仕事を頑張りすぎて燃え尽きてしまったり、「この仕事をこのまま続けていくのかな」と考えた途端に気持ちが重くなったり、自分のキャリアを一度立ち止まって考え直したくなったりと、休職や退職を選ぶ理由は人によってさまざまです。
心身の不調が続いて医師から休職を勧められる人もいれば、自分で仕事を辞めて「しばらく充電期間にしよう」と考える人もいます。
ところが、実際に仕事から離れてみると、体は休めているはずなのに心はまったく休んだ感じがしない。
「こんなに何もしていないのに、どうして回復しないんだろう」「私はただサボっているだけなのでは」と、休んでいること自体に焦り始める人も珍しくありません。
この記事では、休職や退職をして実際には休んでいるのに、なぜ心は休めないのか、そのとき内側で何が起きているのかについて解説していきます。
Contents
- 休職・退職しても心が回復しないのはなぜ?
- 心が休めない7つの理由
- 1. 収入や生活への不安が続いている
- 2. 早く復帰しなければと焦っている
- 3. 休んでいることに罪悪感がある
- 4. 働かない自分に価値を感じられない
- 5. 所属や役割を失って不安定になっている
- 6. 仕事の緊張や警戒が抜けていない
- 7. 何もしない時間そのものに不安を感じる
- まず心が休める状態をつくる
- 1. 当面の生活費と使える制度を確認する
- 2. 休職や復職の条件を会社と確認する
- 3. 心身の不調は医療機関に相談する
- 4. 一人で抱えず身近な人に頼る
- 心を仕事から離すためにできること
- 1. 求人や仕事情報を見る時間を減らす
- 2. 何もしない時間を予定に入れる
- 3. 回復の期限を決めすぎない
- 4. 働いていない自分への評価に気づく
- 休んだ期間より心が休めたかどうか
休職・退職しても心が回復しないのはなぜ?
休職や退職をすると「今はゆっくり休んでください」と言われることが多いですが、ひとことで「休む」と言っても、体を休ませることと心を休ませることは少し違います。
体の休息であれば、十分に眠る、食事を取る、体調に合わせて活動量を落とすなど、何をすれば休息になるのかが比較的わかりやすく、疲労感や睡眠時間などから変化も確認しやすいものです。
一方で、心の休息は目に見えず、「これをすれば全員が確実に回復する」という共通の方法もありません。仕事へ行かなくなり、予定を減らし、家で過ごす時間が増えていても、頭の中では仕事やこれからの生活について考え続けている人もいます。
たとえば、仕事を休んでいても、
- 会社や仕事で起きたことを何度も思い返している
- これからの収入や生活について一日中考えている
- 求人情報を見ながら早く次を決めなければと焦っている
- 何もしていない自分を責め続けている
といった状態なら、体は仕事から離れていても、心まで仕事や不安から離れているとは言えません。
さらに難しいのは、周囲から見ると「仕事を休んで家にいる人」に見えることです。自分自身も「もう何週間も休んでいる」「以前より寝ている」という事実がわかっているからこそ、それでも回復しないと「こんなに休んでいるのになぜ元気にならないんだろう」と混乱することも多いでしょう。
もともとの疲れに、「休んでいるのに回復できない自分はおかしいのではないか」という焦りや自己否定まで重なると、休むために取った時間の中で、さらに自分を追い立ててしまう人も珍しくありません。
休職や退職によって仕事を止めることと、心の中の緊張や不安まで止まることは同じではないのです。
心が休めない7つの理由
仕事から物理的に離れているのに心が休まらないときには、単純に「まだ休みが足りない」だけでは説明できない要因が隠れていることがあります。
ここからは、休職や退職をしても心が休めない理由を7つに分けて見ていきます。
1. 収入や生活への不安が続いている
まず考えられるのが、仕事を休んだことで収入や生活の見通しが不安定になっている状態です。
休職によって収入が減ったり、退職によって給与がなくなったりしても、毎月の生活に必要なお金まで止まるわけではありません。特に、
- 今の貯金で何か月生活できるのかわからない
- 休職中にどのくらい収入があるのかわからない
- 家賃や住宅ローン、教育費、返済などの固定支出が大きい
- いつから働き始めなければ生活が厳しくなるのかわからない
といった状態では、「今は休もう」と思っても、頭の中ではずっと先のお金を計算することになります。
これは単純な考えすぎではなく、現実の生活に関わる不安です。体を横にしている時間が増えていても、生活を維持できる見通しが立っていなければ、心は簡単には警戒を解きません。
2. 早く復帰しなければと焦っている
2つ目は、休み始めた直後から「早く元の状態に戻らなければ」と回復を急いでいることです。
「長く休んだら会社に戻れなくなるのでは」「離職期間が長くなったら再就職に不利なのでは」と考えていると、休養期間そのものが次の仕事へ向かうための準備期間になります。
すると、少し元気に動けた日は「回復してきた」と安心する一方で、何もできなかった日は「まだ治っていない」「こんな状態では復帰できない」と落ち込み、毎日の体調や気分を細かく採点するようになります。
本来は回復のために取った時間が、「早く回復しなければならない時間」に変われば、仕事を休んでいても心には別のプレッシャーがかかり続けます。
3. 休んでいることに罪悪感がある
3つ目は、働かずに休んでいることそのものに罪悪感を抱いている状態です。
長いあいだ仕事をすることが当たり前だった人ほど、平日の昼間に家にいるだけで落ち着かなかったり、家族や友人が働いている姿を見ると「自分だけ何もしていない」と感じたりしやすくなります。
本来なら休息になるはずの時間にも、「今日は何もできなかった」「こんな生活をしていていいのか」と自分を責めていれば、体を動かしていなくても心の中ではずっと自分にダメ出しをしている状態です。
休むことに罪悪感がある人にとって、休息は単に仕事をしないことではなく、「何もしていない自分を許せるか」という問題にもつながっています。
4. 働かない自分に価値を感じられない
4つ目は、自分の価値と仕事が強く結びついていることです。
仕事をしていると、日常の中に自分の価値を感じられる場面がたくさんあります。
- 成果を出して評価される
- 誰かから仕事を頼まれる
- 収入を得て生活を支える
- 職場で必要とされる
- 得意なことや能力を使う
こうした経験を通して自分の価値を感じてきた人は、仕事から離れた途端、それまで自分を支えていたものも一緒になくなったように感じやすくなります。
「働いていない私は何者なんだろう」「何も生み出していない自分には価値がない」と感じれば、何もしない時間そのものが苦しくなります。
その苦しさを埋めるように求人を探したり、資格の勉強を始めたり、別の予定を増やしたりしていると、仕事を辞めても「何かをして価値を証明しなければ」という動きは続いたままになります。
5. 所属や役割を失って不安定になっている
5つ目は、仕事と一緒に自分の居場所や役割まで失ったように感じている状態です。
働いている間は、職場という所属先があり、毎日行く場所があり、自分が何を担当する人なのかもある程度決まっています。仕事は収入を得る手段であると同時に、生活のリズムや人とのつながり、自分の社会的な役割を作っている面もあります。
そのため、休職や退職によって仕事から離れると、「自由になった」という感覚よりも、「私は今どこに属しているんだろう」「毎日何をしていればいいんだろう」という不安定さの方を強く感じる人もいます。
仕事そのものに戻りたいわけではなくても、仕事によって保たれていた生活の枠組みがなくなったことで、早く次の所属先や役割を見つけたくなるのです。
6. 仕事の緊張や警戒が抜けていない
6つ目は、仕事から離れたあとも、働いていた頃の緊張や警戒が続いていることです。
仕事量が多い状態が長く続いていたり、失敗できない環境で常に気を張っていたり、人間関係のストレスが強かったりすると、仕事を休んだ翌日から心まで一気に切り替わるとは限りません。
会社から連絡が来る気がしてスマートフォンが気になる、朝になると仕事へ行かなければならないような感覚になる、何も予定がないのに何かを忘れている気がするなど、現実には仕事をしていなくても心の中では緊張が続きやすくなります。
この状態では、休む時間そのものは確保できていても、安心して力を抜いている感覚がなかなか戻ってきません。
7. 何もしない時間そのものに不安を感じる
7つ目は、予定のない時間や何もしない時間そのものに不安を感じることです。
忙しく働いている間は、次にやることが次々に出てくるため、自分の気持ちやこれからの人生について立ち止まって考える時間は少なくなります。
ところが仕事から離れて急に時間が空くと、それまで忙しさの中で見えにくかった不安や寂しさ、「これから何をしたいのかわからない」という感覚などが表に出やすくなります。
そのため、資格の勉強や転職活動、家事、予定などで再び時間を埋め、「何もしない状態」をできるだけ作らないようにする人もいます。
何かをしている間は落ち着いていても、動きを止めた途端に不安になるなら、体は仕事を休んでいても、心は忙しさからまだ離れられていない状態です。
まず心が休める状態をつくる
心を休ませようとしても、生活費や仕事、心身の状態について現実的な不安が残っていれば、「何も考えずゆっくりしよう」と気持ちだけを切り替えるのは難しくなります。
心の休息を考えるときには、内面だけを何とかしようとする前に、安心して休めるだけの外側の条件があるかも確認する必要があります。ここからは、心が休める状態をつくるために整理しておきたいことを4つ見ていきます。
1. 当面の生活費と使える制度を確認する
1つ目は、当面の生活をどのように維持するのかを具体的に確認することです。
「お金がなくなったらどうしよう」という大きな不安のまま抱えていると、実際にどの程度切迫しているのかがわからず、頭の中で何度も同じ心配を繰り返しやすくなります。
確認したいのは、たとえば次のような内容です。
- 現在の貯蓄でどのくらい生活できるのか
- 毎月最低限必要になる支出はいくらなのか
- 休職中や退職後に入る予定のお金はあるのか
- 利用できる可能性のある給付や公的な支援はあるのか
- いつ頃までに収入を作る必要があるのか
すべての不安をなくすことが目的ではなく、「何となく怖い状態」を、今わかっている現実とまだわからない部分に分けていきます。
生活そのものがすでに厳しい状態であれば、心の持ち方を変えることより、住居や生活費、返済などの現実的な問題を扱うことが先になります。
2. 休職や復職の条件を会社と確認する
2つ目は、休職中で会社との雇用関係が続いているなら、今後に関わる条件を確認しておくことです。
休職期間がいつまでなのか、復職するときにどのような手続きが必要なのか、会社との連絡がどの程度発生するのかなどが曖昧だと、休んでいる間も「いつ何か言われるかわからない」という緊張が残りやすくなります。
ここで復職時期そのものを急いで決める必要はありません。すでに決まっていること、今確認できること、まだ決めなくていいことを分けることで、休職中に考え続けなくていい問題を減らしていきます。
退職してすでに雇用関係が終わっている人であれば、この項目について考える必要はありません。
3. 心身の不調は医療機関に相談する
3つ目は、心身の不調が続いているなら、自分だけで「まだ休み足りないのか」「気持ちの問題なのか」と判断し続けないことです。
眠れない状態が続いている、食事が十分に取れない、強い落ち込みによって日常生活を送ること自体が難しいなど、心身の状態によっては休養だけでなく医療的な支援が必要になります。
すでに医療機関を受診しながら休職している人であれば、現在の状態や復職時期についても、診察の中で相談しながら考えていくことになります。
仕事を休んでいるのに回復した感じがしないからといって、すべてを「自分の休み方の問題」として抱える必要はありません。
4. 一人で抱えず身近な人に頼る
4つ目は、仕事を休んだからといって、生活上の負担まで一人で全部背負わないことです。
「今は仕事をしていないのだから、家事くらい全部やらなければ」と考えて、仕事で使っていたエネルギーを家事や育児、家族の世話にそのまま使っていれば、仕事から離れても生活全体の負荷はあまり減りません。
頼れる人がいるなら、買い物や食事の準備、送迎など、具体的な生活上の負担を一部任せることで、実際に何もしなくていい時間を作りやすくなります。
一方で、家族に頼れる関係ではない人や、身近な人との関係そのものが負担になっている人もいます。その場合は家族に頼ることにこだわらず、自分の周囲にどのような支えがあるのかを別の形で整理していくことになります。
心を仕事から離すためにできること
生活面の不安がある程度整理されても、頭の中で仕事のことを考え続けていれば、心はなかなか仕事から離れません。
休職や退職後には、仕事へ行っている時間だけでなく、「仕事について考えている時間」がどのくらい残っているのかを見ることも必要です。ここからは、心を仕事から離すためにできることを4つ見ていきます。
1. 求人や仕事情報を見る時間を減らす
1つ目は、求人や仕事に関する情報に触れる時間を減らすことです。
退職後に求人を見ること自体は、次の仕事を考えるうえで必要になる行動です。一方で、朝から求人サイトを開き、空いた時間に転職情報を見て、夜もまた求人を検索していると、会社へは行っていなくても1日の大半を仕事について考えることになります。
求人を見るたびに、「この仕事ならできるだろうか」「応募した方がいいだろうか」「もっと条件のいい仕事があるのでは」と判断が始まるため、その間は心も次の仕事へ向かって動き続けます。
転職活動を始める場合でも、仕事について考える時間と考えない時間を分けることで、1日のすべてが仕事に占領される状態を減らしていきます。
2. 何もしない時間を予定に入れる
2つ目は、空いた時間を新しい予定ですべて埋めず、何も達成しなくていい時間を残すことです。
仕事を休んだり辞めたりすると、それまでできなかったことを一気に片づけたくなる人もいます。
- 部屋や家の中を徹底的に片づける
- 資格や語学の勉強を始める
- 運動や習い事を始める
- 人と会う予定をたくさん入れる
それぞれは悪いことではありませんが、毎日何かを達成する予定で埋め尽くせば、「仕事をしていない」というだけで、心は以前と同じように忙しく動き続けます。
何もしない時間は、何かを成し遂げるための時間ではありません。成果も評価も求められない時間を生活の中に持つことで、何かをしていなくても過ごせる感覚が少しずつ戻ってきます。
3. 回復の期限を決めすぎない
3つ目は、心の回復に細かい期限を設定しすぎないことです。
休職期間や生活費の都合から、「いつ頃まで休めるのか」という現実的な期限を考えなければならない人はいます。それとは別に、「1か月休んだら元気になるはず」「この日までに前の自分へ戻らなければ」と、心の回復そのものに締め切りを作ると、休養期間まで成果を測る時間になります。
元気に動けた日は「回復している」、疲れて何もできなかった日は「また悪くなった」と毎日を評価していると、自分の状態を確認すること自体が新しい仕事のようになっていきます。
回復には波があるため、今日の状態だけを使って「順調か失敗か」を決め続けるほど、休んでいる間の焦りも強くなりやすくなります。
4. 働いていない自分への評価に気づく
4つ目は、働いていない自分に対して、どんな評価を向けているのかに気づくことです。
仕事と自分の価値が強く結びついている人に、「仕事と自己価値を切り離そう」と言っても、それまで何年も続いてきた感覚をすぐに変えられるわけではありません。
最初に見えてくるのは、仕事をしていない自分に対して、
- 怠けている
- 役に立っていない
- 社会から遅れている
- 誰にも必要とされていない
といった評価を向けていないかという部分です。
こうした言葉が日常的に頭の中に出ているなら、家で休んでいても、自分自身から評価され続けている状態になります。
仕事がないことそのものがつらいのか、仕事をしていない自分を否定していることがつらいのかが分かれてくると、「なぜ休んでいるのに苦しいのか」も見えやすくなります。
休んだ期間より心が休めたかどうか
この記事では、休職や退職をして仕事から離れたのに、心が回復しないときに起きていることについて解説してきました。
仕事をしていない期間が長くても、生活への不安や復帰への焦り、休むことへの罪悪感、仕事と自分の価値の結びつき、働いていた頃の緊張などが残っていれば、体を休ませる時間は取れていても心まで十分に休めているとは限りません。
また、現実の生活が不安定な状態では、気持ちだけを変えて休もうとするのにも限界があります。生活の見通しや周囲の支えを整えることと、仕事について考え続ける時間を減らしていくことの両方が、心の休息につながっています。
休職や退職後の回復は、「何か月仕事を休んだか」という期間だけでは測れません。同じように仕事から離れていても、その時間の中で心まで仕事や不安から離れられていたかによって、「休めた」という感覚には大きな違いが生まれます。