ASDという言葉を聞いた時に「人とのコミュニケーションが苦手なこと?」「こだわりが強いこと?」とイメージする人が多いのではないでしょうか。
実際には、ASDは1つの性格や行動だけを指す言葉ではなく、いくつかの特徴や発達の経過、日常生活への影響などを含めて捉える概念です。
この記事ではASDの定義や特徴、診断の考え方、アスペルガー症候群やADHD、HSPとの違いについて解説していきます。
Contents
- ASDとは?その定義を解説
- ASDの特徴が現れやすい範囲
- 1. 人とのやり取りや関係づくりの特徴
- 2. 行動や興味の反復性や感覚の特徴
- ASDの特徴は人によってどう違う?
- 1. 人とのやり取りの現れ方に幅がある
- 2. 行動や感覚の現れ方に幅がある
- 3. 知的発達や言語能力にも幅がある
- ASDはどのように診断される?
- 1. 発達歴を確認する
- 2. 現在の行動や生活への影響を確認する
- 3. 必要に応じて検査や観察を組み合わせる
- アスペルガー症候群はASDとどんな関係?
- 1. 以前は別の診断名として使われていた
- 2. 現在はASDに統合されている
- 3. ASDの重さを表す名称ではない
- ASDとADHDとHSPはどう違う?
- 1. ASDは対人面と反復的な行動が診断の中心
- 2. ADHDは不注意や多動性・衝動性が診断の中心
- 3. HSPは診断名ではなく感受性を表す概念
- ASDは一つの特徴だけで判断するものではない
ASDとは?その定義を解説
ASDとは、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)と呼ばれる神経発達症の1つです。
主に、人とのコミュニケーションや関係づくり、行動や興味の持ち方、感覚の感じ方などに特徴がみられます。
アメリカ精神医学会(APA)の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版(DSM-5-TR)」では、人とのやり取りや関係づくりに関する特徴と、同じ行動を繰り返したり特定のことに強く関心を持ったりする特徴が、ASDを考えるうえで大きなポイントになっています。
こうした特徴は子どものころからみられることが多く、学校や仕事、人間関係など日常生活にどのような影響があるかも含めて診断されます。
ASDの「スペクトラム」には、特徴の現れ方には幅があるという意味があります。
人との関わり方に特徴が強く出る人もいれば、行動や感覚の特徴が目立つ人もいます。
知的発達や言葉の使い方にも違いがあり、同じASDでも一人ひとり現れ方は異なります。
ASDの特徴が現れやすい範囲
ASDの特徴は、大きく分けると、人とのやり取りや関係づくりに関するものと、行動や興味、感覚に関するものがあります。
どれか1つの特徴だけを見るのではなく、いくつかの特徴がどのように重なっているのかを見ていくことが大切です。
ここからは、ASDの特徴が現れやすい範囲を2つに分けて見ていきます。
1. 人とのやり取りや関係づくりの特徴
1つ目は、人とのやり取りや関係づくりに現れる特徴です。
会話ができるかどうかだけではなく、相手と言葉や気持ちをやり取りすること、表情や視線から相手の様子を読み取ること、その場に合わせて人との距離感を調整することなどにも特徴が現れます。
たとえば、自分の好きな話題を中心に話しやすい、相手がどのくらい興味を持っているのか分かりにくい、言葉にされていない気持ちや意図をつかみにくいといったことがあります。
同じASDでも、あまり話さない人もいれば、よく話す人もいます。
会話自体は問題なくできているように見えても、その場の暗黙のルールや相手との距離感を読み取るために、とても疲れてしまう人もいます。
こうした特徴は、日常のなかで「相手の気持ちが分かりにくい」「なぜか話がかみ合わない」といったすれ違いにつながることがあります。
人の気持ちを理解することについては、相手の立場に立って考えるトレーニング|仕事や人間関係で使える練習方法でも詳しく解説しています。
2. 行動や興味の反復性や感覚の特徴
2つ目は、行動や興味の持ち方、感覚に現れる特徴です。
同じ動きや言葉を繰り返す、いつもと同じ手順や予定を好む、急な変化に戸惑いやすい、特定のことに強く関心を持つといった形で現れることがあります。
何に興味を持つかというよりも、その興味にどのくらい強く集中するか、生活のなかでどのくらい大きな割合を占めているかなどが関係してきます。
感覚の感じ方にも違いがあります。
音や光、におい、肌ざわりなどをとても強く感じる人もいれば、痛みや暑さ、寒さなどを感じにくい人もいます。
人とのやり取りや、周りから入ってくるたくさんの刺激に対応し続けることで、人と過ごしたあとにぐったり疲れてしまうこともあります。
人間関係や刺激による疲れについては、人といると疲れる自分は病気?その原因と対策を解説でも複数の背景から整理しています。
ASDの特徴は人によってどう違う?
ASDは「スペクトラム」と呼ばれるように、同じ診断名であっても特徴の組み合わせや現れ方には幅があります。
ある特徴が目立つ人もいれば、周囲からは気づかれにくい形で現れる人もいます。
ここからはその違いを3つの側面から見ていきます。
1. 人とのやり取りの現れ方に幅がある
1つ目は、人とのやり取りに関する特徴の現れ方です。
自分から人に話しかけることが少ない人もいれば、積極的に話しかける人もいます。
言葉を多く使えることと、相手との相互的なやり取りを自然に調整できることも同じではありません。
会話量だけでは分からず、話題を共有すること、相手の反応に合わせること、場面によって伝え方を変えることなど、さまざまな部分に違いが現れます。
また、経験を重ねるなかで人との接し方を学び、外からは特徴が分かりにくくなる人もいます。
その場合でも、状況を読み取ったり周囲に合わせたりするために大きなエネルギーを使っていることがあります。
2. 行動や感覚の現れ方に幅がある
2つ目は、行動や感覚に関する特徴の幅です。
予定や手順へのこだわりが目立つ人もいれば、特定の興味への集中として現れる人もいます。
同じ行動を繰り返す特徴が目立つ場合もあれば、外からは分かりにくい考え方や習慣の固定性として現れる場合もあります。
感覚についても、特定の音だけが苦手、衣服の触感が気になる、強い光で疲れやすいなど、反応する刺激は人それぞれです。
反対に、一部の感覚刺激への反応が弱く現れることもあります。
どの領域にどの程度の特徴があるかによって、日常生活で感じる困難も変わります。
3. 知的発達や言語能力にも幅がある
3つ目は、知的発達や言語能力の違いです。
ASDのある人の知的能力や言語能力は一様ではありません。
知的発達症を伴う人もいれば、伴わない人もいます。
言葉によるコミュニケーションに大きな支援を必要とする人もいれば、豊富な語彙を使って会話できる人もいます。
DSM-5-TRでも、ASDについて知的発達の障害や言語の障害を伴うかどうかを分けて記載する仕組みが採用されています。
そのため、話し方が流暢であることや学業成績が高いことだけから、ASDの有無や生活上の困難の大きさを判断することはできません。
ASDはどのように診断される?
ASDの診断では、目の前にある1つの特徴だけを見るのではなく、幼少期から現在までの発達の経過や複数の場面での様子を総合的に確認します。
診断基準を参考にしながら、その特徴が生活の中でどのように現れているのかも見ていきます。
ここからは診断で確認される内容を3つに分けて見ていきます。
1. 発達歴を確認する
1つ目は、子どものころから現在までの成長の流れです。
ASDの診断では、今どのような特徴があるかだけでなく、子どものころからどのような様子があったのかも確認します。
幼いころの遊び方や人との関わり方、言葉の発達、興味の持ち方や行動の傾向などについて、本人から話を聞いたり、必要に応じて家族から当時の様子を聞いたりすることがあります。
大人になってから診断を受ける場合も、今困っていることだけでなく、似たような特徴が子どものころから続いていたかどうかを見ていきます。
成長するなかで特徴の出方が変わったり、周りに合わせる方法を身につけたりする人もいるため、これまでの経過を振り返ることも大切になります。
2. 現在の行動や生活への影響を確認する
2つ目は、今どのような特徴があり、それが生活にどのくらい影響しているかという点です。
診察では、人とのやり取りや関係づくり、行動や興味の持ち方、感覚の特徴などを見ていきます。
あわせて、家庭や学校、仕事、人間関係のなかで、どのような場面に困りやすいのかも確認します。
DSM-5-TRでも、ASDの特徴が日常生活や仕事などに影響しているかどうかは、診断を考えるうえで大切なポイントになっています。
似たような行動が1つあるだけで診断が決まるわけではなく、これまでの成長の流れやいくつかの特徴、今の生活への影響を合わせて見ていきます。
3. 必要に応じて検査や観察を組み合わせる
3つ目は、診察や行動の様子、必要に応じて行う心理検査などです。
ASDには、血液検査や画像検査のように、1つの検査結果だけで診断が決まるものはありません。
本人や家族から聞いたこれまでの様子に加えて、専門家との面接や行動の観察、必要に応じた心理検査などを組み合わせながら確認していきます。
また、ASDと似た困りごとが別の理由から起きていることもありますし、ADHDや不安症、うつ病などをあわせて抱えている人もいます。
そのため、ASDの特徴だけを見るのではなく、その人が今どんなことで困っているのかを含めて全体を見ながら診断していきます。
アスペルガー症候群はASDとどんな関係?
アスペルガー症候群という名称は、現在も日常会話や過去の診断名として使われることがあります。
一方で、現在の診断体系では自閉スペクトラム症という枠組みへ整理されています。
ここからはアスペルガー症候群とASDの関係を3つに分けて見ていきます。
1. 以前は別の診断名として使われていた
1つ目は、アスペルガー症候群が以前の診断体系では独立した診断名として扱われていたことです。
以前は、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などが、それぞれ別の名称で診断されていました。
アスペルガー症候群は、対人関係や限定的・反復的な行動などに特徴がありながら、明らかな言語発達の遅れや知的発達の遅れを伴わない状態として区別されていました。
そのため、過去にアスペルガー症候群と診断された人や、その名称で自分の特徴を理解してきた人もいます。
2. 現在はASDに統合されている
2つ目は、現在ではアスペルガー症候群がASDに含まれていることです。
精神疾患の診断基準の1つであるDSMは、時代に合わせて改訂されています。
2013年に発表された第5版のDSM-5では、それまで別々の診断名だった自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などが、自閉スペクトラム症(ASD)という1つの診断名にまとめられました。
現在使われているDSM-5-TRは、そのDSM-5を改訂したもので、ASDという枠組みも引き継がれています。
そのため、現在「アスペルガー」という言葉を見かけた場合は、以前の診断基準で使われていた名称だと考えると、ASDとの関係が分かりやすくなります。
3. ASDの重さを表す名称ではない
3つ目は、アスペルガー症候群が「ASDの軽いタイプ」を表す名前ではないということです。
現在のASDでは、知的発達や言葉の力だけでなく、人とのやり取りや行動の特徴によって、日常生活でどのくらい困ることがあるのか、どのような支えが必要なのかも見ていきます。
たとえば、言葉を流暢に話せる人でも、人間関係の調整や急な予定変更、音や光などの刺激によって強い負担を感じることがあります。
一方で、あることには大きな助けが必要でも、別のことは自分で問題なくできるという人もいます。
このようにASDの現れ方は人によってさまざまで、単純に「軽い」「重い」だけで分けられるものではありません。
その人にどのような特徴があり、どんな場面で困りやすいのかを一つずつ見ていく方が、実際の状態を理解しやすくなります。
ASDとADHDとHSPはどう違う?
ASDについて調べていると、ADHDやHSPとの違いが気になる人も多いでしょう。
似ているように見える特徴もありますが、それぞれ意味するものや、注目する特徴が違います。
ここからは、ASD・ADHD・HSPの違いを順番に見ていきます。
1. ASDは対人面と反復的な行動が診断の中心
ASDでは、人とのやり取りや関係づくりの特徴と、同じ行動を繰り返したり、特定のことに強く関心を持ったりする特徴を中心に見ていきます。
音や光、においなどの刺激を強く感じたり、反対に感じにくかったりすることも、ASDにみられる特徴の1つです。
たとえば「人付き合いが苦手」「予定が変わると戸惑いやすい」「音に敏感」といった特徴があっても、それだけでASDと決まるわけではありません。
子どものころからの様子や、ほかにどのような特徴があるのか、今の生活でどのくらい困っているのかなどを合わせて見ていきます。
2. ADHDは不注意や多動性・衝動性が診断の中心
ADHDは、注意欠如多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)と呼ばれる神経発達症です。
主に、不注意や多動性、衝動性に関する特徴がみられます。
たとえば、注意を長く向け続けるのが難しい、物をなくしやすい、じっとしていることが苦手、思いついたことをすぐ行動に移しやすいといった形で現れることがあります。
ASDとは中心となる特徴が違いますが、ASDとADHDの両方の特徴を持つ人もいます。
そのため、「ASDなのかADHDなのか」とどちらか1つに分けられるとは限りません。
3. HSPは診断名ではなく感受性を表す概念
HSPは、ハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person)の略で、刺激を受け取りやすい人を表す言葉として知られています。
研究では、こうした刺激への敏感さや反応のしやすさを、感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity:SPS)という考え方で扱っています。
音や光、人の感情、その場の雰囲気など、周りから受ける刺激を強く感じやすいことなどが特徴として挙げられます。
HSPはASDやADHDのような医学的な診断名ではなく、感受性の違いを表す気質や特性についての考え方です。
ASDにも音や光などへの敏感さがみられることがあるため、その部分だけを見るとHSPと似ているように感じることがあります。
ASDの場合は感覚の敏感さだけではなく、人とのやり取りや関係づくり、行動や興味の持ち方なども含めて見ていく点が異なります。
ASDは一つの特徴だけで判断するものではない
この記事ではASD(自閉スペクトラム症)の定義や特徴、診断の考え方、アスペルガー症候群との関係、ADHDやHSPとの違いについて解説してきました。
ASDの特徴は、人とのやり取りや関係づくり、行動や興味の持ち方、感覚など、さまざまなところに現れます。
どの特徴がどのくらい現れるのかも人によって違います。
診断するときも、1つの特徴だけを見るのではなく、子どものころからの様子やいくつかの特徴、今の生活でどのような困りごとがあるのかを合わせて見ていきます。
「人の気持ちが分かりにくい」「急な変化が苦手」「音や光に敏感」といったことがあっても、それだけでASDかどうかが決まるわけではありません。
自分や身近な人のことが気になるときは、まず「どんな場面で困りやすいのか」「何が負担になっているのか」を具体的に見ていくと、その人の特徴を理解する手がかりになります。