私たちは普段から、自分自身について「私は責任感が強い人間だ」「私は飽き性である」など、さまざまな認識を持っています。
こうした「自分はどんな人間なのか」という自分についての捉え方に関係する心理学の概念が、自己概念です。
普段は意識していなくても、自分についてどんな認識を持っているかによって、出来事の受け取り方や選ぶ行動が変わることがあります。
この記事では、自己概念の意味や形成される仕組み、似ている言葉との違い、自分の自己概念を見つめ直す方法について解説していきます。
Contents
- 自己概念とは?その定義を解説
- 自己概念はさまざまな側面からできている
- 1. 身体についての自己概念
- 2. 能力についての自己概念
- 3. 人との関係についての自己概念
- 4. 感情や性格についての自己概念
- 5. 価値観や役割についての自己概念
- 自己概念はどう作られていくのか
- 1. 自分の経験から形づくられる
- 2. 他者からの反応を取り込んでいく
- 3. 役割や環境の変化で更新される
- 似ている言葉との違い
- 1. 自己価値との違い
- 2. 自己肯定感との違い
- 3. 自己信頼感との違い
- 4. アイデンティティとの違い
- 5. 自分軸との違い
- 自己概念は行動や選択にも影響する
- 1. 出来事の受け取り方に影響する
- 2. 選びやすい行動に影響する
- 3. 今の経験と合わなくなることがある
- 自分の自己概念を見つめ直す3つの問い
- 1. 私はどんな人だと思っているか
- 2. その捉え方はどこから来たか
- 3. 今の私にも当てはまるか
- 自己概念から今の自分を読み解く
自己概念とは?その定義を解説
自己概念とは、セルフ・コンセプト(self-concept)の訳語で、自分自身について持っている認識や評価のまとまりを指します。
アメリカ心理学会(APA)の心理学用語辞典では、自己概念を、自分の心理的・身体的な特徴、性質、能力、役割などについての記述や評価として説明しています。
自己概念は、長い時間の中で「自分は何者なのか」というアイデンティティの感覚にも関わっています。
たとえば、次のような認識はどれも自己概念の一部です。
- 私は人見知りだ
- 私は仕事では慎重なタイプだ
- 私は人の面倒を見ることが多い
- 私は運動が苦手だ
- 私は感情を表に出さない
- 私は家族を大切にする人間だ
自己概念は「自分について知っている事実」だけでできているわけではありません。
経験をどのように受け取ってきたかや、周囲からどのように扱われてきたかも、自分についての認識に入り込んでいきます。
そのため、同じような経験をしていても、そこから作られる自己概念は人によって異なります。
自己概念はさまざまな側面からできている
自己概念は「自分はいい人間だ」「自分はダメな人間だ」といった1つの評価だけでできているものではありません。
心理学では、自己概念は1つの特徴だけでなく、複数の領域から成り立つ多面的なものとして捉えられてきました。
1976年には、アメリカの教育心理学者リチャード・J・シャベルソン(Richard J. Shavelson)らが、自己概念を多次元かつ階層的に捉えるモデルを示しています。
このモデルでは、自己概念には社会的・情動的・身体的な側面などがあり、さらに細かな領域へ分かれていくと考えます。
分け方は研究モデルによって異なりますが、自分の自己概念を理解するときには、次のような側面から考えるとわかりやすくなります。
1. 身体についての自己概念
身体についての自己概念は、自分の外見や体力、健康状態などをどのように捉えているかという認識です。
たとえば次のようなものがあります。
- 私は体力がある
- 私は背が低い
- 私は見た目に自信がない
身体そのものの客観的な特徴と、それを本人がどう捉えているかは必ずしも同じではありません。
自己概念として重要なのは、本人が自分についてどのような認識を持っているかという点です。
2. 能力についての自己概念
能力についての自己概念は、自分には何ができるのか、何が得意なのか、何が苦手なのかという認識です。
たとえば次のようなものがあります。
- 私は文章を書くのが得意だ
- 私は数字に弱い
- 私は人前で話すのが苦手だ
同じ人の中でも、仕事については自信がある一方で、人間関係については苦手意識を持っているなど、領域によって自己概念は異なります。
3. 人との関係についての自己概念
人との関係についての自己概念は、周囲の人との関係の中で自分をどのような存在として捉えているかという認識です。
たとえば次のようなものがあります。
- 私は人に頼られることが多い
- 私は集団の中では目立たない
- 私は人から嫌われやすい
人間関係に関する自己概念は、過去の対人経験や周囲から受け取ってきた反応とも深く関係しています。
4. 感情や性格についての自己概念
自分の感情や性格について、どのような人間だと思っているかも自己概念の一部です。
たとえば次のような認識があります。
- 私は心配性だ
- 私は感情的になりやすい
- 私は我慢強い
- 私は冷静なタイプだ
何度も経験した反応から「私はこういう人間だ」と考えるようになる場合もあれば、周囲から繰り返し言われた言葉を自分の性格として取り込んでいる場合もあります。
5. 価値観や役割についての自己概念
自分が何を大切にしているか、社会や家庭の中でどんな役割を持っているかも、自分についての認識を作っています。
たとえば次のようなものがあります。
- 私は家族を大切にする人間だ
- 私は人の役に立つことを大切にしている
- 私は母親だ
- 私はこの仕事の専門家だ
APAの定義でも、自己概念には個人の特徴や能力だけでなく、社会的な役割も含まれています。
仕事や家族構成、所属する場所が変わったときに「これまでの自分ではいられない」と感じることがあるのは、こうした役割も自分についての認識の一部になっているからです。
自己概念はどう作られていくのか
自己概念は、最初から完成した形で存在しているものではなく、経験を重ね、人と関わり、自分自身について考える中で少しずつ形成されていきます。
ここからは、自己概念が形づくられる主な経路を3つに分けて見ていきます。
1. 自分の経験から形づくられる
まず大きいのが、自分自身の経験です。
何かに成功した経験が重なれば「私はこれが得意だ」という自己概念が作られやすくなります。
反対に、同じような失敗を繰り返せば「私はこれが苦手だ」と考えるようになることもあります。
たとえば、人前で話したときに何度も緊張した経験から「私は人前で話せない人間だ」と考えるようになることがあります。
ここで自己概念になっているのは「緊張した」という経験そのものではなく、その経験から導き出された「私はこういう人だ」という自分についての理解です。
2. 他者からの反応を取り込んでいく
自己概念は、自分1人だけで作られるものでもありません。
アメリカの社会学者チャールズ・ホートン・クーリー(Charles Horton Cooley)が提唱した、ルッキンググラス・セルフ(looking-glass self/鏡映的自己)では、他者から自分がどう見られていると感じるかを通して、自分自身についての見方が形づくられていくと考えます。
たとえば、次のような形です。
- 「しっかりしているね」と何度も言われてきたことで「私はしっかりしている人間だ」と思うようになる
- 「おとなしい子だね」と言われ続けたことで「私は人前に出るタイプではない」と考えるようになる
このように、周囲から受け取った言葉や反応が、自分自身を見るための材料になることがあります。
3. 役割や環境の変化で更新される
自己概念は、一度できたら一生変わらないものでもありません。
自己概念については、ある程度の安定性を持ちながらも、状況や経験に応じて変化する動的な側面が研究されています。
人生の中では、たとえば次のような変化が起こります。
- 学生から社会人になる
- 転職して仕事が変わる
- 結婚する
- 親になる
- 離婚する
- 子どもが独立する
役割や環境が変われば、それまでの「私はこういう人間だ」という理解が合わなくなることがあります。
新しい経験を重ねる中で、それまで持っていた自己概念が修正されたり、新しい側面が加わったりしていきます。
似ている言葉との違い
自己概念の周辺には、自分について説明する言葉が数多くあります。
自己価値や自己肯定感、自己信頼感、アイデンティティ、自分軸などは互いに関係していますが、見ている部分が少しずつ異なります。
ここでは5つの言葉との違いを整理します。
1. 自己価値との違い
自己概念が「私はどんな人間だと思っているか」だとすれば、自己価値は「そんな自分にはどれくらい価値があると思っているか」に近い概念です。
心理学で自己価値に近い概念として扱われるセルフ・ワース(self-worth)は、自分自身を価値ある存在としてどの程度評価しているかに関わる概念です。
たとえば、次の2つでは見ている部分が異なります。
- 「私は仕事が遅い」=自分についての認識
- 「仕事が遅い私は価値がない」=自分の価値についての判断
前者は自己概念にあたり、後者は自己価値の領域に入ってきます。
自己概念が「自分をどのような人間だと捉えているか」を表すのに対して、自己価値は「その自分にどのような価値を感じているか」に焦点があると考えると、違いがわかりやすくなります。
自己価値の意味については、「自己価値とは?」で詳しく解説しています。
2. 自己肯定感との違い
自己肯定感は日本語では幅広い意味で使われていますが、心理学で近い概念の1つがセルフ・エスティーム(self-esteem)です。
アメリカ心理学会(APA)の心理学用語辞典では、セルフ・エスティームを、自分自身の性質や特徴をどの程度肯定的に評価しているかに関わる概念として説明しています。
たとえば「私はおとなしい人間だ」という認識があるとします。
そこから生まれる評価には、次のようなものがあります。
- おとなしい自分も悪くない
- こんな自分ではダメだ
「私はおとなしい」という自分についての認識が自己概念です。
一方で、その特徴を自分がどのように評価し、受け止めているかは、自己肯定感やセルフ・エスティームと関係します。
自己概念が「私はどんな人間だと思っているか」を表すのに対して、自己肯定感は「そんな自分をどのように評価し、受け止めているか」に焦点があると考えると、違いがわかりやすくなります。
自己肯定感が低くなる原因や特徴、向き合い方については、「自己肯定感が低いのはなぜ?原因・特徴・高め方を解説」で詳しく解説しています。
3. 自己信頼感との違い
自己信頼感は、自分の感情や判断、選択などをどの程度信頼できるかという「自分との関係」に関わる概念です。
違いを整理すると、次のようになります。
- 「私は優柔不断な人間だ」=自己概念
- 「迷うことがあっても、自分で考えて選んでいける」=自己信頼感
自己概念が「自分をどのような人間だと捉えているか」を表すのに対して、自己信頼感は「その自分の感情や判断をどの程度信頼できるか」に焦点があります。
自分についてどのような認識を持っているかと、その自分をどの程度信頼できるかは関連しますが、同じものではありません。
自己信頼感の意味や、自己肯定感・自己効力感との違いについては、「自己信頼感とは?」で詳しく解説しています。
4. アイデンティティとの違い
アイデンティティ(identity)は自己概念と非常に近い言葉です。
APAでは、アイデンティティを身体的・心理的・対人的特徴や社会的役割などによって形づくられる自己の感覚として説明しています。
そこには、時間がたっても「自分は自分である」と感じられる連続性や、自分の記憶、目標、価値観、信念なども含まれます。
違いを簡単に整理すると、次のようになります。
- 自己概念=私はどんな人間だと思っているか
- アイデンティティ=私は何者なのかというまとまりのある自己感覚
たとえば自己概念には、次のような認識があります。
- 私は人見知りだ
- 私は責任感が強い
一方で、次のような問いはアイデンティティの問題とも深く関係しています。
- 仕事を辞めたら私は何者なのだろう
- 母親として生きてきたけれど、これから私はどう生きたいのだろう
自己概念はアイデンティティを形づくる材料の1つでもあり、両者は完全に切り離せるものではありません。
APAも、自己概念が時間を通じたアイデンティティの感覚に寄与すると説明しています。
5. 自分軸との違い
自分軸は、自分の価値観や気持ちを基準にして、物事を選んだり判断したりするあり方を表す言葉です。
違いを整理すると、次のようになります。
- 「私は周りに合わせやすい人間だ」=自己概念
- 「周りの意見も聞きながら、自分がどうしたいかを基準に選ぶ」=自分軸
自己概念が「自分をどのような人間だと捉えているか」を表すのに対して、自分軸は「何を基準に判断し、選択していくか」に焦点があります。
自分についての認識は、自分軸にも影響しますが、自己概念そのものと自分軸は同じものではありません。
自分軸の意味や他人軸との違いについては、「自分軸とは?」で詳しく解説しています。
自己概念は行動や選択にも影響する
自己概念は、頭の中にある自己紹介のような情報だけではありません。
自分についての捉え方は、出来事の解釈や判断、行動にも関係します。
ここからは、自己概念が日常の中でどのように働くのかを3つの視点から見ていきます。
1. 出来事の受け取り方に影響する
自分についてどんな認識を持っているかによって、同じ出来事でも意味づけが変わることがあります。
たとえば仕事でミスをしたときには、次のような受け取り方があります。
- 今回は確認が足りなかった
- やっぱり私は仕事ができない
前者は今回の出来事についての評価です。
後者では「私は仕事ができない」という自己概念と出来事が結びついています。
2. 選びやすい行動に影響する
自己概念は、自分がどんな行動を選択肢に入れるかにも関係します。
たとえば次のようなことがあります。
- 「私は人前に出るタイプではない」と考えているため、発表する役割を避ける
- 「私は人を支える側の人間だ」と考えているため、自分が助けてもらう立場になることに違和感を持つ
こうした行動を繰り返すことで、さらに「やっぱり私はこういう人だ」という認識が強くなる場合もあります。
3. 今の経験と合わなくなることがある
人生が変化していくと、以前に形づくられた自己概念と、現在の経験が一致しなくなることがあります。
アメリカの心理学者カール・ロジャーズ(Carl R. Rogers)は、自分について持っている認識と実際の経験との間に食い違いがある状態を、不一致(incongruence)として捉えました。
たとえば、次のような状態です。
- 「私は人に頼ってはいけない人間だ」と思ってきたのに、本当は誰かに頼りたいと感じている
- 「私はこの仕事が好きな人間だ」と思ってきたのに、以前ほど仕事に気持ちが向かなくなっている
こうしたとき、現在の感情や経験よりも、これまで持ってきた「私はこういう人」という自己概念のほうが強く残ることがあります。
自分についての理解が、現在の自分といつも同じ速度で変化するとは限りません。
自分の自己概念を見つめ直す3つの問い
自己概念について理解すると、自分が普段どのような目で自分を見ているのかを考えられるようになります。
特別な診断や分析をしなくても、自分について日常的に使っている言葉を拾っていくと、自分が持っている自己概念が見えてきます。
ここでは3つの問いから考えてみましょう。
1. 私はどんな人だと思っているか
まず、自分について普段どのような言葉を使っているかを見てみます。
たとえば、次の文章に何が入るでしょうか。
- 私は〇〇な人だ
- 私は昔から〇〇だ
- 私は〇〇ができない
- 私には〇〇が向いている
良い言葉だけを探す必要はありません。
普段の自分が自然に使っている言葉を挙げていくと、自分についてどのような認識を持っているのかが見えやすくなります。
2. その捉え方はどこから来たか
次に、その自己概念がどこから作られたのかを考えます。
たとえば次のような背景があります。
- 自分自身が経験してそう思うようになった
- 家族から繰り返し言われてきた
- 学校や職場での経験から生まれた
- 過去の1度の失敗が強く残っている
「私はこういう人」という認識には、それが作られた背景があります。
背景をたどることで、これまで当たり前だと思っていた自己認識を少し離れたところから見ることができます。
3. 今の私にも当てはまるか
最後に考えたいのが、その自己概念が現在の自分にも当てはまっているかという問いです。
たとえば、過去と現在では次のような変化が起きているかもしれません。
- 10年前には人前で話すのが苦手だったが、今は仕事で毎日のように説明をしている
- 子どもの頃には「おとなしい子」だったが、現在は自分から人間関係を作れるようになっている
- 以前は誰かに認めてもらうことを優先していたが、今は自分が納得できる選択をしたいと感じている
自己概念には一定の安定性がありますが、経験や状況によって変化する側面もあります。
過去の自分については正しかった認識が、現在の自分を説明する言葉としては古くなっていることもあります。
自己概念から今の自分を読み解く
この記事では、自己概念の意味や構造、形成される仕組み、似ている言葉との違い、自分自身の自己概念を見つめる方法について解説してきました。
自己概念とは、「私はどんな人間なのか」について自分が持っている認識のまとまりです。
そこには性格や能力だけでなく、身体、人間関係、価値観、役割など、さまざまな自分についての理解が含まれています。
そして、その中には今の自分をよく表しているものもあれば、過去の経験や周囲から受け取った言葉によって作られ、そのまま残っているものもあります。
「私はこういう人だから」と感じたとき、その言葉がどこから来たのかをたどってみる。
そして「それは今の私にも当てはまるだろうか」と問い直してみる。
自己概念を知ることは、自分を決めつけるためではなく、自分がどんな前提で自分自身を見ているのかを知ることにつながります。