「また失敗した。やっぱり私は何をやってもダメだ」
「返信が遅い。きっと嫌われたんだ」
「少し注意されただけなのに、全部否定されたように感じる」
何かが起きたとき、私たちは出来事をそのまま受け取っているわけではなく、自分なりの意味づけをしながら理解しています。
その意味づけの仕方に偏りが生まれている状態を理解するときに使われるのが「認知の歪み」という言葉です。
この記事では、認知の歪みとは何か、代表的な考え方のパターンや似た言葉との違い、自分の認知の歪みに気づく方法について解説していきます。
Contents
- 認知の歪みとは?その定義を解説
- 代表的な認知の歪み
- 1. 白黒思考|0か100かで判断する
- 2. 過度の一般化|一度の出来事を全体に広げる
- 3. 選択的抽象化|一部分だけを取り出して判断する
- 4. 根拠のない推論|事実を確かめずに結論を出す
- 5. 拡大解釈と過小評価|悪い面を大きく良い面を小さく見る
- 6. 個人化|必要以上に自分の責任だと考える
- 認知の歪みに似た言葉との違い
- 1. 自動思考|瞬間的に浮かぶ考え
- 2. 認知|出来事の受け取り方全般
- 3. 思い込み|信念や決めつけを広く指す言葉
- 4. ネガティブ思考|否定的な内容の考え
- 5. 反芻思考|同じことを繰り返し考える
- 6. 完璧主義|高い基準や自己評価に関わる傾向
- 7. 自己肯定感|自分自身をどう評価するか
- 自分の認知の歪みに気づくには
- 1. 起きた事実と自分の解釈を分ける
- 2. その考えを支える根拠を確かめる
- 3. 別の見方ができないか考える
- 認知の歪みを知ると自分の解釈が見えやすくなる
認知の歪みとは?その定義を解説
認知の歪みとは、出来事や情報を受け取って解釈するときに生じる、偏った考え方や推論のパターンを指します。
認知行動療法では、「認知」をものの受け取り方や考え方という意味で捉えます。
同じ出来事が起きても、そこから何を読み取り、どんな意味をつけるかによって、その後に生まれる感情や行動は変わります。
たとえば、仕事で1つミスをしたとします。
「今回は確認が足りなかった」と考えることもできます。
一方で、「私は何をやってもダメだ」と考えることもできます。
起きた出来事は「1つミスをした」ことですが、そこから「何をやってもダメ」という大きな結論まで広げている部分に、認知の偏りがあります。
国立精神・神経医療研究センターの認知行動療法センターでも、強いストレスを受けているときなどには認知に歪みが生じることがあり、自動思考と現実との食い違いを検証しながら思考のバランスを取っていくことが説明されています。
認知の歪みを見るときに焦点になるのは、単純に考えが明るいか暗いかではなく、実際に起きていることから、どのような結論を導き出しているのかという部分です。
代表的な認知の歪み
認知の歪みには、さまざまな分類があります。
アメリカの精神科医アーロン・ベック(Aaron T. Beck、1921–2021)が初期に示した分類が初期に示した分類のほか、その後に追加された分類もあり、「認知の歪みは正式に10種類」と1つに決まっているわけではありません。
ここでは、認知療法の初期から扱われてきたものを中心に、代表的な6つを見ていきます。
1. 白黒思考|0か100かで判断する
1つ目は、物事を0か100かの両極端で捉える白黒思考です。
「成功か失敗か」「できるかできないか」「好かれているか嫌われているか」というように、その間にある状態が見えにくくなります。
たとえば、仕事の資料について1か所修正を求められたときに、「失敗した」「評価されていない」と受け取るようなケースです。
実際には、大部分は問題なく、一部分だけ修正が必要だったのかもしれません。
それでも白黒思考が働くと、一部分の不完全さが全体の失敗のように感じられます。
「ちゃんとできなければ意味がない」「完璧にできないならやらない方がいい」と考えやすい人の場合は、完璧主義とも結びついて現れることがあります。
完璧主義そのものについては、別記事の「完璧主義」で詳しく扱っています。
2. 過度の一般化|一度の出来事を全体に広げる
2つ目は、1つまたは限られた出来事から、より広い結論を出してしまう過度の一般化です。
恋愛で一度うまくいかなかった経験から、「私は誰からも愛されない」と考える。
仕事で失敗した経験から、「私は仕事ができない人間だ」と考える。
誰かに否定された経験から、「どうせ人は私を理解してくれない」と考える。
このように、ある場面で起きたことを「いつも」「全部」「これからも」という範囲まで広げて捉えます。
過去の出来事が、まだ起きていない未来や、自分という人間全体を説明する材料になっていないかを見ると、過度の一般化に気づきやすくなります。
3. 選択的抽象化|一部分だけを取り出して判断する
3つ目は、出来事の一部分だけに強く注目し、全体をその部分から判断する選択的抽象化です。
たとえば、10人から感想をもらい、9人には褒められ、1人から改善点を指摘されたとします。
それでも指摘された1人の言葉だけが頭に残り、「やっぱりダメだった」と感じることがあります。
実際には肯定的な情報も存在していますが、自分が気になった情報だけが大きく見えている状態です。
人と自分を比較するときにも、この見方は起こります。
相手のうまくいっている部分だけを見て、自分のうまくいっていない部分と比べると、「自分だけが劣っている」という結論になりやすくなります。
4. 根拠のない推論|事実を確かめずに結論を出す
4つ目は、十分な根拠を確認しないまま結論を出す考え方です。
- 返信が来ないから怒っている
- 上司に呼ばれたから悪い話に違いない
- 一度失敗したから次もうまくいかない
このように、まだ確認できていないことを、自分の中ではすでに起きている事実のように感じます。
特に人間関係では、相手の気持ちは直接見ることができないため、自分の解釈が入りやすくなります。
「あの人は私を嫌っている」という感覚には、認知の歪みとは別に、自分の内側にある感情を相手のものとして感じる投影という心の働きが関わっている場合もあります。
相手について感じていることと、自分の内側にある感情との関係は「投影とは?」の記事で詳しく解説しています。
5. 拡大解釈と過小評価|悪い面を大きく良い面を小さく見る
5つ目は、失敗や欠点を実際より大きく捉え、成功や長所を小さく捉える考え方です。
何か失敗すると「取り返しのつかないことをした」と感じる一方で、うまくできたことについては「このくらい誰でもできる」と考えます。
褒められても「たまたま」「相手がお世辞を言っているだけ」と受け取れば、自分にとって肯定的な情報はなかなか残りません。
反対に、失敗や否定された経験は強く残ります。
この見方が続くと、実際にはできていることがあっても、自分の中には「できなかったこと」ばかりが積み上がっていきます。
自分の価値を低く見積もる感覚が続いている場合は、「自己肯定感が低いのはなぜ?」の記事ともつながる部分があります。
6. 個人化|必要以上に自分の責任だと考える
6つ目は、自分だけが原因とは限らない出来事まで、自分と強く結びつけて考える個人化です。
相手の機嫌が悪いと「私が何かしたのかもしれない」と考える。
職場の空気が悪いと「自分がもっと気を遣わなければ」と思う。
予定がうまく進まないと「私の段取りが悪かったせいだ」と感じる。
実際の出来事には、相手の事情や環境、タイミングなど、さまざまな要因が関係しています。
それでも自分の責任として引き受ける割合が大きくなると、本来は自分が背負わなくてもいいことまで「自分のせい」と感じやすくなります。
認知の歪みに似た言葉との違い
認知の歪みについて調べていると、自動思考や反芻思考、思い込みなど、近いところで使われる言葉がいくつも出てきます。
それぞれ関係はありますが、同じ現象を指しているわけではありません。
ここからは、混同しやすい7つの言葉との違いを整理していきます。
1. 自動思考|瞬間的に浮かぶ考え
1つ目は、自動思考です。
自動思考とは、ある出来事が起きたときに、意識して考えようとしなくても頭に浮かんでくる考えやイメージを指します。
たとえば、恋人から返信が来ないときに「嫌われたのかも」と瞬間的に浮かぶ考えが自動思考です。
その「嫌われたのかも」という考えが、十分な根拠を確かめずに相手の気持ちを決めつけているのであれば、そこには認知の歪みが含まれている可能性があります。
つまり、自動思考は頭に浮かんだ考えそのものを指し、認知の歪みはその考えを生み出す情報の捉え方や推論のパターンを見る言葉です。
2. 認知|出来事の受け取り方全般
2つ目は、認知です。
認知とは、出来事をどのように受け取り、考え、意味づけるかという広い概念です。
「上司から修正を求められた」という出来事に対して、「もっと良くするための指摘だった」と受け取ることも認知です。
「自分は評価されていない」と受け取ることも認知です。
認知そのものは、私たちが出来事を理解するために日常的に行っている心の働きです。
その認知の中で、情報の見方や結論の出し方に偏りが生じている状態を捉えるときに「認知の歪み」という言葉が使われます。
3. 思い込み|信念や決めつけを広く指す言葉
3つ目は、思い込みです。
「思い込み」は日常で広く使われる言葉で、「私は人に迷惑をかけてはいけない」「弱いところを見せたら嫌われる」といった、その人が強く信じている考えにも使われます。
一方、認知の歪みは、出来事を解釈するときにどのような偏りが起きているのかを見る概念です。
たとえば、「人に迷惑をかけてはいけない」という思い込みを持っている人が、相手の少し困った表情を見て「やっぱり私が迷惑をかけた」と結論づけることがあります。
この場合、もともと持っている思い込みと、目の前の出来事を解釈するときの認知の歪みがつながっていると考えることができます。
4. ネガティブ思考|否定的な内容の考え
4つ目は、ネガティブ思考です。
ネガティブ思考は、不安や失敗、危険など否定的な方向へ意識が向いた考えを広く表す言葉です。
「明日の仕事は大変そうだ」「今回はうまくいかないかもしれない」という考えが、状況を現実的に見た結果であることもあります。
認知の歪みを見るときには、考えがネガティブかどうかだけではなく、その結論にどの程度の根拠があるのか、別の情報が見落とされていないかを確認します。
認知行動療法でも、無理に前向きな考えへ変えることより、現実に照らして考えのバランスを取ることが重視されています。
5. 反芻思考|同じことを繰り返し考える
5つ目は、反芻思考です。
反芻思考とは、同じ出来事や感情について繰り返し考え続ける思考のプロセスを指します。
「あのとき何であんなことを言ったんだろう」
「別の言い方をしていればよかった」
「どうして私はいつもこうなんだろう」
このような考えが頭の中で何度も続く状態です。
認知の歪みが「どのように解釈しているか」に注目するのに対して、反芻思考は「同じことを繰り返し考え続けている」という思考の続き方に注目します。
たとえば、「一度失敗したから私は何をやってもダメだ」という過度の一般化を、何時間も何日も繰り返し考え続けることもあります。
この場合は、認知の歪みと反芻思考が同時に起きています。
反芻思考そのものの仕組みについては「反芻思考」の記事で詳しく解説しています。
6. 完璧主義|高い基準や自己評価に関わる傾向
6つ目は、完璧主義です。
完璧主義は、高い基準を求めたり、失敗を強く避けたり、達成できたかどうかを自分の評価と結びつけたりする傾向に関わる概念です。
その中で「完璧にできなければ失敗だ」と考えれば白黒思考が、「小さなミスをしたから全部ダメだ」と考えれば過度の一般化が現れることがあります。
つまり、完璧主義の人に認知の歪みが現れることはありますが、完璧主義そのものが認知の歪みの1種類というわけではありません。
完璧主義の背景や現れ方については「完璧主義」の記事で詳しく扱っています。
7. 自己肯定感|自分自身をどう評価するか
7つ目は、自己肯定感です。
自己肯定感は、自分という存在をどのように受け止めているかに関わる概念です。
一方、認知の歪みは、出来事や情報をどう解釈しているかという思考のパターンに注目します。
たとえば、自己肯定感が低い状態で仕事に失敗すると、「今回失敗した」から「やっぱり私はダメな人間だ」へ結論が広がりやすくなることがあります。
そのときに使われている考え方には、過度の一般化や白黒思考などが含まれているかもしれません。
このように両者は影響し合うことがありますが、見ているものは同じではありません。
自己肯定感そのものについては「自己肯定感が低いのはなぜ?原因・特徴・高め方を解説」で詳しく扱っています。
自分の認知の歪みに気づくには
認知の歪みは、自分の中では自然な考えとして浮かんでくるため、その瞬間には偏りに気づきにくいものです。
考えをすぐに変えようとするよりも、まず自分がどのように出来事を解釈しているのかを見ることが入口になります。
ここからは、自分の考え方を整理するときに使える3つの視点を見ていきます。
1. 起きた事実と自分の解釈を分ける
1つ目は、実際に起きたことと、そこから自分が読み取ったことを分ける方法です。
たとえば、
「メッセージを送って5時間返信が来ていない」
というのは、確認できる事実です。
そこから、
- 怒っている
- 嫌われた
- もう大切にされていない
と考えたなら、それは事実から生まれた自分の解釈です。
この2つが頭の中で一体になっていると、「嫌われた」という解釈まで事実のように感じます。
「何が実際に起きたのか」と「私はそこから何を読み取ったのか」を分けてみると、自分の考え方が見えやすくなります。
この分け方は「気持ちの切り替えができない原因と対処法」でも扱っています。
2. その考えを支える根拠を確かめる
2つ目は、自分の考えを支えている根拠を確認することです。
「私は仕事ができない」と感じたときに、「そう判断できる事実は何だろう」と見ていきます。
ミスをしたことは事実かもしれません。
一方で、これまでできてきた仕事や評価された経験もあるかもしれません。
「相手は私を嫌っている」と感じたときも同じです。
そう感じる材料が本当にあるのか、自分の予想が大きくなっているのかを確認します。
認知行動療法では、自動思考をただ否定するのではなく、その考えを支える根拠と、別の見方につながる情報の両方を検討しながら、現実に合う考え方を探していきます。
3. 別の見方ができないか考える
3つ目は、今浮かんでいる考え以外に、どんな見方ができるかを考えることです。
返信が来ないなら、「嫌われた」以外にも「忙しい」「まだ見ていない」「あとで返そうと思っている」など、複数の可能性があります。
仕事で失敗したなら、「私は何をやってもダメ」以外にも、「今回は確認が足りなかった」「初めての仕事だった」「次に確認するポイントが分かった」という見方ができます。
別の見方を考える目的は、自分に都合のいい答えを作ることではありません。
1つの解釈だけで出来事全体を決めず、今ある情報から考えられる可能性を広げることです。
「私は今、何を事実として知っていて、何を自分の中で付け加えているのだろう」
そう問い直すことで、自分の認知のパターンが少しずつ見えやすくなります。
認知の歪みを知ると自分の解釈が見えやすくなる
この記事では、認知の歪みの意味や代表的なパターン、似た言葉との違い、自分の認知の歪みに気づくための視点について解説してきました。
同じ出来事を経験していても、そこから何を読み取るかによって、私たちの感情や行動は変わります。
一度の失敗から「全部ダメだ」と考えているのか。
相手の態度から「嫌われた」と結論づけているのか。
できなかったことだけを見て、自分全体を評価しているのか。
考えている内容だけではなく、その結論まで自分がどのようにたどり着いたのかを見ると、自分の考え方の癖が見えてきます。
まずは、実際に起きたことと、自分がそこから読み取ったことを分けてみる。
その小さな確認から、自分が見ている出来事を少し違う角度から眺められるようになります。