「トラウマ」という言葉は、日常会話でもよく使われています。
過去の出来事を思い出してつらくなったときや、昔の経験が今の人間関係に影響しているように感じたときに、「これもトラウマなのかな」と考えることもあるでしょう。
心理学や精神医学では、日常で使う「トラウマ」よりも意味を狭く捉えることがあります。
この記事では、トラウマの基本的な意味や使われる範囲、過去の体験が現在に残す影響について解説していきます。
Contents
トラウマとは?その定義を解説
トラウマとは、自分では受け止めきれないほど強い衝撃を受けた体験によって、心に傷が残ることを指します。
日本語では「心的外傷」と訳されます。
国立精神・神経医療研究センターでは、命の危険を感じる体験や深刻なけが、性的な被害、暴力など、心身に大きな衝撃を与える出来事がトラウマにつながることがあると説明しています。
災害や事故のように突然起こる出来事もあれば、暴力や虐待のように繰り返し受ける体験もあります。
こうした出来事は「トラウマ体験」「外傷的出来事」などと呼ばれます。
そこから生じる心の傷を指して「トラウマ」と呼ぶのが本来の意味ですが、実際には出来事そのものを「トラウマ」と表現することもあります。
また、「トラウマ」という言葉が指す範囲も、使われる場面によって少しずつ異なります。
医療と日常で異なるトラウマの範囲
トラウマは、医療で診断に関わるときと、心理支援や日常会話で使うときとで、指している範囲が異なります。
医療では、心的外傷後ストレス症(PTSD)の診断に関わる外傷的出来事について、一定の基準があります。
心理支援や日常会話では、そこからさらに広い意味で「トラウマ」という言葉が使われることがあります。
ここでは、3つの使われ方に分けて見ていきます。
1. PTSD診断で扱う外傷的出来事
PTSDの診断では、原因となる出来事について一定の基準があります。
代表的なのは、命の危険にさらされるような出来事や深刻なけが、性的な暴力などです。
自分自身が経験した場合だけでなく、そうした出来事を目の前で見たり、身近な人に起きた出来事を知らされたりした場合が含まれることもあります。
医療でいう外傷的出来事は、日常で使う「トラウマ」よりも狭い範囲を指しています。
つらかった経験や傷ついた経験が、すべてPTSDの診断でいう外傷的出来事に当てはまるわけではありません。
2. 心理支援で扱う広いトラウマ体験
トラウマは、もう少し広い意味で捉えられることもあります。
国立精神・神経医療研究センターでは、いじめやハラスメントなどによる傷つきも、広い意味ではトラウマに含める場合があると説明しています。
この場合は、何が起きたのかだけではなく、その体験が本人にとってどれほど大きなものだったのか、その後にどのような影響が残っているのかも含めて見ていきます。
同じ出来事を経験しても、感じ方やその後に残る影響は人によって異なります。
過去の経験が今の感情や行動にどうつながっているのかを理解するときにも、トラウマという言葉が使われています。
3. 日常語としてのトラウマ
日常会話では、「思い出したくないほど嫌だった経験」という意味でトラウマという言葉を使うことがあります。
失恋や大きな失敗、強く怒られた経験などを「あれがトラウマになっている」と表現することもあるでしょう。
この場合の「トラウマ」は、医療で扱う外傷的出来事よりもかなり広い意味を持っています。
自分にとってつらい経験だったことと、PTSDの診断で扱われる外傷的出来事に当てはまることは同じではありません。
また、つらい記憶が残っていることや、体験の後に不安や緊張などのストレス反応が出ていることだけで、PTSDと判断されるわけでもありません。
同じ「トラウマ」という言葉でも、どの場面で使われているのかによって意味する範囲が変わります。
感情・行動・対人関係に残る影響
強い衝撃を受けた後には、その出来事が過ぎ去った後も感情や行動に影響が残ることがあります。
何に反応するのか、どのような形で表れるのかは人によってさまざまです。
ここでは、過去の体験が現在に表れる代表的な3つの形を見ていきます。
1. 似た場面でよみがえる感情
過去の出来事を思い出させるものに触れたとき、当時と似た感情や身体の反応が起こることがあります。
事故を経験した人が似た場所に近づいたときに身体がこわばったり、暴力を受けた人が似た声や物音に強く反応したりするケースです。
出来事そのものを、はっきり思い出しているとは限りません。
「なぜかわからないけれど、この場面になると怖くなる」という形で表れることもあります。
過去に危険と結びついた場所や音、におい、相手の表情などが、現在の反応を引き起こすきっかけになることもあります。
2. 危険を避ける回避行動
つらい体験を思い出させるものから距離を取るようになることもあります。
特定の場所に行かない、人に会わない、その出来事について考えないようにするなど、避け方はさまざまです。
危険だったものから離れようとする反応は、自分の身を守るために起こります。
その範囲が広がっていくと、行ける場所やできること、人と関われる範囲まで狭くなることがあります。
最初は1つのものを避けていただけでも、似たものまで避けるようになる場合があります。
3. 人への警戒と距離の変化
人から傷つけられた経験は、その後の人との関わり方に影響することがあります。
裏切りや暴力などを経験した後に、人を信用することが難しくなったり、「また同じことが起こるかもしれない」と警戒しやすくなったりすることがあります。
人と親しくなることを避ける、相手の言動に敏感になる、自分を守るために距離を取りやすくなるなど、対人関係に表れる形もさまざまです。
人を信用したいのにできないと感じる背景には、過去に傷ついた経験が関わっている場合もありますが、それだけが原因とは限りません。
同じように、恋愛で同じパターンを繰り返すことにも、愛着や依存、親子関係など複数の背景が考えられます。
現在の人間関係だけを見て、過去にトラウマがあるかどうかを判断することはできません。
トラウマの影響には個人差がある
同じような体験をしても、その後に残る影響は人によって異なります。
強く影響が残る人もいれば、時間とともに少しずつ落ち着いていく人もいます。
また、どのような形で反応が表れるのかも同じではありません。
ここでは、トラウマの影響に見られる3つの個人差を見ていきます。
1. 残る影響の大きさ
同じような出来事でも、その後に残る影響の大きさは人によって異なります。
そのときにどれほど危険や恐怖を感じたのか、どのような状況に置かれていたのか、その後に周囲から支えを得られたかなど、さまざまなことが関わります。
そのため、出来事の内容だけを比べても、その人が受けた影響の大きさまではわかりません。
「もっと大変な経験をした人がいるから」と出来事の大きさを比べるより、自分の中に今どのような影響が残っているのかを見ることが、状態を理解する手がかりになります。
2. 表れやすい反応
トラウマの影響がどこに表れやすいのかも人によって異なります。
感情に強く表れる人もいれば、身体の緊張や睡眠の変化として表れる人、行動や人間関係に表れる人もいます。
いくつかの反応が重なって現れることもあります。
同じような体験をしていても、その後に抱える困りごとまで同じになるわけではありません。
3. 落ち着くまでの時間
出来事の後に起こった反応が落ち着くまでの時間も、人によって異なります。
最初は強い反応があっても、時間とともに少しずつ和らいでいくことがあります。
長く影響が続くこともあれば、一度落ち着いた後に、何かをきっかけとして再び強く表れることもあります。
現在の状態を見るときには、どのような反応があるのかだけでなく、それがどのくらい続いているのかも手がかりになります。
トラウマは過去と現在のつながりを考える手がかり
この記事では、トラウマの意味と、医療や日常で使われる範囲の違い、過去の体験が現在に残す影響について解説してきました。
トラウマという言葉には、医療で使われる狭い意味から、心理的な傷つきを広く捉える意味まで幅があります。
また、同じような体験をしても、どのような影響がどのくらい残るのかは人によって異なります。
過去に何があったのかだけでなく、その経験が今の自分にどのようにつながっているのかを見ることで、現在感じている苦しさを理解する手がかりが見えてきます。