
「自尊心」と「自己肯定感」。
どちらも「自分を大切にする感覚」を表す言葉ですが、実際のところ違いがよく分からないまま、なんとなく使っている方も多いのではないでしょうか。
心理学や自己啓発の分野では、この2つはしばしば同じ英語 Self-esteem と訳されます。
そのため、専門家の間でも厳密な線引きは難しく、混同されがちです。
ただし、整理してみると大きな違いがあります。
一言でまとめるなら──
- 自己肯定感 … 「自分を一人で完結して受け入れる感覚」
- 自尊心 … 「他者との関わりの中で、自分は尊重される存在だと思える感覚」
多くの人が抱えるのは「結局どう違うの?」という素朴な疑問です。
本やネットでいろいろな説明を読んでも、似ているようで違うようで、かえって混乱してしまうこともあるでしょう。
そこで本記事では、両者の定義をわかりやすく比較し、さらに自己受容や自己効力感など関連する心理学用語との関係も整理します。
Contents
自尊心と自己肯定感の違い(比較表で一目で理解)
両者は辞書的にはほとんど同じ意味で使われていますが、日常でのニュアンスを整理すると違いが見えてきます。
まず、自尊心と自己肯定感の違いの感覚をつかむために、比較表でまとめてみましょう。
用語 | 一言でいうと | 関わる軸 | 日常での例 |
---|---|---|---|
自己肯定感 | ありのままの自分を「OK」と思える感覚 | 自分の内側だけ | 「できてもできなくても、私は私でいい」 |
自尊心 | 他者からも尊重されるべき存在だと思える感覚 | 他者との関係を含む | 「私は人からも大事にされていい」 |
両者はどちらも「自分を肯定する力」ですが、内側だけで完結するか、それとも他者との関係を前提にするかで大きく分かれます。
参考:[127] 自己肯定感が低いのは、傷ついた心の“自己防衛”かもしれません
自尊心とは?心理学での定義と特徴
心理学辞典などを調べると、「自尊心」という言葉はしばしば「自己肯定感」と同じく Self-esteem と訳されています。
つまり、学術的な定義だけを見ても厳密な区別はほとんどなく、専門家の間でも重なり合った使い方をされることが多いのです。
それでも日常的なニュアンスで整理すると、「自尊心」は他者との関係の中で、自分を尊重できる感覚を指すことが多いといえます。
例:
- 上司や友人に軽んじられたとき、「私はもっと大切に扱われるべきだ」と思える感覚
- 恋愛関係で「自分の境界線を守りたい」と感じること
こうした感覚は「自分が人からどう扱われるか」に直結するため、自尊心があるかどうかは人間関係のストレス耐性に影響します。
メリット
- 他者に流されず、自分の価値を守れる
- 不当な扱いを受けたときに「NO」と言いやすい
- 対等な関係を築く土台になる
デメリット
- 過剰になると「プライドが高すぎる」と見られ、周囲との摩擦を生みやすい
- 他人からの評価に依存しやすくなる
自尊心が低いと起こりやすいトラブル
自分は尊重されてよい、という感覚が弱まると、対人関係で次のような不具合が出やすくなります。
1.境界線が薄くなる
頼まれごとを断れず、相手の都合を優先して消耗する。
→ 境界線の整え方は [111] 恋愛がしんどい理由は“境界線”にあった|3タイプ別に解説
2.不均衡な関係に陥る
「我慢すれば丸く収まる」と思い込み、“都合のいい関係”が固定化する。
→ 参照:[112] 都合のいい関係に陥る女性の6タイプと改善策
3.比較・嫉妬で揺れやすい
他人基準になり、成果や肩書きで自己価値を測ってしまう。
→参照: [175] 「他人と比べてしまう…」嫉妬の正体は“未来に獲得できるもの”だった
4.評価過敏・顔色読みが止まらない
軽い指摘でも過度に傷つき、気疲れが慢性化する。
→ 参照:[43] 気にしすぎる性格に疲れたあなたへ 生きづらさを解消する方法。
5.“損役”を引き受けがち
雑用・責任・罪悪感を抱え込み、「自分ばかりが損している」感覚が強まる。
→ 参照:[105] 「なんで私ばかり?」損する人の特徴と隠れた才能
6.反動のプライド化
内側の不安を隠すために、強がり・マウント・攻撃性で覆い隠してしまう(対人摩擦が増える)。
→ [118] “ズレた自信=エゴ”が現実を止める理由
自己肯定感とは?心理学での定義と特徴
自己肯定感もまた、心理学の文献や辞典では「自尊心」と同じく Self-esteem と表現されることが多く、厳密に線引きされた定義は存在しません。
ただし、日常的なニュアンスで整理すると、自己肯定感は「他者の評価を抜きにして、自分をそのまま受け入れられる感覚」を表す言葉として使われています。
例:
- 「今日は失敗したけれど、それでも自分には価値がある」と思える
- 「成果や評価にかかわらず、今の自分をそのまま認められる」
このように、自己肯定感は自分の内側で完結する感覚であり、外部からの承認がなくても自分の存在を肯定できるかどうかに関わります。
メリット
- 他人の評価に左右されにくくなる
- 小さな失敗やミスで自己否定に陥らない
- 人間関係の土台として安定感をもたらす
デメリット
- 過度に「これでいい」と思いすぎると、成長や改善への動機が薄れる
- 「自己肯定感が高ければすべて解決する」と過信すると、逆に苦しくなる
自己肯定感は、言い換えれば「自己受容」の感覚に近いもの。
「今のままの自分で大丈夫」と思えることが、ストレスの少ない生き方や人間関係の基盤になります。
自己肯定感が低いと起こりやすいトラブル
自尊心の低さが「他人との関係で消耗する方向」に出やすいのに対して、自己肯定感が低いときは「自分の内側に攻撃が向く」傾向があります。
1.自分を責め続ける
「どうせ私なんて…」「やっぱりダメだ」と自己否定の言葉が止まらない
→ 参照:[108] 自分責めがやめられない心理と3つの対処法
2.必要以上に落ち込む/拗ねる
小さな失敗や注意で立ち直れず、心がすぐ閉じこもる
→ 参照:[147] 自己嫌悪が苦しい理由。深層の気持ちと向き合う方法
3.自分を後回しにする
「私なんかより周りが大事」と考えてしまい、自分をケアできない
→ 参照:[132] 自分を大切にできない心理とは?|“自分を後回しにする癖”の正体
4.挑戦できない
失敗への恐怖が強く、チャレンジの一歩が踏み出せない
→ 参照:[40] 自分に自信をつける方法|5つのジャンル別20の対策を解説
5.人生に諦めムードが漂う
「どうせ頑張っても無駄」と思い込み、停滞感が強まる
→ 参照:[13] 【保存版】願いが叶わない状況に疲れたあなたへの処方箋
自尊心と自己肯定感の関係性
ここまで見てきたように、学術的な定義では両者はほぼ同じ「Self-esteem」と扱われます。
ただし、ニュアンスを整理すると 自己肯定感が土台になり、その上に自尊心が積み上がる という構造で捉えると分かりやすいでしょう。
- 自己肯定感 … 他人の評価に関係なく、自分をそのまま認められる力
- 自尊心 … 自己肯定感を基盤に、他者との関わりの中で「自分は尊重されてよい」と思える力
図解イメージだと、一番下に「自己受容」=自分を受け入れる土台/その上に「自己肯定感」=今の自分を肯定できる感覚/さらに「自尊心」=他者との関係で尊重を感じられる層。
このように積み重なっていくイメージを持つと、自分が今どこでつまずいているかを整理しやすくなります。
- 自己肯定感が弱いと → 「どうせ私なんて…」と内側から崩れてしまう
- 自尊心が弱いと → 「人から大切にされない」と関係の中で消耗する
どちらもバランスが取れて初めて、安定した自己イメージを築けます。
他人との比較や嫉妬で自尊心が揺らぎやすいときは、「他人と比べてしまう…」嫉妬の正体は“未来に獲得できるもの”だった を読んでみてください。
よく混同される関連用語(自己受容・自己効力感など)
「自尊心」や「自己肯定感」と並んでよく耳にするのが、自己受容 や 自己効力感 などの言葉です。
どれも似たように聞こえますが、それぞれニュアンスが異なります。
ここで簡単に整理しておきましょう。
自己受容(self-acceptance)
ありのままの自分を、できるできないに関わらず受け入れる感覚。
赤ちゃんを抱くように「存在そのものを受け入れる」イメージ。
自己肯定感のさらに土台となる。
👉 詳しくはこちら → [132] 自分を大切にできない心理とは?|“自分を後回しにする癖”の正体
自己効力感(self-efficacy)
「私はやればできる」という行動に対する信頼感。
小さな成功体験を積み重ねることで育まれる。
高いとチャレンジに前向きになれる。
👉 詳しくはこちら → [139] 自己効力感とは?──「できる気がする」が未来を変える力になる
自己信頼感
自分を信じられるかどうかという深いレベルの感覚。
失敗や挫折を経ても「それでも自分を信じられる」という心の支え。
👉 詳しくはこちら → [158] 自己信頼感とは?──“自分を信じる”という言葉の中身をひも解く
まとめ|違いを押さえて日常に活かす
「自尊心」と「自己肯定感」は、学術的にはほぼ同じ Self-esteem として扱われることが多く、厳密に分けるのは難しい言葉です。
それでも日常感覚で整理すると──
- 自己肯定感 = 他人の評価がなくても、自分をそのまま受け入れられる力
- 自尊心 = 他者との関わりの中で、自分は尊重される存在だと思える力
この2つは互いに支え合う関係にあります。
自己肯定感が揺らぐと「どうせ私なんて…」と自己否定に陥りやすく、自尊心が揺らぐと「人から大切にされない」と人間関係で消耗しやすくなります。
どちらか一方だけを育てればいいのではなく、土台となる自己受容 → 自己肯定感 → 自尊心 → 自己効力感と積み重ねていく意識が大切です。
言葉の正確さにこだわるよりも、今の自分がどの段階でつまずいているのかを知ること。それが、心を整え、より満ちた毎日へとつながっていきます。