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過去に傷ついた人との付き合いがしんどい理由|被害者意識と埋め合わせ欲求

傷ついた人との付き合いに疲れた人の様子

仲良くなった友人から過去のつらい経験を打ち明けられたり、付き合い始めた恋人が心に傷を抱えていると知ったりしたことで、相手との距離が以前より近く感じられた経験はないでしょうか。

それまで知らなかった相手の弱さに触れ、「これまでつらかった分、これからは幸せになってほしい」「一緒に楽しい思い出を作りたい」と、相手をより大切に思うようになった人もいるでしょう。

その一方で、2人の距離を縮めるきっかけになった相手の傷が、やがて付き合いをしんどくさせる要因になる場合も。

この記事では、過去に傷ついた人が現在の他人に埋め合わせを求める心理と、その要求を受ける側が感じるしんどさについて解説していきます。

Contents

過去にいろいろあったのはわかるが正直めんどくさい

自分の弱さや過去の傷を誰かに打ち明けるには、それなりの勇気がいります。だからこそ、打ち明けられた側も相手からの信頼を感じ、それまで以上に親密な関係へと発展していくのでしょう。

ところが、2人の距離を縮めるきっかけになった傷の自己開示が、いつの間にか関係を難しくしてしまうことも。

というのも、傷を打ち明けた側には「自分の事情を知っているのだから配慮してほしい」という期待が生まれ、打ち明けられた側にも「事情を知った以上は配慮しなければ」という意識が生まれやすいからです。

たとえば、こんな要求です。

  • 「私は落ち込みやすいから、あまり強く言わないでほしい」
  • 「1時間以内にLINEの返事がないと不安になるから、早く返してほしい」
  • 「昔、浮気されてひどく傷ついたから、あなたには絶対に裏切られたくない」

それぞれの要望には、そう思うだけの事情があるのでしょう。ただ、浮気をしないという恋人同士の基本的な約束と、相手の不安を解消するために常に連絡を返すことでは、求められる負担も異なります。

最初は相手を大切にしたい一心で応じていても、親密な時期が過ぎ、もっと自然体で付き合いたいと思うようになった頃には、特別な配慮を求められ続けることが負担になっているかもしれません。

こうして、傷を打ち明けたことで、無意識のうちに「配慮してもらう側」と「配慮する側」という役割が固定されてしまうと、対等だったはずの関係も次第に窮屈になっていきます。

それでも、相手の事情を理解しているからこそ、「めんどくさい」と感じる自分の方が冷たい人間なのではないかと、罪悪感を抱く人もいるでしょう。

傷ついた人が無意識に埋め合わせを求める心理背景

では、過去の傷を打ち明けたことで、なぜ「配慮してもらう側」と「配慮する側」という関係の不均衡が生まれてしまうのでしょうか。

傷を共有したあとも対等な関係を築ける人たちがいる一方で、関係のバランスが崩れてしまう背景の1つとして考えられるのが、傷ついた側が無意識に抱えている「埋め合わせ欲求」です。

過去に受けた傷は、出来事が終わっても心の中に残り、本人も気づかないうちに、その傷を癒したい、過去に得られなかったものを取り戻したいという気持ちにつながっている場合があります。

そして、その思いが自分を傷つけた相手ではなく、その後に出会った親しい人へと向かい、相手にさまざまな愛情や配慮を求めるようになる人もいます。

ここからは、その背景にある代表的な3つの心理を見ていきましょう。

1. 愛されなかった分まで愛されたい

1つ目は、過去に得られなかった愛情を、今の人間関係で取り戻したいという欲求です。

幼い頃に親から十分に愛情を注いでもらえなかったり、以前の恋人に大切にされなかったりした人の中には、「今度こそちゃんと愛されたい」という思いを強く抱いている人もいます。

そして、自分を大切にしてくれる相手に出会うと、これまで満たされなかった愛情まで、その人から受け取りたいという期待が生まれやすくなります。

たとえば、恋人が十分に愛情を示していても、もっと頻繁に連絡してほしい、もっと自分を優先してほしい、もっと気持ちをわかってほしいと、求めるものが増えていく。

本人にとっては、ずっと欲しかった愛情をようやく手に入れようとしている感覚なのかもしれません。

しかし、今の相手がどれだけ愛情を注いでも、過去に満たされなかった分まで取り戻そうとすると、なかなか満足できなくなってしまいます。

その結果、愛情を注ぐ側は「こんなに大切にしているのに、まだ足りないの?」と感じ、次第に関係が負担になっていくのです。

2. 苦労した自分は報われるべきだと思う

2つ目は、これまで苦労してきた分、今度こそ自分が報われたいという気持ちです。

理不尽な扱いを受けたり、長い間我慢を強いられたりしてきた人の中には、「あれだけつらい思いをしたのだから、これからは人より幸せになりたい」という思いを抱く人もいます。

その気持ちが強くなると、過去に受けた不公平を取り戻すかのように、現在の人間関係でも特別な配慮や優遇を期待するようになります。

たとえば、次のような考え方です。

  • ずっと我慢してきたのだから、今度は自分の希望を優先してほしい
  • 人より苦労してきたのだから、その分だけ大切に扱ってほしい
  • これまで誰にも理解されなかったのだから、今の相手には何でもわかってほしい

こうした期待の背景には、過去の苦しさに見合うだけの見返りを得たいという気持ちがあります。

ここで関係してくるのが、被害者意識です。

過去に傷つけられた自分という立場が、現在の人間関係でも特別に配慮されるべき理由になっていると、本人は相手に要求しているつもりがなくても、「これくらいしてもらって当然」と感じやすくなります。

そして、期待に応えてもらえないと、過去の不公平に加えて、今の相手からも不当に扱われているように感じてしまう。

こうして、過去の苦労に対する見返りを、現在の相手に求める関係が生まれていきます。

3. 二度と傷つかない安心がほしい

3つ目は、過去と同じように傷つくことへの恐れから、相手に安心を保証してもらいたいという欲求です。

過去に裏切られたり、突然関係を断たれたりした経験がある人の中には、新しい人間関係でも「また同じことが起きるのではないか」という不安を抱く人がいます。

そこで、相手の愛情や誠意を確かめるだけでなく、不安を感じずに済むよう、相手の行動にも細かな配慮を求めるようになります。

たとえば、

  • 連絡が遅れると不安になるので、すぐに返信してほしい
  • 急な予定変更が怖いので、事前に必ず知らせてほしい
  • 裏切られるのが怖いので、異性との付き合いを控えてほしい

こうした要求は、本人にとっては自分の心を守るためのものです。

相手が要求に応じてくれると、その場では安心できるため、次に不安を感じたときにも同じように配慮してもらいたくなります。

しかし、安心を得る手段が相手の行動に集中するほど、相手は不安を与えないように振る舞うことを求められます。

その結果、傷ついた側は「安心させてほしい」、求められる側は「いつも不安にさせないようにしなければ」と、2人の間で負担が偏りやすくなるのです。

なぜ関係のない人にまで埋め合わせを求めるのか

過去に自分を傷つけた人とは別の人に、その傷の埋め合わせを求めてしまう背景には、心理学でいう「転移」という心の働きが関係していると考えられます。

転移とは、過去の重要な人間関係で抱いた感情や期待を、現在の別の相手に無意識に重ねてしまう心理現象です。

たとえば、親から十分に愛されなかった人が、恋人に対して、親から得られなかった無条件の愛情まで求めてしまう。恋人は自分を傷つけた親とは別人でも、本人の中では、満たされなかった愛情を今度こそ受け取れる相手として期待が重なっているのです。

過去に満たされなかった欲求が現在の相手に重なると、本人は今の関係で求めている愛情と、過去の不足を埋めるために求めている愛情を区別しにくくなります。

その結果、今の相手に対して、過去の傷を癒すための特別な愛情や配慮まで求めるようになる人もいます。

傷つけた本人ではないのに、過去の傷を埋め合わせる役割まで期待されてしまう。

転移という心の働きは、こうした人間関係のすれ違いを理解する手がかりの1つになります。

埋め合わせの要求は誰に向かうのか

過去の埋め合わせを求める相手は、必ずしも恋人や家族など、特定の人間関係に限られるわけではありません。

何を失ったと感じているのか、誰に傷つけられたと認識しているのかによって、要求の向かう相手も変わってきます。

ここでは、埋め合わせの要求が向かいやすい相手を3つに分けて見ていきます。

1. 心を許した友人や恋人

まず、埋め合わせを求める相手になりやすいのが、自分の傷を打ち明けた友人や恋人です。

過去のつらい経験を受け止めてくれた人には、「この人は自分の事情をわかってくれている」という信頼が生まれ、その分、ほかの人には求めないような配慮まで期待しやすくなります。

たとえば、友人に過去の傷を打ち明けたことで、「私が傷つきやすいことを知っているんだから、もう少し気を遣ってほしい」と感じるようになったり、恋人に過去の裏切りを話したことで、特別な安心を求めるようになったり。

本人にとっては、自分の事情を理解してくれている相手だからこその期待なのでしょう。

その期待が強くなると、親しくなった相手ほど、特別な気遣いや愛情を求められる関係になっていきます。

2. 過去の相手と重なる立場の人

過去に自分を傷つけた人と、似た立場にいる相手にも埋め合わせを求めやすくなります。

たとえば、次のような関係です。

  • 親に認められなかった人:上司や年長者から特別に評価されたい
  • 以前の恋人に裏切られた人:新しい恋人には何度も愛情や誠実さを証明してほしい
  • 家族に気持ちを理解してもらえなかった人:親しい友人には言わなくても察してほしい

相手が違っていても、本人の中では過去の人間関係と現在の人間関係が重なっているのかもしれません。

先ほど説明した「転移」は、こうした期待を理解する手がかりになります。

過去の相手から受け取れなかったものを、似た立場の人から今度こそ受け取りたい。その思いが強いほど、現在の相手にも、過去の関係で満たされなかった欲求が向かいやすくなるのです。

3. 社会や不特定多数の人

埋め合わせを求める相手が、特定の個人ではなく、社会や周囲の人々にまで広がっている人もいます。

たとえば、これまでの人生で理不尽な扱いを受け続け、「自分ばかりが損をしてきた」「世の中は不公平だ」という思いを強く抱えている人です。

こうした人の中には、過去の苦労を理由に、職場で特別に優遇してもらいたい、周囲には自分の事情を理解して譲ってほしいと考える人もいます。

本人にとっては、これまでの不公平を取り戻したいという気持ちがあるのでしょう。

しかし、現在の相手からすれば、その人がどれだけ苦労してきたとしても、自分がその埋め合わせを求められる理由はわかりません。

過去に傷つけた相手が誰なのかという区別が薄れ、自分を不当に扱ってきた世界そのものに見返りを求める。

そこまで被害者意識が広がると、本人を傷つけた覚えのない周囲の人まで、特別な配慮を求められる相手になってしまうのです。

埋め合わせを求められたときの考え方

ここまで見てきたように、過去に傷ついた経験がある人の中には、現在の人間関係に過去の不足を持ち込み、相手に多くのことを求める人もいます。

では、実際にそうした要求を向けられたとき、どのように考えればよいのでしょうか。

相手の事情を理解することと、自分がどこまで応じる責任を負っているのかを整理するために、3つの視点から見ていきます。

1. 相手の事情と現在の要求を分ける

相手の過去を知っていると、現在の要求に対しても「つらい経験をしてきたんだから、仕方ない」と考えてしまいがちです。

たとえば、以前の恋人から突然連絡を絶たれた人が、「返信が遅いと不安になる」と打ち明けてくれたとします。その事情を聞けば、不安な気持ちに寄り添いたいと思うでしょう。

ところが、そこから「だから、LINEには必ず1時間以内に返信してほしい」と求められたら、話は少し変わってきます。

相手が返信を待つことに不安を感じる理由は理解できても、必ず1時間以内に返信するという要求を受け入れられるかどうかは、別の問題だからです。

相手がどんな経験をしてきたのか、その経験によって何を不安に感じているのか。まずはその事情を理解したうえで、今の自分に具体的に何を求められているのかを分けて考えてみましょう。

2. 今の関係における責任を見極める

相手から求められていることが整理できたら、次は現在の関係で自分がどこまで責任を負うべきなのかを考えます。

人間関係における責任は、誰が何をしたのか、どんな約束を交わしているのかによって異なります。

具体的には、次のように整理するとわかりやすいでしょう。

  • 自分がしたことへの責任: 相手を傷つける言動をしたり、約束を破ったりした場合は、その行為について向き合う
  • 2人で交わした約束への責任: お互いに納得して決めたルールや約束は、双方が守る
  • 相手が過去に受けた傷への責任: 過去の別の人がしたことまで、今の自分が償う責任はない

先ほどのLINEの例でいえば、2人で決めた連絡の約束を守ることには責任が伴います。一方、以前の恋人に連絡を絶たれたことで生まれた不安を、今の自分がすべて解消する責任まで負っているわけではありません。

相手のつらさを知っているほど、少しでも不安にさせたら自分が悪いように感じるかもしれませんが、相手の過去を知ったことによって、過去の傷まで自分の責任になるわけではないのです。

3. 応じられる範囲を明確にする

相手の事情と自分の責任を整理できたら、最後はどこまで配慮できるのかを考えます。

たとえば、返信が遅いと不安になる恋人に対して、「仕事中はすぐに返せないけれど、帰宅したら連絡する」と約束することはできるでしょう。

相手の不安を軽くするために協力したい気持ちがあっても、自分の生活を犠牲にするほどの要求には応じられないという人もいるはずです。

大切なのは、相手が何を望んでいるかだけでなく、自分が無理なく続けられる配慮はどこまでなのかを考え、2人で話し合うことです。

ここで役立つのが「心理的な境界線」という考え方です。

心理的な境界線とは、自分と相手の感情や責任、選択の範囲を区別するためのものです。

相手が不安を感じていることは尊重しながらも、その不安を解消するために自分がどこまで協力するかは、自分自身にも決める権利があります。

相手の事情に合わせて配慮することと、自分の事情を理解してもらうこと。その両方を大切にしてこそ、どちらか一方が無理をし続ける関係を避けやすくなるでしょう。

過去の傷を理解することと埋め合わせることは別

この記事では、過去に傷ついた人が現在の人間関係に埋め合わせを求める心理背景と、その要求を受ける側が感じる負担について解説してきました。

これまでどんな人生を歩み、どのような経験をしてきたかは人それぞれです。中には、話を聞いた側が言葉を失うほど、つらい出来事を経験してきた人もいるでしょう。

そんな過去を知れば、できるだけ相手を傷つけないように接したいと思うのも自然ですし、実際に、その人の事情を踏まえた配慮が必要な場面もあるはずです。

ただ、人間の心は複雑なもので、傷ついた経験が、周囲から特別な配慮を受けるための理由になっていると、本人も気づかないうちに「傷ついた自分」という立場から離れにくくなってしまうケースも珍しくはないのです。

相手の傷を理解することと、その傷の埋め合わせまで引き受けることは別。

お互いの事情を尊重しながら、どちらか一方が無理をし続けなくても付き合える関係を築いていくことが、長く心地よい人間関係を続ける秘訣なのではないでしょうか。