「最近シンクロが多い」「シンクロが起きたから願いが叶うかも」
潜在意識やスピリチュアルの話に触れていると、こんな使われ方を目にすることもあるでしょう。
一方、日常では「動きがシンクロしている」「タイミングがシンクロした」のように、2つのものが同時に重なったり、ぴったり合ったりする意味でも「シンクロ」という言葉が使われています。
今ではかなり幅広い意味を持つ「シンクロ」ですが、心理学におけるシンクロニシティという概念を生み出したのは、分析心理学を築いたカール・グスタフ・ユングです。
この記事では、現在広く使われている願望実現やスピリチュアルな解釈からいったん離れ、ユング心理学におけるシンクロニシティとは何を意味するのかについて解説していきます。
定義だけでなく、人生の中で「偶然なのになぜか意味がある」と感じる体験をユング心理学から読みたい場合は、「偶然なのになぜか意味がある|シンクロニシティ」も参考になります。
Contents
- シンクロニシティとは?その定義を解説
- 「黄金のスカラベの夢」から見るシンクロニシティ
- ユングはシンクロニシティをどう考えたのか
- 1. 因果ではなく意味によって結びつく現象
- 2. 心の内側と外の出来事が対応する現象
- 3. 因果性とは別の連関原理
- シンクロニシティと因果関係は何が違うのか
- 1. 原因と結果のつながりを前提にしない
- 2. 出来事同士の関係を意味によって捉える
- シンクロニシティと単なる偶然は何が違うのか
- 1. 偶然に重なっただけではシンクロニシティとは限らない
- 2. 意味のある対応が成立することが重要になる
- 元型や集合的無意識とどう関係するのか
- 1. ユングは元型の活性化とシンクロニシティを結びつけた
- 2. 集合的無意識をその背景にある心の層として考えた
- 現在使われる「シンクロ」とユングの概念は何が違うのか
- 1. 願いが叶う前兆という意味はユングの定義ではない
- 2. 宇宙からのメッセージという断定もユングの定義ではない
- 3. 現在の「シンクロ」には後から広がった意味も含まれている
シンクロニシティとは?その定義を解説
シンクロニシティ(synchronicity)とは、心の内側で起きていることと外の世界で起きた出来事が、因果関係では説明できないにもかかわらず、意味のある対応として現れることを指す概念です。
日本語では「共時性」と訳され、一般には「意味のある偶然の一致」と説明されることが多くあります。
この概念を提唱したのが、スイスの精神科医で分析心理学を築いたカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875–1961)です。
ユングはシンクロニシティを、原因と結果によるつながりとは異なる「非因果的連関原理」として論じました。
シンクロニシティだけでなく、シャドウやペルソナ、個性化などを含めてユング心理学から人生を読みたい場合は、ユング心理学「個性化」から人生を読むシリーズも参考になります。
「黄金のスカラベの夢」から見るシンクロニシティ
ユングがシンクロニシティの代表例として紹介したことで知られているのが、「黄金のスカラベ」のエピソードです。
まず、スカラベとは虫の名前で、日本ではあまり馴染みがありませんが、コガネムシなどに近い甲虫の仲間で、古代エジプトでは神聖な象徴として扱われていました。
スカラベの形をかたどった護符や宝飾品も作られていたため、「黄金のスカラベ」といっても、ここで患者が夢に見たのは本物の虫ではありません。
患者は夢の中で、黄金のスカラベをかたどった高価な宝飾品を誰かから贈られたとユングに話していました。
そして、その夢について診察室で話している最中、ユングの背後にある窓を何かがコツコツと叩きました。
窓の外にいたのは、ローズ・チェーファーと呼ばれるコガネムシの仲間でした。
金緑色に光る甲虫で、ユングは自分たちの地域にいる虫の中では「黄金のスカラベ」に最も近いものだと説明しています。
ユングは窓を開けてその虫を捕まえると、患者に差し出して「これがあなたのスカラベです」と伝えました。
ここで起きていることを整理すると、患者の心の内側では「黄金のスカラベの夢」があり、その夢を語っているまさにそのとき、外の世界では「黄金のスカラベによく似た虫」が現れています。
患者が夢を見たから虫が飛んできたわけでも、虫が飛んでくるから患者がその夢を見たわけでもありません。
2つの出来事の間に、通常の因果関係は見つかりません。
それでも、夢の中のイメージと現実の出来事が、本人にとって意味のある形で一致している。
ユングがシンクロニシティという言葉で捉えようとしたものを理解するうえで、このエピソードはとてもわかりやすい例です。
ユングはシンクロニシティをどう考えたのか
ユングがシンクロニシティという言葉を考え始めたのは、晩年になって突然ではありません。
国際分析心理学会(IAAP)の資料では、1928年の私的なセミナーですでに「意味のある偶然」について論じており、1929年には自ら「synchronicity」という言葉を作ったと述べた記録が紹介されています。
その後、長い期間をかけて考察を重ね、1950年代に「非因果的連関原理」として本格的に論じました。
では、ユングはこの概念をどのようなものとして考えていたのでしょうか。
1. 因果ではなく意味によって結びつく現象
ユングがシンクロニシティを説明するときに繰り返し現れるのが、「因果性」との対比です。
私たちは通常、出来事と出来事の関係を、
「なぜ起きたのか」
という原因から理解します。
ユングは、それとは異なる形で出来事同士が関連して見える現象に注目しました。
そこでは、一方がもう一方を発生させたという物理的なつながりではなく、2つの出来事に共通する「意味」が関係を作っています。
1949年にユングが『易経』の英訳版へ寄せた序文でも、シンクロニシティは、時間と空間の中で起こる出来事の一致を単なる偶然以上のものとして捉える考え方として説明されています。
2. 心の内側と外の出来事が対応する現象
ユングが特に関心を持っていたのは、人間の心の中で起きていることと、外の世界で起きていることの対応です。
- 夢の中に現れたイメージと、現実に起きた出来事
- 頭に浮かんだ内容と、外界で偶然起きた出来事
こうした内的な経験と外的な出来事が、同じ意味を持つように重なることがあります。
ユングのシンクロニシティは、単に「偶然って不思議だね」という話ではなく、心と外界の間に現れる意味の対応をどう理解するかという問題へ広がっていきました。
そのためシンクロニシティは、ユング心理学の中でも、心だけを扱う範囲を越えて、心と世界との関係まで考えようとした概念の1つになっています。
3. 因果性とは別の連関原理
ユングは、シンクロニシティを「非因果的連関原理」と呼びました。
ここでいう非因果的とは、原因と結果の連鎖によって結ばれていないという意味です。
ユングは因果性そのものを捨てようとしたのではなく、因果関係だけでは扱いにくい現象を考えるために、もう1つの原理としてシンクロニシティを提示しました。
この考えは、物理学者ヴォルフガング・パウリ(Wolfgang Pauli)との交流の中でも深められ、1952年にはユングのシンクロニシティ論とパウリの論文を収めた『自然現象と心の構造』が刊行されています。
シンクロニシティは、現在の自然科学で因果法則と同じように確立された法則という位置づけではありません。
ユングが、人間の経験の中に現れる「意味のある偶然」を説明するために提示した仮説的な原理として理解すると、その位置づけが見えやすくなります。
シンクロニシティと因果関係は何が違うのか
シンクロニシティを理解するうえで、因果関係との違いは中心的なポイントです。
どちらも複数の出来事の間に何らかの関係を見ますが、何を根拠として出来事を結びつけるのかが異なります。
2つの違いを整理してみましょう。
1. 原因と結果のつながりを前提にしない
因果関係では、ある出来事が別の出来事を発生させる原因になります。
たとえば、久しぶりに友人へメッセージを送ったあと、その友人から電話が来たとします。
この場合は、
「自分がメッセージを送った」
という出来事が、
「友人が電話をかけた」
という次の出来事につながった可能性を考えられます。
一方、その友人のことを何年ぶりかに突然思い出し、「元気かな」と考えていた瞬間に本人から連絡が来た場合には、思い出したことが相手の連絡を引き起こしたという通常の因果関係は確認できません。
ユングがシンクロニシティとして考えたのは、このように原因と結果では結べない出来事の一致です。
2. 出来事同士の関係を意味によって捉える
因果関係が「何がこの出来事を起こしたのか」を見るのに対して、シンクロニシティでは「この2つの出来事が、どのような意味で対応しているのか」が中心になります。
先ほどの友人の例でも、何年も思い出していなかった人を強く思い出した瞬間に本人から連絡が来れば、多くの人は単なる確率の話だけでは終わらない印象を受けるかもしれません。
さらに、その友人が自分の人生の大きな転換点に関係する人物だった場合、その一致は本人にとってより大きな意味を持つ可能性があります。
ユングが注目したのは、そのような心理的な意味を伴った一致でした。
原因を発見する考え方と、意味による対応を見る考え方。
この違いが、因果性とシンクロニシティを分ける大きな境目です。
シンクロニシティと単なる偶然は何が違うのか
シンクロニシティも、出来事だけを見れば「偶然」です。
そのため、ユング心理学におけるシンクロニシティと、日常的に起きる偶然をどう分けるのかは気になるところでしょう。
ユングの考え方では、出来事の珍しさよりも「意味」が大きな位置を占めています。
1. 偶然に重なっただけではシンクロニシティとは限らない
偶然とは、意図していない出来事がたまたま起きることです。
その中には、本人にとって特別な意味を持たない一致も数多くあります。
- カフェに入ったら隣の人と同じ色の服を着ていた
- 電車で向かいに座った2人が同じバッグを持っていた
- 同僚と昼食に同じメニューを選んだ
こうした出来事も偶然の一致ですが、本人の心理状態との間に特別な対応がなければ、ユングが論じたシンクロニシティとは性質が異なります。
「めったに起こらない出来事かどうか」だけが基準になるわけでもありません。
どれほど珍しい偶然であっても、その人の内的な状態と意味の上で結びついていなければ、ユングの定義するシンクロニシティの中心からは外れます。
2. 意味のある対応が成立することが重要になる
ユングのシンクロニシティで重要になるのは、偶然に起きた出来事と、その人の内的な体験の間に「意味のある対応」が生じていることです。
ユングの著作では、無意識のイメージが夢や考え、予感などとして意識に現れ、それと対応する外的な状況が起きるという形が説明されています。
このときの「意味」は、誰にとっても同じである必要はありません。
ある人には大きな意味を持つ出来事が、別の人には何の意味も持たないこともあります。
シンクロニシティが「意味のある偶然の一致」と呼ばれるのは、このように出来事そのものだけで完結せず、それを経験する人の心理状態まで含めて成立する概念だからです。
元型や集合的無意識とどう関係するのか
シンクロニシティは、ユング心理学の他の概念から完全に独立して生まれたものではありません。
ユングは、人間個人の経験だけでは説明できない深い心の層として「集合的無意識」を考え、その中に人類に共通する心理的なパターンである「元型」が存在すると考えました。
シンクロニシティも、この元型の働きと深く関係するものとして論じられています。
1. ユングは元型の活性化とシンクロニシティを結びつけた
元型とは、人間の心に繰り返し現れる根源的なパターンを説明するためにユングが用いた概念です。
母、英雄、死と再生、自己など、人類の神話や物語、夢の中に繰り返し現れるイメージやテーマの背景に、ユングは共通する心理的な構造を考えました。
そしてシンクロニシティについても、こうした元型的な内容が強く活性化しているときに現れやすいと考えていました。
現代の分析心理学でも、シンクロニシティは強い感情を伴う時期や、危機、転換期、病気、重要な心理的発達の時期と関係して現れるというユングの考えが整理されています。
本人の人生にとって大きなテーマが心の中で動いているとき、そのテーマと対応するような出来事が外界でも起きる。
ユングは、そのような現象の背景に元型の働きを見ていました。
2. 集合的無意識をその背景にある心の層として考えた
ユング心理学では、無意識を個人的な経験だけからできているものとは考えません。
個人の記憶や経験に由来する「個人的無意識」のさらに深いところに、人類に共通する「集合的無意識」があると考えました。
元型は、その集合的無意識に属する基本的な心理構造として位置づけられています。
シンクロニシティについて考察を深める中で、ユングはさらに心と物質を完全に切り離されたものとして見るだけでは捉えきれない領域へ進んでいきました。
後期のシンクロニシティ論では、精神と物質が分かれる以前の基盤として「ウヌス・ムンドゥス(unus mundus)」という考えにも接近していきます。
また、ユングとパウリの議論では、心と物質の境界に関わる「サイコイド的元型」という考え方も重要になりました。
このあたりまで進むと、シンクロニシティは単なる「不思議な偶然」の話ではなくなります。
ユングが、人間の心と世界がどのようにつながっているのかという大きな問題を考えるために発展させた概念だったことが見えてきます。
現在使われる「シンクロ」とユングの概念は何が違うのか
現在の「シンクロ」という言葉には、ユングがシンクロニシティとして論じた内容よりも、かなり広い意味が含まれています。
特に潜在意識や自己啓発、スピリチュアルの領域では、願望実現や人生のサインと結びつけて説明されることもあります。
最後に、現在のカジュアルな使われ方とユングの概念を分けて整理してみましょう。
1. 願いが叶う前兆という意味はユングの定義ではない
現在は、
- シンクロが増えたら願いが叶う前兆
- シンクロが起きるのは現実が動き始めたサイン
といった形で、シンクロニシティが願望実現と結びつけられることがあります。
ユングがシンクロニシティによって説明したのは、内的な心理状態と外的な出来事の間に生じる、因果では説明できない意味のある一致です。
そこには「シンクロニシティが起きたあとに願いが叶う」という決まった順序や結果は含まれていません。
シンクロニシティは未来を予告するためのサインというよりも、起きた出来事同士にどのような意味の対応があるのかを考えるための概念です。
2. 宇宙からのメッセージという断定もユングの定義ではない
シンクロニシティは「宇宙がサインを送っている」と説明されることもあります。
ユング自身も、シンクロニシティを考える過程で、心と物質の関係や世界全体のつながりという非常に大きなテーマまで踏み込んでいました。
そのため、ユングのシンクロニシティ論には、一般的な心理学用語の説明だけでは収まらない哲学的・形而上学的な側面があります。
一方で、「宇宙という存在が個人に特定のメッセージを送り、その内容を偶然の出来事によって伝えている」という仕組みを、ユングがシンクロニシティの定義として提示したわけではありません。
- この数字を見たから進むべき
- この人と何度も会うから運命の相手
- この出来事が起きたから宇宙がYESと言っている
といった個別の意味づけには、ユングの定義を越えた解釈が加わっています。
3. 現在の「シンクロ」には後から広がった意味も含まれている
現在「シンクロ」という言葉を聞いたときには、いくつかの異なる意味が混ざっています。
音楽やダンス、映像などで「タイミングや動きが同期している」という意味で使われるシンクロ。
ユング心理学でいう、内的な心理状態と外的な出来事の「意味のある偶然の一致」としてのシンクロニシティ。
そして、潜在意識やスピリチュアルの領域で使われる、願望実現や人生のサインとしてのシンクロ。
同じ「シンクロ」という言葉でも、指しているものは同じではありません。
ユングが考えたシンクロニシティの原点まで戻ると、その中心にあるのは「願いが叶うかどうか」ではなく、因果関係のない心の出来事と外界の出来事が、意味を通して対応するという現象をどう考えるかという問いです。
現在カジュアルに使われている「シンクロ」という言葉の原流を辿ることで、ユングがシンクロニシティという概念を通して考えようとしていたものが、よりはっきりと見えてきます。