人間関係に悩んだり、自分の仕事やキャリアについて考え直したりして、心理学やコミュニケーションについて調べていると、さまざまな問題の背景にあるものとして「罪悪感」という言葉に行き当たることも多いです。
それだけ多くの影響があるとされる感情ですが、「罪悪感=誰かに悪いことをしたときに感じるもの」というイメージがあるだけで、そもそも罪悪感とはどんな感情なのか、なぜ生まれるのかまで詳しく知る機会は、意外と少ないものです。
この記事では、罪悪感とは何かという定義から、罪悪感が生まれる理由や心に与える影響、向き合い方までを解説していきます。
Contents
- 罪悪感とは?その定義を解説
- 罪悪感はどんなときに生まれるのか
- 1. 他者を傷つけたと感じたとき
- 2. 他者への配慮が足りなかったと感じたとき
- 3. 自分のために行動したとき
- 4. 他者に対して負い目を感じたとき
- 罪悪感にはどんな働きがあるのか
- 1. 自分の行動を振り返るきっかけになる
- 2. 謝罪や関係の修復につながる
- 必要以上の罪悪感を抱えるとどうなるのか
- 1. 自分を責め続ける
- 2. 我慢や自己犠牲が増える
- 3. 自分の望みや幸せにブレーキをかける
- 自分の罪悪感を読み解く
- 1. 何を悪いと感じているのか確かめる
- 2. 本当に自分の責任なのか考える
- 3. 償うことと自分を罰することを分ける
- 罪悪感と付き合っていくために
罪悪感とは?その定義を解説
それでは、罪悪感とはそもそもどのように定義されているのでしょうか。
心理学では、罪悪感は自分の行動や選択が、自分の持っている規範や価値観に反していると感じたときに生まれる感情として捉えられています。
- 自分が悪いことをした
- 相手を傷つけてしまった
- 本来こうするべきだったのに、できなかった
など、自分の行動や選択に対して責任を感じることが、罪悪感の大きな特徴です。
また、心理学では罪悪感は、自分自身を振り返ることで生まれる「自己意識的感情」の1つとして扱われています。単に不快な気持ちになるのではなく、自分の行動を振り返り、「自分は何をしたのか」「その行動を自分はどう評価しているのか」という自己評価を含んでいます。参考:J-STAGE
また、罪悪感と似た感情として一緒に捉えられやすいのが「恥」です。
罪悪感は「自分がした行動」に意識が向きやすいのに対して、恥は「そんなことをした自分自身」に意識が向きやすいとされています。
たとえば、「あんな言い方をして悪かった」と感じるのが罪悪感なら、「あんなことをする私はダメな人間だ」と感じるのは恥に近い感覚です。参考:APA
罪悪感はどんなときに生まれるのか
では、私たちは具体的にどんな場面で罪悪感を感じるのでしょうか。
心理学研究では、罪悪感が生まれる状況はいくつかのパターンに整理されています。ここから、それぞれの状況について見ていきます。
1. 他者を傷つけたと感じたとき
自分の言動によって誰かを傷つけたと感じたときは、罪悪感が生まれやすい場面の1つです。
- 喧嘩の勢いで強い言葉をぶつけてしまった
- 約束を破って相手を悲しませてしまった
- 自分の選択によって大切な人を傷つけたと感じた
といった場面です。
罪悪感には、起きた出来事だけでなく、自分の行動が相手に悪い影響を与えたと自分自身が捉えていることも関係しています。
そのため、同じ出来事でも、自分にどの程度の責任があったと考えるかによって、感じる罪悪感の強さは変わります。
2. 他者への配慮が足りなかったと感じたとき
自分がしたことだけでなく、「もっと何かできたのではないか」と感じたときにも罪悪感は生まれます。
- 困っている人に声をかけなかった
- つらそうな相手に十分寄り添えなかった
- 助けを求められていたのに応えられなかった
といった場面です。
そこには、「もっと気づくべきだった」「もっと相手のために動くべきだった」という自分なりの基準があります。
実際に何ができたかだけではなく、自分が考える理想的な振る舞いと現実の行動に差があると感じることが、罪悪感につながります。
3. 自分のために行動したとき
自分の利益や希望を優先したことで、誰かへの配慮を欠いたと感じたときにも罪悪感は生まれます。
- 疲れているから誘いを断る
- 自分の希望を優先して選択する
- 家族が望む道とは違う人生を選ぶ
- 周囲が忙しい中で自分だけ休む
といった場面です。
ここで罪悪感につながっているのは、自分のために行動したことそのものより、その選択によって誰かに負担をかけた、自分だけ得をしたと感じていることです。
自分を優先することと、誰かをないがしろにすることが強く結びついていると、自分の希望を選ぶ場面でも罪悪感が生まれやすくなります。
4. 他者に対して負い目を感じたとき
誰かに対して「自分だけ多く受け取っている」「してもらってばかりだ」と感じることも、罪悪感につながります。
- 親から金銭的な援助を受けている
- 忙しいパートナーに多くを任せている
- 周囲が苦労している中で自分だけ恵まれている
- 自分だけ先に幸せになったように感じる
といった場面です。
この罪悪感の中心にあるのは、悪いことをしたという感覚よりも、自分と相手の間に不均衡があることへの申し訳なさです。
「こんなにしてもらっていいのだろうか」「自分だけ幸せでいいのだろうか」という感覚にも、こうした負い目が表れています。
罪悪感にはどんな働きがあるのか
罪悪感というと、苦しくてできれば手放したい感情というイメージが強いですが、自分の行動を振り返ったり、人との関係を保ったりするための働きがあります。
一方で、強くなりすぎると、本来の働きとは違う形で自分を苦しめることにもつながります。
1. 自分の行動を振り返るきっかけになる
1つ目は、自分の行動を振り返るきっかけになることです。
罪悪感を感じる背景には、「こうありたい」「これは大切にしたい」という自分なりの基準があります。
- 本当は相手を大切にしたかったのに傷つけてしまった
- 誠実でいたかったのに嘘をついてしまった
- 約束を守りたかったのに破ってしまった
といったとき、自分が大切にしているものと実際の行動との間にズレが生まれます。
罪悪感は、そのズレに気づかせる感情でもあります。何に対して罪悪感を覚えたのかを見ることで、自分が何を大切にしているのかが見えてくるのです。
2. 謝罪や関係の修復につながる
2つ目は、傷つけてしまった相手との関係を修復する方向へ人を動かすことです。
誰かに悪いことをしたと感じれば、「謝りたい」「埋め合わせをしたい」「次は同じことを繰り返したくない」という気持ちが生まれます。
心理学の研究でも、罪悪感は謝罪や償い、協力といった、傷ついた関係を修復するための行動と関連していることが示されています。
罪悪感があるからこそ、自分の行動が相手にどのような影響を与えたのかを考え、その後の行動を変えようとする。
その意味で罪悪感は、人との関係を維持していくためにも働く感情だといえます。
必要以上の罪悪感を抱えるとどうなるのか
ここまでご紹介したように、罪悪感には、自分の行動を振り返ったり、人との関係を修復したりする働きがあります。
適度な罪悪感であれば、人との関係を保つためにも役立つ感情とも言えるでしょう。
しかし、罪悪感が必要以上に強くなると、その働きは少しずつ変わっていきます。
人との関係をつなぐはずの罪悪感が、かえって人間関係を苦しくしたり、自分を責め続けたり、自分の望む人生を選びにくくしたりする方向へ働くようになります。
ここでは、必要以上の罪悪感を抱えたときに起こりやすい3つの変化について見ていきます。
1. 自分を責め続ける
1つ目に、罪悪感が強くなりすぎることで、自分を責め続けてしまうという悪影響があります。
罪悪感が強くなると、出来事が終わったあとも「あのとき別の行動をしていれば」「もっと何かできたはず」と何度も振り返り、自分を責め続けます。
本来、反省は自分の行動を振り返り、これからどうするかを考えるためのものですが、罪悪感が強くなると、反省することよりも、自分が苦しみ続けることそのものが償いのようになっていきます。
「自分だけ楽になってはいけない」「忘れてしまったら反省していないことになる」という感覚があると、できることをしたあとも罪悪感だけが残り続けます。
2. 我慢や自己犠牲が増える
2つ目は、我慢や自己犠牲が増えるというネガティブな側面があります。
罪悪感が強いと、自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先し、「相手を嫌な気持ちにさせないこと」を基準に行動するようになります。
- 不満があっても相手を傷つけそうで言えない
- 頼まれると断ることに申し訳なさを感じる
- 自分の希望より相手の都合を優先する
- 「私さえ我慢すれば丸く収まる」と考える
といった形で表れます。
相手を大切にしたいという気持ちではなく、「相手を不快にしたら自分が悪い」という感覚から行動していると、自分が引き受ける範囲は少しずつ広がっていきます。
その結果、相手自身が引き受ける感情や問題まで自分の責任のように感じ、自分の気持ちや負担を後回しにすることが当たり前になっていきます。
3. 自分の望みや幸せにブレーキをかける
3つ目は、自分の望みや幸せにブレーキをかけるようになってしまう可能性があります。
罪悪感は、過去にしてしまったことだけでなく、これから自分が幸せになることにも結びつきます。
- 周囲が大変なときに自分だけ楽しむ
- 家族とは違う人生を選ぶ
- 誰かより先に結婚や成功を手にする
- 周囲より恵まれた環境を手に入れる
といった場面で、「自分だけこんなに幸せでいいのだろうか」という負い目が生まれます。
すると、本当は望んでいることなのに、手に入れる直前でためらったり、自分から遠ざけたりするようになります。
「やりたいことがない」のではなく、望むことや幸せになることに、誰かへの申し訳なさが結びついている状態です。
前へ進みたい気持ちはあるのに、進むほど誰かに悪いような気がする。必要以上の罪悪感は、こうして自分の人生にブレーキをかけていきます。
自分の罪悪感を読み解く
罪悪感を感じたとき、すぐに「なくさなければ」と考えるよりも、その罪悪感が何を意味しているのかを整理すると、自分の心が見えやすくなります。
ここでは、罪悪感を読み解くための3つの視点を解説します。
1. 何を悪いと感じているのか確かめる
罪悪感を感じたら、最初に見たいのは「私は何を悪いと思っているのだろう」という部分です。
- 誰かを傷つけたことなのか
- 期待に応えなかったことなのか
- 自分を優先したことなのか
- 自分だけ恵まれていることなのか
同じ「申し訳ない」という感覚でも、その中身は違います。
たとえば、誘いを断ったことに罪悪感があるとしても、「約束を破ったから悪い」と感じているのか、「相手をがっかりさせたから悪い」のか、「自分の都合を優先したから悪い」のかで、その罪悪感が示しているものは変わります。
罪悪感の中身を具体的にしていくと、自分がどんなルールや価値観を大切にしているのかも見えてきます。
2. 本当に自分の責任なのか考える
罪悪感には「自分に責任がある」という認識が含まれています。
だからこそ、自分が実際に負うべき責任と、自分ではどうにもできなかった部分を分けて考えることが重要になります。
自分の言葉で相手を傷つけたなら、その言葉については自分の責任です。
一方で、相手が期待していた通りの人生を選ばなかったこと、相手より先に幸せになったこと、相手のすべての感情を解決できなかったことまで、すべて自分の責任とは限りません。
罪悪感が強いと、「相手が悲しんでいる」という事実から、「相手を悲しませた私は悪い」と一気につながりやすくなります。
その間にある「自分は何をしたのか」「どこまで自分が引き受ける問題なのか」を分けてみると、必要な責任と背負いすぎている責任の境目が見えてきます。
3. 償うことと自分を罰することを分ける
本当に自分が誰かを傷つけたのであれば、謝る、できる範囲で償う、同じことを繰り返さないよう行動を変えるという選択があります。
それは罪悪感が持つ、関係を修復する働きでもあります。
一方で、自分を責め続けること、幸せになることを禁止すること、苦しい状態に居続けることは、必ずしも相手への償いにはなりません。
「相手のために何ができるか」と「自分はどれだけ苦しまなければならないか」は別の問いです。
この2つが混ざると、償いが終わっても罪悪感だけが残ります。
反対に分けて考えられるようになると、自分が引き受けるべきものと、もう背負い続けなくていいものが少しずつ見えてきます。
罪悪感と付き合っていくために
この記事では罪悪感について、その定義から、どんなときに生まれるのか、どんな働きを持ち、必要以上に抱えたときに人生へどう現れるのかまで解説してきました。
罪悪感は、すべて消してしまえばいい感情ではありません。自分の行動を振り返り、大切な人との関係を修復するために働く面も持っています。
一方で、自分の責任ではないことまで引き受けたり、償うことと自分を罰することが混ざったりすると、罪悪感は長く自分を縛るものになります。
だから、「罪悪感があるかないか」だけではなく、自分は何に対して悪いと感じているのか、その責任は本当に自分が負うものなのかというところまで見ていくことが大切です。
そこがわかると、罪悪感はただ苦しいだけの感情ではなく、自分が何を大切にし、どこまでを自分の責任として生きようとしているのかを知る手がかりになっていきます。