経験です。
例えば、悲しくて泣いているときに「そんなことで泣かないの」と叱られたり、寂しくて甘えたいときに「もう大きいんだから」と突き放されたりする場面などです。
こうした経験が繰り返されると、子どもは自分の感情を表現することに抵抗を感じ、悲しさや寂しさを心の中にしまい込むようになると考えられています。
そのとき表現できなかった感情が、傷ついたインナーチャイルドのイメージにつながります。
2. 周囲の期待に合わせて自分を抑えた経験
親や教師など、周囲の人の期待に応えようとして、自分の気持ちや希望を抑えてきた経験です。
例えば、本当は嫌だと思っていても「いい子でいなければいけない」と我慢したり、自分のやりたいことより親が喜ぶことを優先したりする場面です。
周囲に認めてもらうために自分の気持ちを後回しにする経験が続くと、次第に自分が何を望んでいるのか、何を嫌だと感じているのかがわかりにくくなる場合もあります。
インナーチャイルドの考え方では、そのような幼い頃の満たされなかった欲求も、現在の自分の中に残っていると捉えます。
3. 安心できない環境で過ごした経験
家庭や学校などで、安心して過ごすことが難しかった経験も、インナーチャイルドの傷つきに関係すると考えられています。
例えば、親の機嫌によって態度が大きく変わったり、家庭内で頻繁に激しい言い争いが起きていたり、学校でいじめを受けたりした経験です。
こうした環境では、子どもは自分の気持ちを表すことよりも、周囲の様子をうかがい、危険を避けることに意識を向けやすくなります。
その頃に感じていた怖さや不安が、大人になってからの対人関係にも影響すると考えられています。
傷ついたインナーチャイルドが表れる場面
では、傷ついたインナーチャイルドは、大人になってからどのような形で表れるのでしょうか。
自分の中にインナーチャイルドがいると意識しないまま、大人になる人がほとんどでしょうし、日々忙しく過ごしていると、子どもの頃に感じた悲しみや寂しさについて思い出す機会も少ないでしょう。
ただ、傷ついたインナーチャイルドは普段意識されていないだけで「存在はしている」という状態のため、ちょっとした出来事をきっかけに呼び起こされると考えられています。
ここでは代表的な3つを解説します。
1. 否定されたときに強く傷つく
職場で上司から仕事の進め方を指摘されたとき、単なる改善点の話なのに、自分の人格そのものを否定されたように感じ、必要以上に落ち込んでしまう人がいます。
頭では仕事に対する指摘だと理解していても、「自分はダメな人間だ」と感じてしまい、帰宅してからも上司の言葉が頭から離れない。
子どもの頃に失敗を厳しく責められたり、繰り返し否定されたりした経験があると、現在の指摘によって、当時の悲しさや無力感が呼び起こされると考えられています。
2. 相手の態度が変わると嫌われたと不安になる
恋人からの返信がいつもより遅かったり、友人の態度が少しそっけなかったりすると、「嫌われたのではないか」と強い不安を感じる反応です。
こうした不安が強いと、次のような行動につながりやすくなります。
- 相手の表情や言葉遣いを細かく気にする
- 自分が何か悪いことをしたのではないかと考え続ける
- 相手の機嫌を取ろうとして必要以上に気を遣う
- 嫌われていないか確かめるために何度も連絡する
子どもの頃に親の機嫌をうかがって過ごしていたり、愛情を失うことへの不安を強く感じていたりすると、現在の人間関係でも、幼い頃の怖さや寂しさが呼び起こされると考えられています。
3. 自分の意見を伝える場面で相手に合わせる
職場の会議で意見を求められたとき、本当は違う考えを持っているのに、周囲と意見が対立することを恐れて、相手に合わせてしまう反応です。
自分の意見を伝えたい気持ちはあっても、否定されたり、相手を不機嫌にさせたりすることへの不安が強く、結局何も言えずに終わってしまいます。
こうした反応は職場だけでなく、友人との予定を決める場面や、家族に自分の希望を伝える場面にも表れます。
子どもの頃に自分の気持ちを伝えても受け止めてもらえなかったり、周囲の期待に合わせることで安心を得ていたりした経験があると、大人になってからも自分の感情や欲求を抑える反応につながると考えられています。
インナーチャイルドを癒すとは?
では、心理療法などで使われる「インナーチャイルドを癒す」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。
インナーチャイルドを癒すとは、子どもの頃に十分に受け止められなかった感情や、満たされなかった欲求を、現在の自分が理解し、受け止め直していくことを指します。
例えば、幼い頃に親から十分に愛情を感じられず、寂しさや不安を抱えていた人が、大人になってからも「人に嫌われるのが怖い」「いつか見捨てられるのではないか」と感じているとします。
インナーチャイルドの考え方では、その不安の背景に、幼い頃の自分が抱えていた寂しさや、愛情を求める気持ちが残っていると捉えます。
そして、当時の自分がどれほど寂しかったのか、本当は何を求めていたのかを理解することで、過去の感情に対する受け止め方を変え、現在の人間関係で繰り返している不安や反応を和らげていくことを目指します。
こうした心の変化を、インナーチャイルドを「癒す」と表現しているのです。
インナーチャイルドを癒す方法
では、傷ついたインナーチャイルドを癒すためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
インナーチャイルドを癒す取り組みでは、現在の自分が感じている感情を手がかりに、子どもの頃の経験や当時の気持ちを振り返っていきます。
ここでは、基本的な3つの方法を紹介します。
1. 今の自分の感情を言葉にする
最初は、現在の自分が感じている感情を、できるだけ具体的な言葉にしていきます。
例えば、友人に誘いを断られてひどく落ち込んだとき、単に「嫌な気分になった」で終わらせず、その出来事によってどのような感情が生まれたのかを整理します。
- 誘いを断られて寂しかった
- 自分だけ仲間外れにされたようで悲しかった
- 相手にとって自分は大切ではないと感じた
- また嫌われるのではないかと怖くなった
同じ出来事でも、何を感じるかは人によって異なります。また、一つの出来事に対して、悲しさや怒り、不安など、複数の感情が重なっている人もいるでしょう。
こうして感情を具体的にすることで、自分が何に傷ついたのか、どのような気持ちを抱えているのかが見えやすくなります。
2. 子どもの頃の経験とのつながりを振り返る
次に、現在感じている感情と似た気持ちを、子どもの頃にも経験していなかったかを振り返ります。
例えば、友人に誘いを断られて「自分は大切にされていない」と感じた場合、幼い頃にも同じような寂しさを感じた経験がなかったかを考えます。
親が忙しくて話を聞いてもらえなかった経験や、友達の輪に入れずに寂しかった経験などが思い浮かぶかもしれません。
現在の出来事を振り返っているうちに、当時も同じように寂しさを感じていたことや、その気持ちを誰にも伝えられなかったことに気づく人もいるでしょう。
このように、現在の感情と子どもの頃の経験を照らし合わせながら、幼い自分がどのような気持ちを抱えていたのかを理解していきます。
3. 当時の自分が求めていたものを考える
子どもの頃の経験を振り返ったら、当時の自分が本当は何を求めていたのかを考えます。
例えば、親に話を聞いてもらえず寂しかった経験があるなら、本当はどのように接してほしかったのかを思い浮かべます。
- もっと一緒に過ごしてほしかった
- ちゃんと話を聞いてほしかった
- 寂しい気持ちをわかってほしかった
など、当時は言葉にできなかった願いが見えてくるかもしれません。
インナーチャイルドワークでは、こうした幼い頃の自分を心の中でイメージし、「寂しかったね」「本当はもっと甘えたかったんだね」と、現在の自分が当時の気持ちに寄り添う方法も用いられています。
幼い頃の自分が抱えていた感情や欲求を理解し、現在の自分が受け止め直していくというアプローチです。
なお、過去のつらい経験を振り返ることで強い苦痛が生じる人には、心理職などの専門家の支援を受けながら進める方法もあります。
インナーチャイルドは過去と今を結ぶ
この記事では、インナーチャイルドの意味や傷つく背景、大人になってからの現れ方、癒し方について解説してきました。
インナーチャイルドという考え方では、子どもの頃に抱えた感情や満たされなかった欲求が、現在の人間関係や心の反応にも影響していると捉えます。
そのため、この考え方から今の自分が感じている不安や生きづらさを見ることで、幼少期の経験と今の経験との関係がより深く理解できます。
もし自分のインナーチャイルドがひどく傷ついているようであれば、大人になった今の自分が改めて過去の自分を癒すことで、今後の人生の生きづらさも解消する方向に向かうでしょう。