20代後半になると、少しずつ「30歳」という年齢が現実味を帯びてきます。
年齢によって生き方を決めつける価値観はずいぶん薄れましたが、それでも特に女性にとっての30歳は人生の節目として意識されやすい年齢でしょう。
そして社会的な年齢意識とは別に、30歳前後は自分の生き方やこれからの人生について大きく迷いやすい時期でもあり、こうした人生の危機は、クォーターライフクライシスと呼ばれています。
この記事では、クォーターライフクライシスとは何か、なぜこの時期に人生への迷いが深まりやすいのか、そしてそこからどう人生を作り直していくのかを詳しく解説します。
Contents
- クォーターライフクライシスとは 定義の解説
- 20代後半から人生に迷いやすくなる理由
- 1. 人生のレールがなくなり選択肢が増える
- 2. 選んだ人生が自分に合うか見え始める
- 3. 同世代との比較が焦りを強める
- クォーターライフクライシス2つの行き詰まり
- 1. Locked out|入りたい人生に入れない苦しさ
- 2. Locked in|選んだ人生から出られない苦しさ
- クォーターライフクライシスの4つのフェーズ
- 1. Locked in|今の人生に閉じ込められる
- 2. Separation and Time out|これまでの人生から距離を取る
- 3. Exploration|新しい生き方を探索する
- 4. Rebuilding|新しい人生を作り直す
- クォーターライフクライシスを乗り越えるために
- 1. まず今の行き詰まり方を見極める
- 2. すぐに人生の正解を決めようとしない
- 3. 新しい選択肢を探索する時間を持つ
- 4. 次に納得できる人生を少しずつ作る
- 人生に迷う時期をどう生きるか
クォーターライフクライシスとは 定義の解説
クォーターライフクライシスとは、20代後半から30代を中心とした若年成人期に、自分の生き方や人生の方向性が大きく揺らぐ発達上の危機を指します。
成人期の発達的危機を研究しているイギリスの心理学者Oliver C. Robinsonらは、25歳から35歳の人が経験した危機について50人へのインタビューを行い、若年成人期に起こる人生の危機を分析しています。
研究ではこの年代が中心に扱われていますが、クォーターライフクライシスは年齢だけで区切られるものではなく、これまで選んできた仕事や人間関係、生き方そのものを問い直す中で表れます。
精神疾患の診断名ではなく、それまでの価値観や人生の形が揺らぎ、次の生き方を模索していく人生の転換期のひとつとして捉えられています。
20代後半から人生に迷いやすくなる理由
20代後半は、学校を卒業して働き始めてから数年が経ち、社会の中で生きていく感覚が少しずつ肌になじんでくる頃です。
一方で、人生が固まりきっているわけでもありません。
第二新卒という言葉もあるように、仕事を変える余地もあり、住む場所や人間関係、結婚など、この先の選択肢もまだ大きく開かれています。
こうした時期に迷いが増える理由は、大きく3つあります。
1. 人生のレールがなくなり選択肢が増える
人生のレールがなくなり選択肢が増えることが、迷いの大きな理由になります。
学生時代までは、進級や卒業など、ある程度共通した流れがあり、進路を選ぶ必要はあっても「次に何をする時期なのか」は比較的わかりやすいものです。
社会に出ると、その共通のレールがなくなります。
たとえば仕事だけでも、次のような複数の道が見えてきます。
- 今の会社に残る
- 転職する
- 別の仕事を学び直す
- 独立や起業を考える
その一方で、何でも自由に決められるわけではありません。
親や会社との関係、お金、住む場所など、自分の意思だけでは動かせない条件もあります。
選べるものは増えたのに、完全に自由なわけでもない。
20代後半は、この中途半端さの中で自分の人生を考え始める時期でもあります。
2. 選んだ人生が自分に合うか見え始める
20代前半までは、仕事も恋愛も「まず経験してみる」という感覚で始められます。
ところが数年生きてみると、想像だけではわからなかったことが見えてきます。
入りたかった会社で働いてみたら、思っていた働き方とは違った。
好きな仕事ではあるけれど、この生活を10年続けたいわけではない。
結婚したいと思っていたけれど、実際に将来を考え始めると、どんな家庭を作りたいのかはよくわからない。
ここで初めて、自分は何を望んでいて、何には違和感があるのかが具体的になってきます。
20代後半の迷いは、まだ何も決めていないから生まれるだけではありません。むしろ、ある程度選び、実際に生きてみたからこそ、それまで思い描いていた人生と自分とのズレが見えてくるのです。
3. 同世代との比較が焦りを強める
20代後半になると、同世代の人生も大きく分かれ始めます。
学生時代は、多くの人が似た時間割の中で生活していますが、社会に出て数年経つと、仕事、収入、結婚、出産、住まいなど、それぞれの人生が違う方向へ進んでいきます。
すると、自分ではそれほど気にしていなかったことまで、他人を見た瞬間に気になり始めます。
友人の結婚を知って急に結婚が遅れているように感じたり、同僚の昇進を見て自分だけ仕事が停滞しているように感じたりする。
同世代だからこそ、その人の現在地が自分の人生を測る物差しになりやすいのです。
特に現代はSNSを通して、多種多様な人生に触れることができ、しかも「他人の人生のハイライトばかりが並んでいる」という状況が、なおさら混乱を招きやすいとも言えます。
20代後半の焦りには、自分が本当に望んでいるものと、周囲を見て「そろそろ持つべきだ」と感じているものが混ざりやすいという難しさもあるでしょう。
クォーターライフクライシス2つの行き詰まり
クォーターライフクライシスを理解するうえで重要なのが、Locked outとLocked inという2つの形です。
2019年に発表されたRobinsonの縦断研究では、成人期最初の10年ほどに起きる危機として、この2つが区別されています。
同じ「人生がうまくいかない」という感覚でも、望む役割に入れないのか、すでに入った役割から出られないのかでは、苦しさの構造が違います。
1. Locked out|入りたい人生に入れない苦しさ
Locked outは、入りたい人生があるのに、そこへ入れない状態です。
- 結婚したいのに関係が作れない
- 希望する仕事に就きたいのに入れない
- 経済的に自立したいのに収入が安定しない
- 望んでいる大人の役割へ進みたいのに現実が追いつかない
こうした「行きたい場所は見えているのに、そこへ入れない」感覚がLocked outです。
20代後半から30代になると、周囲では仕事や結婚、住まいなど人生の形が少しずつ固まり始めます。
その中で自分だけが望んでいる場所へ進めていないと、単なる未達成では済まなくなってきます。
自分の人生だけが、まだ始まっていないように感じてしまうことです。
周囲が先へ進んでいるように見えるほど、その感覚は強くなります。
入りたい人生がはっきりしている人ほど、入口の外にいる時間そのものが大きな苦しさになります。
2. Locked in|選んだ人生から出られない苦しさ
Locked inは、すでに選んだ人生の中にいるものの、そこから離れたい気持ちが強くなっている状態です。
- 仕事は安定しているのに辞めたい
- 結婚しているのに今の関係を続けたいと思えない
- キャリアを積んできたのに別の生き方が気になっている
外から見ると順調でも、本人の中では今の人生と自分の感覚が合わなくなっています。
ただ、すでに手に入れているものがあるほど、そこから離れるのは簡単ではありません。
仕事を辞めれば収入や生活が変わる。関係を終えれば住まいや人間関係も変わる。キャリアを変えれば、それまで積み上げてきたものから離れることになります。
そのため、「このままでは嫌だ」と感じながらも、今の場所にとどまり続ける状態が生まれます。
欲しかった人生に入れたのに、そこで生き続けたいとは思えなくなっている。
それがLocked inの苦しさです。
クォーターライフクライシスの4つのフェーズ
では、クォーターライフクライシスは、どのように進んでいくのでしょうか。
2013年の研究では、25歳から35歳までの人が経験した危機をもとに、その流れが4つのフェーズとして整理されています。
全ての人がプロセス通りに進むわけではなく、途中で戻ったり、同じところを行き来したりしながら進む人もいます。
ここから4つの段階について詳しく解説していきます。
1. Locked in|今の人生に閉じ込められる
始まりは、「このままでいいのだろうか」という違和感です。
外から見れば大きな問題はないのに、本人の中では、今の人生をこのまま続けたいとは思えなくなっています。
以前は望んでいた仕事でも、何年か働くうちに興味を失う。
結婚したかったのに、実際に暮らしてみると息苦しさを感じる。
手に入れたはずの人生と、今の自分の感覚が少しずつずれていきます。
それでも、生活や収入、人間関係が今の役割と結びついているため、簡単には離れられません。
「ここにいたくない」という気持ちは強くなっているのに、そこを離れた後の生活は見えない。
今の人生には戻れない気がするのに、次の人生にもまだ進めない。
その間で身動きが取れなくなっているのが、Locked inです。
2. Separation and Time out|これまでの人生から距離を取る
やがて、それまで続けてきた人生との距離が生まれます。
- 仕事を辞める
- 休職する
- 関係を終える
- 住む場所を変える
実際に生活が変わる人もいれば、まだ同じ場所にいながら、気持ちの上では以前のようにそこへ戻れなくなっている人もいます。
それまで自分の一部だったものから離れるため、この時期には解放感と同時に不安も生まれます。
これまで当たり前だった肩書きや役割がなくなると、「では自分は何者なのか」がわからなくなるからです。
古い人生には戻りたくないけれど、次の人生もまだ見えていない。
Separation and Time outは、そのあいだにいる時期です。
3. Exploration|新しい生き方を探索する
少しずつ余白ができると、それまでとは違う方向へ目が向き始めます。
- 別の仕事を調べてみる
- 新しい分野に触れてみる
- これまで関わらなかった人と出会う
- 働き方や暮らし方そのものを変えてみる
Explorationでは、次の人生が最初から決まっているわけではありません。
やってみたら違ったとわかることもあります。
反対に、それまで考えたこともなかったものが自分に合っていると気づくこともあります。
この時期に起きているのは、頭の中だけで人生を決めることではなく、実際に動きながら、自分が何に惹かれ、何には違和感を持つのかを知っていくことです。
少しずつ、「自分はこれなら続けてみたい」と思える方向が見えてきます。
4. Rebuilding|新しい人生を作り直す
クォーターライフクライシス最終フェーズでは、探索を重ねるうちに、もう一度コミットしたいと思えるものが見えてきます。
新しい仕事に就く人もいれば、自分で仕事を始める人もいます。
以前と同じ場所に残りながら、働き方や関係の持ち方を変える人もいます。
Rebuildingは、危機の前の人生に戻ることではなく、一度「このままでは違う」と感じたあとで、人生を組み直していく段階です。
今の人生から出たいのに出られないLocked inから始まり、そこから距離を取り、新しい可能性を試し、再び「ここで生きていこう」と思える場所を作っていく。
クォーターライフクライシスの4つのフェーズは、人生に迷った人が、古い人生から少しずつ離れながら、次の人生へ移っていく流れとして見ることができます。
クォーターライフクライシスを乗り越えるために
では、クォーターライフクライシスの中で人生の方向性を見失ったとき、どうすれば迷いから抜け出していけるのでしょうか。
ここからは今の混乱を整理しながら、次の方向を見つけていく考え方について4つのステップで解説します。
1. まず今の行き詰まり方を見極める
人生全体がうまくいっていないように感じるときほど、悩みをそのまま「人生の問題」にしないことが大切です。
実際には、いくつかの悩みが重なって、ひとつの大きな不安に見えているだけかもしれません。
たとえば、次のような状態では必要になる整理がそれぞれ違います。
- 欲しいものがあるのに手に入らない
- 今持っているものから離れたい
- 何を望んでいるのか自分でもわからない
- 周囲と比べるほど焦りが強くなる
転職したいのか、今の働き方を変えたいのか。
結婚したいのか、周囲に遅れている感覚が苦しいのか。
今の生活を終えたいのか、それとも別の可能性を試してみたいのか。
「私は今、何に行き詰まっているのか」が言葉になると、漠然としていた人生の迷いにも輪郭が出てきます。
2. すぐに人生の正解を決めようとしない
すぐに人生の正解を決めようとしないことが大事になってきます。
迷っているときほど、「早く答えを出したい」という気持ちは強くなり、特に30歳前後は、転職、結婚、出産、住まいなど、時間を意識しやすい選択が重なります。
そのため「今ここで正しい道を決めなければならない」といった、切迫感に苛まれやすいのです。
ですが、人生の方向性が揺れている時期は、そもそも判断の基準そのものが変わっている途中です。
以前は安定した仕事が欲しかったのに、今は自由な働き方に惹かれている。
結婚したいと思っていたけれど、自分が本当に求めている関係について考え直している。
そんな時期に急いで結論だけを出しても、自分の変化が追いついていません。
答えが出ない時間は、何も決まっていない空白ではなく、自分の価値観が組み替わっている途中でもあります。
3. 新しい選択肢を探索する時間を持つ
新しい選択肢を探索する時間を持つことも、クォーターライフクライシスの最中では大事になってきます。
- 興味のある仕事について調べてみる
- 実際にその仕事をしている人と話す
- 副業や学びから小さく試してみる
- いつもとは違う場所やコミュニティに入ってみる
「やってみたら思っていたほど惹かれなかった」と意外に思うこともあるかもしれませんし、反対に、これまで候補にも入れていなかったものに強く惹かれるかもしれません。
探索を重ねると、選択肢の情報だけではなく、自分自身の反応が増えていきます。
何が好きなのかだけではなく、何なら続けたいのか、何には違和感があるのか。
そうした実感が、次の方向を考える材料になっていきます。
4. 次に納得できる人生を少しずつ作る
いくつかの選択肢を見たり試したりしていると、少しずつ「こっちへ進んでみたい」という方向が見えてきます。
そこで初めて、次の人生が現実の形を持ち始めます。
- 転職する
- 今の会社で働き方を変える
- 新しい関係へ進む
- 暮らす場所を変える
- これまで後回しにしていたことを生活の中心に置く
ここで目指すのは、「完璧に満足できる人生」ではなく、今の自分が納得できる方向へ、自分の生活を少しずつ合わせていくことです。
人生に迷う時期をどう生きるか
この記事では、クォーターライフクライシスの定義や起こる背景、4つのフェーズ、迷いから抜け出していく方法について解説してきました。
20代後半から30代は、学生時代を終え、1人の大人として仕事や人間関係、これからの暮らしにどう関わっていくのかを考える時期です。
一方で、コミットしたい仕事や関係に入れない、そもそも何にコミットしたいのかわからない、これまで選んできた生き方が自分に合わなくなるなど、アイデンティティも大きく揺れます。
Locked outでもLocked inでも、人生の方向が揺れているからこそ、自分は何を望み、何に違和感を持っているのかを改めて確かめる時間になります。
クォーターライフクライシスの最中は苦しさを伴いますが、その先では、それまでよりも自分の感覚に合った形で仕事や人間関係を選び、社会と関わっていく道が見えてきます。