相手の立場に立って考えなさい。
そんなふうに、道徳的な意味で言われてきた人も多いでしょう。
でも、相手の立場に立って考えることは大事そうだとは思っても、「じゃあ具体的に何を見ればいいの?」とわからなくなる人が大半なのではないでしょうか。
この記事では、相手の立場に立って考えるとはどういうことか、相手の立場に立てるようになるメリット、できない理由、仕事や人間関係で使えるトレーニング方法について解説します。
Contents
- 相手の立場に立って考えるとは?
- 相手の立場に立って考えられるようになるメリット
- 1. コミュニケーションが円滑になる
- 2. さまざまな立場の人と関係が深まる
- 3. 仕事の成績が上がることもある
- 相手の立場に立って考えられない理由
- 1. 相手の立場についてイメージができない
- 2. 自分の感情が防衛反応を起こしてしまう
- 3. 人の感情がどう動くのかを知らない
- 相手の立場に立って考えるトレーニング方法
- 1. 「自分ならどう思うか」という問いかけを封印する
- 2. さまざまな立場の人と関わる
- 3. 創作物の登場人物からヒントを得る
- 4. 相手の反応をよく観察する
- 5. 自分の心のトラウマを癒す
- 相手の立場に立って考えるスキルは誰でも取得できる
相手の立場に立って考えるとは?
はじめに、相手の立場に立って考えるとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。
似た意味の言葉に、「相手の気持ちを考える」があります。
人間は感情の生き物ですから、相手の気持ちを考えることが大事だというのは、理解しやすいでしょう。
では、そもそも「感情」とは何が理由で発生するのでしょうか?
相手の気持ちは、多くの場合、その人が置かれている立場から生まれます。
だから、相手のことを本当に理解しようとするなら、相手がどのような立場にいるのかを見なければいけません。
相手の立場に立って考えるとは、相手が置かれている立場を見たうえで、その立場だからこそ生まれる気持ちや考えを想像することとも言えるでしょう。
相手の立場に立って考えられるようになるメリット
ここからは、相手の立場に立って考えられるようになると得られるメリットについて、3つの角度から整理していきます。
1. コミュニケーションが円滑になる
1つ目に、コミュニケーションそのものが円滑になります。
相手の立場に立って考えられるということは、相手の感情や意見に対して、反射的に反発したり、衝動的に切り捨てたりしにくくなるということです。
自分とは違う考え方をされたときでも、「なぜこの人はそう考えるのだろう」「どんな立場からその意見が出ているのだろう」と、一度立ち止まって受け止めやすくなります。
相手の立場を踏まえたうえで話を聞けるようになると、会話がぶつかり合いではなく、理解し合うためのやりとりに変わっていきます。
そのため、相手の立場に立って考える力は、コミュニケーションの基本的なスキルだと言えるでしょう。
2. さまざまな立場の人と関係が深まる
2つ目に、さまざまな立場の人と関係が深まりやすくなります。
相手の立場に立って考えられるということは、自分とは異なる背景を持つ人とも関係を築きやすくなるということです。
人生には、人それぞれ本当にさまざまな立場があります。
- ごく平均的なルートを生きてきた人
- 幼少期に大変な思いをしてきた人
- 社会的に大きな成功をしている人
- 大病を経験している人
- マイノリティな趣味嗜好を持つ人
相手の立場に立って考える力がないままだと、自分とは違う立場の人と出会ったときに、その人が何を見て、何を感じ、何を大切にしているのかを理解しにくくなります。
すると、どうしても関係を深めることが難しくなりますから、自分の周りには、自分と似た立場や似た価値観の人ばかりが集まりやすくなります。
反対に、相手の立場を想像できるようになると、自分とは違う人生を歩んできた人とも、関係を築きやすくなるのです。
3. 仕事の成績が上がることもある
3つ目に、仕事の成績が上がることもあります。
「こともある」と書いたのは、仕事の種類や業種による部分も大きいからです。
ただ、次のような仕事では、相手の立場に立って考える力が、そのまま成果につながりやすくなります。
- 営業職
- 接客業務
- コンサルティング
- 商品企画
多くの仕事の先には、必ず人がいます。
自分とは違う立場のお客様、取引先、上司、同僚、利用者…それらの相手の立場を踏まえたうえで営業や接客ができるとなれば、当然成果にもつながりやすくなります。
相手の立場に立って考えられない理由
相手の立場に立って考えられるようになると、コミュニケーションや人間関係、仕事にも良い影響が出ます。
では、そもそもなぜ相手の立場に立って考えられないのでしょうか。
ここでは、相手の立場に立って考えることが難しくなる理由を、3つの背景から整理していきます。
1. 相手の立場についてイメージができない
1つ目に、最も多くかつシンプルな理由は、相手の立場についてイメージができないことです。
極端な話ですが、大企業に新入社員として入社したばかりの若者が、その企業の社長や取締役、さらには会長の立場になって物事を考えることはできるのでしょうか。
考えようと試みることはできても、そもそも住む世界が違いすぎて、さっぱりイメージがつかないというのが実情でしょう。
立場が違えば、見えている世界は大きく変わります。
- 仕事に対する価値観
- 顧客に対する見方
- 未来に対する考え方
- 従業員に対する考え方
- 責任や優先順位
こうしたものは、その人が置かれている立場によって変わります。
だから「相手の立場を想像しよう」と思っても、相手の世界を知らなければ、そもそも想像する材料がありません。
相手の立場に立って考えられないのは、思いやりがないからではなく、単純に相手の立場をイメージするための情報や経験が足りていない場合もあるのです。
2. 自分の感情が防衛反応を起こしてしまう
2つ目に、意外と多いのが、自分の感情が防衛反応を起こしてしまうことです。
防衛反応とは、自分の心が傷つきすぎないように、無意識に自分を守ろうとする働きのことです。
これは特に、親子や恋愛など、心の距離が近い関係で起こりやすいものですが、仕事や友人関係など、日常のあらゆる人間関係の中でも見られます。
たとえば職場で、自分は頑張って仕事をしているのに、上司からの評価が良くないケースを考えてみましょう。
自分では結果を出していると思っている。
認められたい気持ちもある。
けれど、現実には思うように評価されていない。
このとき心は、「認められたいのに認められない」という強いストレスを感じます。
その状態で防衛反応が働くと、「自分の力量が足りないのかもしれない」「会社の評価基準と合っていないのかもしれない」という現実を見るより先に、自分の心を守ろうとします。
本当にフラットに上司の立場を考えられれば、たとえば次のような事情も見えてくるかもしれません。
- 本当は評価したいが会社の評価基準に合っていなかった
- 今期は上位何%までしか高評価を出せない決まりがあった
- 上司自身もさらに上から評価を管理されていた
- 本人が思う成果と会社が求める成果にズレがあった
けれど、自分の感情が強く反応しているときは、どうしても「認めてほしかったのに認めてもらえなかった」という気持ちが先に立ちます。
その結果、上司の立場や会社側の事情を見る余裕がなくなり、相手の立場に立って考えることが難しくなるのです。
3. 人の感情がどう動くのかを知らない
3つ目に、人の感情についての理解が浅いことで、相手の立場に立って考えることが難しくなるケースもあります。
人は、どんな立場で、どんな状況に置かれたときに、どんな感情になるのか。
これは生まれつき自然にわかるものではなく、人との関わりの中で少しずつ学習していくものです。
もちろん人によっては、ASDやADHDなど、他者の感情や状況の読み取りに独特の認知特性を持っている場合もあります。
ただ、そうでなくても、これまでの人生でさまざまな立場の人と関わる経験が少なければ、人間心理への理解は深まりにくくなります。
- 人がなぜ怒るのか
- なぜ不安になるのか
- なぜ黙るのか
- なぜ強く反発するのか
こうした感情の背景を理解する経験が少ないと、相手の立場に立って考える以前に、「そもそも人はその状況でどんな気持ちになるのか」が想像しにくくなります。
そのため、相手の立場に立って考えようとしても、どこを見ればいいのかわからない状態になってしまうのです。
相手の立場に立って考えるトレーニング方法
ここからは、相手の立場に立って考えるスキルを高めるためのトレーニング方法について解説していきます。
日常の中で、どんな問いかけをするか、どんな人と関わるか、どんな視点を持つかによって、少しずつ視野が広がっていきます。
1. 「自分ならどう思うか」という問いかけを封印する
1つ目に、「自分ならどう思うか」という問いかけを一度封印してみましょう。
基本的に私たちは、幼少期から「自分がされて嫌なことは人にしない」と教えられてきた人も多いでしょう。
そのため、これは少し意外に感じるかもしれません。
「自分ならどう思うか」という問いかけが有効なのは、自分と相手の立場や価値観がある程度近い場合です。
ですが、次のような違いが大きい相手には、自分基準の想像だけでは届きにくくなります。
- 年齢が大きく違う
- 社会的な立場が違う
- 文化や育った環境が違う
- 性別や役割が違う
このような相手に対して「自分だったらどう思うか」と考えても、前提が違いすぎて、かえって的外れになることがあります。
相手の立場に立って考えるには、自分を基準に置き換えるのではなく、「この人の立場なら、何が見えているのか」と考える視点が必要です。
2. さまざまな立場の人と関わる
2つ目に、さまざまな立場の人と関わる経験を積むことです。
私たちは幼少期から、どうしても似たような環境の人と長く過ごしやすいものです。
義務教育の中では、同じ地域に住み、同じ学年で、近い生活圏にいる人たちと関わる時間が多くなります。
さらに高校以降になると、学力や進路によって人間関係が区切られやすくなります。
似た立場の人との関係は安心しやすいものですが、その中だけで過ごしていると、自分とはまったく違う立場の人が、どんな景色を見ているのかを想像しにくくなります。
- バイト先
- 地域コミュニティ
- 趣味の場
そういった関係性の中で、自分とは違う世界を生きている人と関わる経験は大切です。
「世の中にはこんな立場の人がいるんだ」「同じ出来事でも、こんなふうに見る人がいるんだ」と知ることで、自分の中にさまざまな立場のサンプルが集まっていきます。
その積み重ねが、相手の立場に立って考える力を育てていくのです。
3. 創作物の登場人物からヒントを得る
3つ目に、創作物の登場人物からヒントを得る方法もあります。
映画、ドラマ、漫画、小説などには、自分とはまったく違う世界を生きている登場人物がたくさん出てきます。
もちろん、現実の中で自分とは違う立場の人と関わる経験に比べれば、リアルさは格段に落ちます。
けれど、創作物の中には、現実ではなかなか出会えない立場や境遇のキャラクターが描かれています。
- いきなり異世界に飛ばされて勇者になったキャラクター
- 凡人だったのに突然大きな力に目覚めたキャラクター
- 幼い頃から過酷な環境を生き抜いてきたキャラクター
- 普通の世界では経験しにくい立場に置かれたキャラクター
創作物なので、現実離れした立場や境遇も多いでしょう。
ただ、自分とはまったく違う立場の人の背景を想像する練習としては、創作物はかなり使いやすい材料です。
登場人物に感情移入しながら、「この人はなぜそう考えたのか」「この立場なら何を感じるのか」と考えてみる。
それも、相手の立場に立って考えるトレーニングになります。
4. 相手の反応をよく観察する
4つ目に、相手の反応をよく観察することです。
日々のコミュニケーションの中で、相手の立場を踏まえて話せたときは、相手の反応が変わることがあります。
人は、自分のことを理解してくれたと感じると、安心しやすくなります。
自分の立場をわかろうとしてくれる相手には、好意を持ちやすくなりますし、心も開きやすくなります。
反対に、「この人は自分のことをわかろうとしていない」と感じると、心を閉じたり、距離を取ったりしやすくなります。
だからこそ、自分が何を言ったときに、相手の表情や声のトーンが変わったのかを見ていくことが大切です。
自分の言葉に対して
- 相手が安心したのか
- 警戒したのか
- 少し心を開いたのか
- 距離を取ったのか
そうした反応を観察していくことで、「この人はどんな立場で、何を大切にしているのか」が少しずつ見えやすくなります。
相手の反応は、相手の立場を理解するための大切なヒントになります。
5. 自分の心のトラウマを癒す
5つ目に、自分の心のトラウマを癒していくことです。
これは少し意外に感じるかもしれませんが、ここまでに触れたように相手の立場に立って考えられない理由の中には、自分の心の防衛反応が強く働いているケースがあります。
- 愛されたかったのに愛されなかった
- 認められたかったのに認めてもらえなかった
- 仲間に入れてほしかったのに冷たくされた
- 大切にしてほしかったのに軽く扱われた
こうした心の傷は、誰しも大なり小なり持っているものですが、大きな傷が残ったまま人と関わると、コミュニケーションの目的が、無意識のうちに「自分の傷をこれ以上刺激されないこと」になってしまうことがあります。
そうなると、相手の立場を理解するどころではなくなります。
相手が何を感じているのか、どんな立場にいるのかを見る前に、自分の心を守ることが最優先になってしまうからです。
だからこそ、ヒーリングでもカウンセリングでも、自分に合う方法で心のケアをしていくことは大切です。
相手の立場に立つ力を育てるためには、相手を理解しようとする前に、まず自分の心が過剰に防衛しなくてもいい状態を整えていくことも必要なのです。
相手の立場に立って考えるスキルは誰でも取得できる
ここまで、相手の立場に立って考えるトレーニング方法や、そもそもなぜ相手の立場に立って考えることが難しいのかという背景について解説してきました。
私たち人間は社会的な動物です。人との関わりをどの程度必要とするかは人によって違いますが、多くの場合、仕事でも、家族でも、友人関係でも、誰かとの関わりやコミュニケーションを完全に避けて生きていくことはできません。
そんな中で、さまざまな立場の人と関わるときに、相手の立場に思いを馳せて関係性を作れるのか。それとも、相手の立場や背景にまったく考えを寄せずにコミュニケーションを取るのか。
どちらの方がより深い関係性を作れるかは、明らかでしょう。
相手の立場に立って考える力は、もともとの性格だけで決まるものではありません。
後天的に身につけていけるスキルです。
このスキルを少しずつ育てていくことで、人との関係性はより深く、豊かなものになっていくでしょう。