「本当は嫌だったのに何も言えなかった」
「悲しいはずなのに涙が出ない」
そんな状態が続いて「私は感情を抑圧しているのかもしれない」と感じている人も少なくないでしょう。
この記事では、感情抑圧の意味と感情抑制との違い、感情を抑える背景や起こりやすい変化、抑えてきた感情との向き合い方について解説していきます。
Contents
- 感情抑圧とは?その定義を解説
- 感情抑圧と似ている心の働き
- 1. 意識的に表現を抑える感情抑制
- 2. 感情に触れることを避ける回避
- 3. 無意識に意識から遠ざける抑圧
- なぜ感情を抑えるようになるのか
- 1. 感情を出すことを否定されてきた
- 2. 周囲に合わせることを優先してきた
- 3. 感情を表して傷ついた経験がある
- 4. 感情を後回しにしなければならない状況が続いた
- 感情を抑え続けるとどうなる?
- 1. 自分の気持ちが分かりにくくなる
- 2. 本音を言うことが難しくなる
- 3. あとから涙や怒りがあふれることがある
- 抑えてきた感情とどう向き合うか
- 1. 自分の中にある感情に気づく
- 2. 抑える必要があった背景を振り返る
- 3. 感じることと伝えることを分ける
- 4. 安全な形で少しずつ表現する
- 感情抑圧を理解するために
感情抑圧とは?その定義を解説
感情抑圧とは、一般的には、怒りや悲しみ、寂しさ、不満などの感情を自分の中に押し込め、感じたり表現したりしないようにすることを指して使われています。
感情を抑える心の働きについて、心理学では抑制(suppression)と抑圧(repression)を区別して考えています。
アメリカ心理学会(APA)の心理学辞典では、抑制は、不快な考えを意識的に頭から遠ざけたり、感情や衝動の表現を意識的に抑えたりすることとされています。
一方、抑圧は、古典的な精神分析理論において、苦痛な経験や受け入れがたい衝動などを無意識のうちに意識から締め出す防衛機制として説明されています。
たとえば、腹が立っていることは分かっているものの、「今は仕事中だから態度には出さない」と考えて平静を保つのは、意識的な感情抑制に近い状態。
自分にとって受け入れがたい感情などが無意識のうちに意識から遠ざけられている場合は、防衛機制としての抑圧という区分けです。
感情抑圧と似ている心の働き
「感情を抑える」という言葉は、実際にはいくつかの異なる心の働きを含んでいます。
自分の感情に気づいているのか、意識的に表現を抑えているのか、感情に触れること自体を避けているのかによって、起きていることは変わります。
ここでは、感情抑圧と混同されやすい心の働きを3つに分けて見ていきます。
1. 意識的に表現を抑える感情抑制
感情抑制は、自分が何を感じているのかを分かったうえで、その感情を言葉や表情、行動には出さないことです。
心理学では、感情の外への表現を抑えることを表出抑制(expressive suppression)と呼びます。
たとえば、腹が立っていても仕事中は冷静に話す、人前では涙をこらえる、相手を傷つけそうな言葉をその場では口にしない、といった状態です。
感情そのものがなくなったわけではなく、「感じているけれど表には出さない」という点が特徴です。
2. 感情に触れることを避ける回避
回避(avoidance)は、つらい感情が起こりそうな状況や話題から距離を取ることです。
たとえば、思い出すと悲しくなる出来事について考えないようにしたり、気まずい話になるのが怖くて相手との話し合いを避けたりすることがあります。
感情を感じながら表現を抑える感情抑制とは異なり、回避では感情に触れるきっかけそのものから離れようとします。
3. 無意識に意識から遠ざける抑圧
抑圧(repression)は、自分にとって受け入れがたい感情や経験などが、無意識のうちに意識から遠ざけられる心の働きです。
「怒っているけれど言わない」と自覚している感情抑制とは異なり、本人自身がその感情に気づいていないことがあります。
古典的な精神分析では、この抑圧は心を守る防衛機制の1つとして説明されています。
なぜ感情を抑えるようになるのか
感情を抑えるようになる背景には、これまで感情をどのように扱われてきたかや、人との関係の中でどのような経験をしてきたかが関係します。
ここからは、感情を抑えることが身についていく背景を4つに分けて見ていきます。
1. 感情を出すことを否定されてきた
まず考えられるのが、感情を表したときに否定された経験から、感情を抑えるようになるケースです。
子どもの頃から感情を出すたびに、
「泣かないの」
「怒るのはみっともない」
「そんなことで悲しむの?」
などと言われていると、感情を表に出すことに抵抗を感じるようになることがあります。
家庭だけでなく、学校や友人関係の中で感情を笑われたり、軽く扱われたりした経験が影響することもあります。
こうした経験が重なると、感情が生まれたときに表現するより先に、自分の中へ引っ込めることが増えていきます。
2. 周囲に合わせることを優先してきた
2つ目は、自分の気持ちより周囲との関係を優先するために、感情を抑えるようになったケースです。
「嫌われたくない」「空気を悪くしたくない」「迷惑をかけたくない」という思いが強いと、自分がどう感じているかより、相手がどう感じるかを先に考えやすくなります。
たとえば、
- 本当は嫌でも笑って受け入れる
- 腹が立っていても「大丈夫」と答える
- 断りたいのに相手に合わせる
といったことが続きます。
周囲に合わせることが当たり前になるほど、自分の感情を表す前に抑えることも増えていきます。
人の目が気になって周りに合わせすぎてしまう心理については、別の記事で詳しく解説しています。
3. 感情を表して傷ついた経験がある
3つ目は、自分の感情を表したことで傷ついた経験から、感情を抑えるようになったケースです。
たとえば、
- 本音を伝えたら否定された
- 泣いたら責められた
- 怒ったら相手との関係が悪くなった
- 助けを求めても受け止めてもらえなかった
といった経験です。
こうしたことが繰り返されると、感情を表すことに怖さを感じるようになります。
「言ったらまた傷つく」「出さない方が安全だ」と感じるようになり、感情を自分の中にしまうことが増えていきます。
本音を伝えたいのに言葉にできない状態については、言いたいことが言えないのはなぜ?意見や本音を言えない理由と伝え方で詳しく扱っています。
4. 感情を後回しにしなければならない状況が続いた
4つ目は、自分の感情を後回しにしなければならない状況が続いていたことで、感情を抑えるようになったケースです。
怒っていてもその場を回さなければならない。
悲しくても誰かを支えなければならない。
つらくても仕事や家事を続けなければならない。
そのような状況では、自分の感情をいったん横に置いて行動することがあります。
それが長く続くと、何かを感じたときに立ち止まるよりも、先に感情を抑えて動くことが習慣になっていきます。
自分が感情を抑えやすい場面を振り返ると、「どんな感情を抑えているのか」だけでなく、「どんな状況で抑えることが身についたのか」も見えてきます。
感情を抑え続けるとどうなる?
感情を一時的に抑えることは、日常のさまざまな場面で起こります。
一方で、自分の感情を抑えることが習慣になると、自分の気持ちの捉え方や人への伝え方にも変化が表れることがあります。
ここからは、感情を抑え続けたときに起こりやすい3つの変化を見ていきます。
1. 自分の気持ちが分かりにくくなる
感情を抑えることが続くと、自分が何を感じているのかをつかみにくくなることがあります。
何かを感じるたびに「気にしない」「大丈夫」「考えても仕方ない」と処理していると、自分の反応を確かめる機会が少なくなっていきます。
最初は「怒っているけれど言わない」と分かっていたものが、次第に「私は本当はどう感じているんだろう」と分からなくなることもあります。
自分の気持ちそのものが分からなくなっている場合は、感情を取り戻す方法|何も感じない原因と自分の気持ちを知る5ステップで詳しく扱っています。
2. 本音を言うことが難しくなる
感情を飲み込むことが習慣になると、本音を言葉にする前に抑えるようになりやすくなります。
「本当は嫌だった」「寂しかった」「それはやめてほしい」と感じても、相手に伝える前に「まあいいか」「言わない方がいい」と引っ込めてしまいます。
それが続くと、自分の気持ちは分かっているのに言えない状態から、何を伝えたいのか自体が分からない状態へ進むこともあります。
本音や意見を人に伝えられない背景については、言いたいことが言えないのはなぜ?意見や本音を言えない理由と伝え方で詳しく解説しています。
3. あとから涙や怒りがあふれることがある
その場では感情を抑えられていても、あとになって感情が強く表れることがあります。
たとえば、
- 帰宅した途端に涙が出る
- 小さなきっかけで急に怒りが強くなる
- 本音を伝えようとすると涙が出る
といった形です。
その場では表現しなかった感情が、時間が経ってから自分の中ではっきりしてくることもあります。
特に、本音を話そうとすると涙が出てしまう場合は、本音を言おうとすると涙が出るのはなぜ?理由と本音を伝える方法で詳しく扱っています。
抑えてきた感情とどう向き合うか
この記事では、感情抑圧と感情抑制の違いから、感情を抑えるときの心の働き、抑えるようになる背景、その状態が続いたときに起こりうる変化まで解説してきました。
長いあいだ感情を抑えてきた場合、急にすべてを表に出そうとする必要はありません。
ここからは、抑えてきた感情と向き合うための4つの視点を見ていきましょう。
1. 自分の中にある感情に気づく
1つ目は、まず自分の中で何が起きているのかに気づくことです。
「私は怒っている」「私は悲しい」と正確に言葉にできなくても構いません。
「なんとなく嫌だった」「胸が重い」「少しホッとした」「あの言葉が引っかかる」といった小さな反応も、自分の感情を知る手がかりになります。
これまで感情を抑えることが習慣になっていた人ほど、最初から「本当の気持ち」を見つけようとすると分からなくなることがあります。
まずは、今ここで起きている小さな反応をそのまま認識するところから始めます。
2. 抑える必要があった背景を振り返る
2つ目は、なぜその感情を抑えるようになったのかを振り返ることです。
- 怒ってはいけないと思うようになったのはいつからなのか
- 悲しい顔を見せることが怖いのはなぜなのか
- 誰の前で特に本音を言えなくなるのか
自分がどのような場面で感情を抑えやすいのかが分かると、今もその方法が必要なのかを考えやすくなります。
3. 感じることと伝えることを分ける
3つ目は、自分の感情に気づいたうえで、その感情をいつ、どのように表現するかを選ぶことです。
「私は怒っている」「私は悲しい」「私は傷ついた」と気づくことで、まず自分の中で起きていることを理解できます。
そのうえで、今伝えるのか、少し時間を置くのか、言葉を整理してから伝えるのかを選べます。
感情に気づくことと、その感情をどう表現するかは、それぞれ分けて考えることができます。
この2つを分けられるようになると、自分の感情を理解したまま、状況に合った伝え方を選びやすくなります。
4. 安全な形で少しずつ表現する
4つ目は、自分が扱いやすい形から感情を表現していくことです。
たとえば、
- 紙に書いてみる
- ひとりで言葉にしてみる
- 信頼できる人に話してみる
- 伝えたい内容を整理してから相手に話す
といった方法があります。
自分の中にある感情を言葉にしたり、外に表したりすることで、「自分は何を感じていたのか」が少しずつ見えやすくなります。
感情との向き合い方をさらに深めたい場合は、自己対話で“感情”との関係を深める方法でも詳しく解説しています。
感情抑圧を理解するために
この記事では、感情抑圧の意味や感情抑制との違い、感情を抑えるようになる背景、抑え続けたときに起こりやすい変化について解説してきました。
感情を抑えているように見えても、自分では感情に気づいている場合もあれば、感情に触れることを避けていたり、無意識のうちに意識から遠ざけていたりする場合もあります。
自分がどのように感情と関わっているのかを知ることで、これまで気づきにくかった自分の気持ちや、感情を抑えやすい場面も整理しやすくなります。