
頑張り屋さんの人ほど、「自分をもっと大切にしてね」なんて言葉を、誰かにかけられたことがあるかもしれません。
誰かの役に立てることが嬉しくて。
誰かに頼られることが誇らしくて。
エネルギーを注いで、自分にできることを一生懸命頑張ってきた——。
でも、そんな日々を積み重ねるうちに、気づけば心も体も疲れてしまったり、なんだか自分が自分じゃなくなってしまったような感覚に陥ったり、期待していたような結果が得られなくて、ぽっかり心に穴が空いたような気持ちになったり。
そんなときに、ふと誰かから言われるんです。
もっと自分を大切にしてあげてね
あるいは、自分でそう思ったことがある人もいるかもしれません。
私、このままだと壊れてしまいそうだ。ちゃんと自分を大切にしなきゃ
でも、こうも思いませんか?
……で、“自分を大切にする”って、どういうこと?
この記事では、そんな“自分を大切にする”ということの本当の意味と、どうしてそれが私たちには難しいのか、そして今日から始められる小さな一歩について、やさしく紐解いていきます。
Contents
そもそも「自分を大切にする」とは?
では実際、「自分を大切にする」とは、具体的にどういうことなのでしょう?
恋愛がうまくいかないときや、人間関係で傷ついたときに、「まずは自分を大切にしよう」と言われる場面ってありますよね。
私自身もかつて恋愛で悩んでいた時に「自分を大切にできる人は恋愛がうまくいく」なんて情報に出会い
よし、じゃあ自分を大切に!自分に優しくしてみよう!
と、やりたかった旅行に行ってみたり、移動を全部タクシーにしてみたり、新幹線をグリーン車にしてみたり。
最初はちょっとワクワクしましたが、どこか心が追いついていなくて、終わったあとにふと、「これって本当に、自分を大切にできたって言えるのかな?」と、よくわからなくなってしまいました。
ただお金がなくなっただけで、“自分を大切にした感”は、なぜか思ったより残らなかった。
そんな経験を何度か重ねるうちに、私はようやく気づきはじめました。
自分を大切にするとは“贅沢をすること”でも“特別扱いをすること”でもなく「自分の存在・感情・ニーズ・境界線を尊重すること」を指すのだなぁと。
- 存在を尊重するとは、「私はここにいていい」と思えること。
- 感情を尊重するとは、「どんな気持ちも、そのままで大丈夫」と受けとめてあげること。
- ニーズを尊重するとは、「私には望んでいい権利がある」と認めてあげること。
- 境界線を尊重するとは、「嫌なことにはNOと言っていい」と自分に許可を出すこと。
大切な人に接するように、自分に接すること。
それが「自分を大切にする」ということなんだと、今は思っています。
なぜ、私たちは自分を大切にできないのか?
ではここから「自分を大切にしよう」と思っても、それがなかなかうまくいかない理由について、3つご紹介します。
前の段落で触れた通り、私自身「自分を大切にする具体的な方法」がわからず、ずいぶんとおかしな行動に出ていた一人です。
そんな時代を経て今は「自分を大切にする方法」が以前よりも理解できてきた気がしますが…(理解できるようになっていると信じたい)
過去の私と同じように「自分を大切にしたい心意気はあるけれど、うまくできない」という方に向けて、私たちが自分を大切にできない3つの背景を、順番にひもといていきます。
パターン① 教わっていない・知らなかった
自分を大切にするという感覚を、そもそも「知らなかった」──これはとても多いケースです。
たとえば、子どもの頃から「がまんしなさい」「迷惑をかけないように」「人に優しくしなさい」と教わって育つと、自分の感情や欲求を抑えることが“正しさ”のように刷り込まれてしまいます。
すると、「自分の本音を聴く」「望みを優先する」という選択肢が、そもそも思いつかなくなる。
つまり、自分を大切にできないのではなく、「どうすれば大切にできるのか」を知らないまま大人になっているのです。
そして本来であれば、子供に「自分を大切にする方法」を教える立場である大人たち自身が「自分を大切にする方法」を知らないので、ネガティブな世代間連鎖が起こっているパターンです。
パターン② 自分を大切にしないことで得てきた“隠れた安心・メリット”
パターン①より、もう少し深い意識の領域の話になりますが、実は「自分を大切にしない」という選択には、無意識のメリットがあることもあります。
- NOと言わなければ、嫌われない
- 我慢していれば、トラブルにならない
- 相手に尽くせば、必要とされる
そんなふうに、自分を後回しにすることで、ある種の安心や関係性の安定を得てきた人も多いのではないでしょうか。
それは、これまでの人生で生き延びるための戦略だったのかもしれません。
その経験が長く続くと、「自分を大切にする」ことに、うっすらと怖さを感じてしまうのです。
パターン③ 「私は大切にされていい存在だ」と思えていない
そして①②よりもっと深い心の部分では、そもそも「自分には価値がある」「大切にされて当然」という感覚が持てていない場合もあります。
- 過去に否定された経験
- 誰かに傷つけられた記憶
- 期待に応えられなかった自分への罪悪感
こうした心の記憶が、「私は幸せになってはいけない」「望むなんて図々しい」と、無意識にブレーキをかけてしまうことがあります。
「自分を大切にする」という行為そのものが、どこか“申し訳ない”ことのように感じられるのです。
自分を大切にできない人が悩みがちなこと
ここまで「なぜ自分を大切にできないのか?」を見てきましたが、実際にそれが続くと、どんなふうに私たちの心や日常に影響が出てくるのでしょうか?
以下のような“感覚”に思い当たるなら、もしかしたら今、自分を後回しにしているサインかもしれません。
① 自己喪失|人に合わせすぎて、自分がわからない
「空気を読んで」「いい人でいよう」と頑張るうちに、気づけば自分の本音がわからなくなっている。
誰かの期待や空気を優先しすぎて、「本当は何がしたいのか」「何が好きだったのか」が思い出せない。
そんなふうに、“自分”という輪郭がぼやけてしまう状態です。
予定を決めるとき、発言するとき、常に「相手基準」になっていないか、立ち止まってみましょう。
② 自立過剰|ひとりで抱え込んでしまう
「迷惑をかけたくない」「誰かに頼るのは甘え」──そんな思いから、何でも一人で頑張ってしまう。
本当はしんどいのに、「大丈夫です」と笑ってやり過ごしてしまう。
でも、自立と孤立は紙一重です。
“助けを求める”ことは、弱さではなく、「私を大切にする」という強さのひとつかもしれません。
③ 無価値感|「私なんて」が心の口ぐせに
「ありがとう」「すごいね」と言われても、「そんなことないです」と受け取れない。
失敗すれば「やっぱり私なんて」と自己否定が始まる。
こうした思考の背景には、「自分には価値がない」とどこかで信じている心のクセが隠れていることがあります。
まずは、自分に小さな“いいね”を出してあげることから始めてみてください。
④ 共依存|優しさが裏目に出て、搾取される
「相手のために」と尽くしているのに、なぜか報われない。
むしろ、相手に振り回されて苦しくなったり、自分のことが見えなくなったりしてしまう。
優しさと自己犠牲は違います。
相手に与えるばかりではなく、「私が私にちゃんと与えているか?」にも目を向けてみてください。
⑤ 虚無感|頑張っても満たされない
人一倍努力して、期待に応えて、評価もされている。
それなのに、心の奥が空っぽで、なぜか満たされない。
「もっと頑張らなきゃ」と自分を追い立てるほどに、心は摩耗していく。
それは、自分を大切にするという軸がないまま、義務感だけで走り続けている状態かもしれません。
じゃあ、どうしたら自分を大切にできるようになるの?
ここまで「なぜ自分を大切にできないのか?」を見てきましたが、では実際に、自分を大切にするって“どうやって”やっていけばいいのでしょう?
ここでは、今からすぐにでも取り組める4つのステップを紹介します。
難しいことではなく、ほんの少しの問いかけと選択から始められることばかりです。
STEP1|「今、どんな気持ち?」と問いかける
感情を否定せず、そのまま感じてあげること。
「悲しい」「悔しい」「疲れた」——その声を聴いてあげるだけで、心は少しずつ落ち着いていきます。
感情は、ケアされるのを待っているあなたの内なる声。
まずはその声に、ちゃんと耳を傾けてみてください。
STEP2|自分のニーズをひとつだけ叶えてあげる
「本当はどうしたい?」と自分に問いかけてみましょう。
たとえば、温かい飲み物を飲みたい、5分だけ横になりたい、誰にも気を遣わずに過ごしたい。
それがどんなにささやかな願いでも、“ちゃんと応えてもらえた”という実感は、自己尊重の小さな土台になります。
STEP3|境界線を引く練習をする
「嫌なことにはNOと言っていい」——その許可を、自分に出してあげましょう。
わがままや自己中心ではなく、「私はこれがつらい」「これはやめてほしい」と伝えることは、
自分を守るためのごく自然な行動です。
まずは、小さなところから。休憩のカフェを選ぶときでも、「今日は賑やかよりも静かなカフェの方がいいな」と、自分の気分を尊重してみてください。
STEP4|「私は大切にされていい存在だ」と受け取る
誰かにやさしくされたとき、「そんなことないです」と否定せずに「ありがとう」と受け取ってみましょう。
小さなプレゼント、あたたかい言葉、助けの手。
それらを“当然のように受け取っていい”と、自分に許可を出すこと。
それが、「私は大切にされていい存在なんだ」と自分の内側に伝える大切な練習になります。
まとめ|“自分を大切にする”という問いに、終わりはない
ここまで、自分を大切にするとはどういうことか。そして、なぜそれが難しく感じられるのか。
いくつもの角度と深さからお話してきましたが、何か心に触れるものはあったでしょうか?
実は、私が主宰している「脳トレ・カレッジ(自己対話の学校)」の根底には、こんな祈りがあります。
「大切な人を大切にできる人が、世界中に増えていきますように」
※公式サイトのトップページに出てくるので、ぜひ発見してみてくださいね。
ここでいう“大切な人”は、もちろん自分以外の大切な人のことでもありますが、それと同時に、“私自身”という存在もまた、大切にされるべき誰かなんだと思っています。
「大切にする」という言葉は、人によってその定義が違うからこそ、扱いがとても難しい。
自分では大切にしているつもりでも、相手にはそれが伝わらなかったり、逆に、誰かに愛されているはずなのに、なぜか心が満たされなかったり。
人が人を想う気持ちは、きっと何千年も前から変わっていないはずなのに、それを“どうやって伝えるか”“どうやって受け取るか”は、時代や関係性によって変わっていくものです。
私は今、「大切にする」とは、感情・ニーズ・境界線、そして存在そのものを尊重することだと考えています。
でもきっとこの定義も、数年後にはまた変わっているのかもしれません。
そう思うと、「自分を大切にするとは?」という問いは、いい意味で一生消えない“旅のようなもの”なのかもしれないですね。
ふわっとした締めくくりになりましたが、今日のこのコラムが、あなたにとって“自分を大切にする”ということのヒントや、少しの優しさになっていたら、嬉しいです。