
ここ数年で、「自分の心を見つめる」とか「内省することの大切さ」がずいぶん一般化してきたように思います。
マインドフルネスや自己理解、ウェルビーイングという言葉も日常に入り込んで、「自分を見つめ直す」ことに興味を持つ人も増えてきました。
でも振り返ってみると、20年近く前からこの世界に関心を持っていた私は、書籍やセミナーで「自分を見つめ直しましょう」と言われても
どうやって?自分を見つめ直す意味や意義は?メリットあるの?日記を書けばいいの?
といった疑問をずっと持ち続けてきた気がします。
ノートを書くといいと言われても、何を書けば“見つめ直したこと”になるのかよくわからない。
自分に100の質問をしようと言われても、そもそも質問が思い浮かばない。
そもそも“見つめ直す”って、どういう状態になったら「できた」と言えるのかもよくわからない。
「自分を見つめ直す」というのは、よく聞く言葉ですが、意外と中身がふわっとしているように思いませんか?
この記事では、過去の私のように「自分を見つめ直すと良いと聞いたけど、でも実際どうしたらいいの?そもそも自分を見つめ直すって何?」と感じている方に向けて、自分を見つめ直すことについて一緒に考えていけたらと思っています。
Contents
自分を見つめ直すとは?
“自分を見つめ直す”という言葉は、どこか柔らかくて、曖昧です。
でもその曖昧さの中にこそ、「今の自分が、なんとなくズレている気がする」という、静かな違和感が含まれているのかもしれません。
「見つめる」と「見つめ直す」の違い
“自分を見つめる”というのは、日常の中でも自然とやっていることかもしれません。
気分を振り返ってみたり、その日の出来事を思い返したり。
でも“見つめ直す”という言葉には、もっと意図的なニュアンスが含まれています。
もう一度見てみよう
これでよかったんだっけ?
そんなふうに、一度は確かめたはずの自分を、あえて再点検しようとする感覚。
そこには、
これまで自分だと思っていたものが、もしかしたら少し違うのかもしれない
という静かな疑問や揺らぎがあります。
たとえば、
- 「私ってこういう人間だから」と思い込んできたこと
- 「こうあるべき」と選び続けてきた行動や役割
- 「自分のアイデンティティや性格」だと思ってきたもの
そうした自己定義に、ふと「本当にそうだろうか?」という違和感が差し込んだとき、人は“見つめ直す”という行為に関心を持ち始めるのだと思います。
つまり“見つめ直す”とは、ただの反省や振り返りではなく、「自分とは誰か?」という問いに、改めて向き合う動きであり、普段頭で行われている思考ではなく、自分自身と対話することでもあるのです。
“自分を見つめ直したくなる”きっかけとは
「自分を見つめ直したい」と感じるとき。
それは、たいてい何かがスムーズに進んでいないときです。
仕事も恋愛も、なんとなく順調で、気分も上向きなとき。
そんなときにわざわざ立ち止まって、“自分ってなんだろう”と考える人はあまりいません。
むしろ、自分を見つめ直したくなるのは、少し空気が濁っているとき。
目には見えないけれど、どこか不調和な感覚が心にひっかかるとき。
そういう“曇り空”のようなタイミングが多いものです。
「このままではいけない」とまでは思っていない。
でも、「このままでいいのかな」と感じている。
そんな微細な違和感が、見つめ直しのスタート地点になることもあります。
ここでは、そうした“きっかけ”としてよくある3つの場面を挙げてみます。
①環境や人間関係が変わったとき
転職や退職、引っ越し、新しい環境との出会いや、失恋などの別れ。
外側の世界に変化があるとき、私たちは無意識のうちに「自分の内側」も見つめ直し始めます。
- 親しい相手との別れがあったとき。
- 新しい職場に入ったとき。
そこで初めて、「私ってどんな人だったっけ?」と問い直すきっかけになることがあります。
環境の変化は、自分の価値観や習慣を一度手放さなければならない瞬間。
だからこそ、「私はどうありたいのか?」と、静かに立ち止まりたくなるのかもしれません。
“自分を見つめ直す”3つの視点
「自分を見つめ直す」と一言でいっても、どこに目を向けるかによって、その意味や深さは大きく変わってきます。
ここでは、時間軸に沿った3つの方向──今・過去・未来の視点から、
自分を見つめ直すとはどういうことなのかを整理してみます。
① 今の自分の“状態”を見つめ直す
まずは、「今の自分、どうしてる?」という視点から始めてみましょう。
今の感情、思考、体調、人間関係のコンディション──それらをざっくりと棚卸ししてみるだけでも、立派な“見つめ直し”です。
たとえば、
- 最近よく考えていることは?
- 無意識に避けている話題や感情はある?
- 心が動く瞬間は? 逆に無感覚になっていることは?
こうした問いを通じて、「あ、私、ちょっと疲れてたのかも」「なんかずっと怒ってたな」など、今の自分の“調子”が見えてくることがあります。
健康診断のように、今の自分の“内面の数値”を測ってみる。
見つめ直しの入り口としては、それだけでも十分すぎるほど価値があります。
② 昔の自分・本来の自分とのズレを見つめ直す
ふとした瞬間に、「あれ、こんな自分だったっけ?」と戸惑うような感覚が訪れることがあります。
そんなときは、“今の自分”と“本来の自分”の間にギャップが生まれているサインかもしれません。
たとえば、
- 子どもの頃、大切にしていたものや夢
- 無邪気に熱中していたこと
- 本当は口にしたかったけど、言えなかった言葉
- 昔は感じられていた、繊細な感情の動き
そうした記憶を少しずつ思い出していくと、「自分にとって自然だった在り方」や「持っていた感受性の輪郭」が、うっすらと浮かび上がってきます。
今の自分がまとっている“役割”や“期待”の外側に、もっと素朴で、まっすぐな自分が眠っているかもしれません。
③ この先どう生きたいかを見つめ直す
今や過去を見つめていくうちに、自然と浮かび上がってくるのが、“未来の自分”に対する問いです。
- このままの延長線上でいいのだろうか?
- 昔の夢を追い続けてきたけど、今もそれが自分に合っている?
- 今の選択肢って、“本当の私”が望んでいること?
これまで大切にしてきたゴールや理想が、今の自分にはしっくりこなくなってきた──そんな違和感が芽生えたとき、
それは「目指す方向を見直していいよ」という内側からのサインなのかもしれません。
未来を変えることは難しく感じるけれど、未来の“定義”を変えることなら、今この瞬間からでもできる。
その静かな再選択の前に、「今」「過去」を見つめておくことで、未来の自分とのつながりも、自然と手応えあるものになっていくのだと思います。
自分を見つめ直すときのガイドライン
「自分を見つめ直したい」と思ってノートを開き、ペンを持ってみたけれど、いざ向き合おうとすると、何から始めればいいのかわからない。
何を書けば“見つめ直した”ことになるのか、正直ピンとこない。
そんな経験、私自身にもありました。
よく「ノートを書くといい」と言われますが、見つめ直すために“何を書くか”がわからないと、ページの前でただ手が止まってしまいます。
だからここでは、方法・やり方というよりも「どんなスタンスで自分に向き合うか」という実践のためのガイドラインを、あらためてまとめてみました。
これは、私自身が初めて自分を見つめ直そうとしたとき、「こんな考え方がそばにあれば、もう少しスムーズだったかもしれない」と思うようなものばかりです。
① すぐに答えを出そうとしない
自分に向き合うとき、すぐに「こうすればいい」「こう考えればよかった」と結論を出したくなります。
でも、自分を見つめ直すプロセスは、“正解探し”ではありません。
むしろ、「なんとなくもやもやしてる」「うまく言えないけど違和感がある」そんな“言葉にならない感覚”をそのまま置いておく時間も、大切な内省です。
答えが出ないままでも、見つめ直しはちゃんと進んでいます。
② “今の気分”をそのまま言葉にしてみる
見つめ直すというと、「これからどう生きたいか」「人生の軸を定めよう」と構えてしまうかもしれません。
でも最初に大事なのは、“今”の感情に触れること。
- 今日はなんとなく疲れてる
- 最近、人に会いたくない
- 今、ちょっと寂しいかも
- 一人旅に出たい気分
- この街、好きかも
そんな言葉で十分です。
小さな感情や、自分自身の気持ちひとつひとつに気づいてあげることがポイントです。
③ “こうあるべき”より“どうしたかった?”を大事にする
- ちゃんとしなきゃ
- この年齢ならこうするべき
- 人としてそもそも〜
そんな“外側の声”が、自分の本音をかき消してしまうことがあります。
でも、自分を見つめ直すときに必要なのは、「私はどうしたかった?」という内側の声です。
たとえ小さなことでも
あのとき、ほんとはこう言いたかった
ほんとはやりたくなかった
そんな本音が見えてくると、自分の軸が少しずつ戻ってきます。
④ 自分を少し引いて見てみる
もし自分のことがうまく整理できないときは、少し視点を引いてみるのもおすすめです。
親しい友人が同じことで悩んでいたら、私はどう声をかけるだろう?
誰かに説明するとしたら、どう話すだろう?
そうやって自分を外側から見ることで、主観でごちゃごちゃしていたものがスッと整理されることがあります。
⑤ 感情の波に名前をつけてみる
イライラ、不安、落ち込み、焦り──湧き上がる感情に飲み込まれそうになるとき、それを一歩引いて“名づける”だけでも変化が生まれます。
これは怒りに見えるけど、ほんとは悲しさかも
期待してたのに裏切られたような気がするのかも
感情に名前をつけることで、自分の内面との距離感が整っていきます。
「ちゃんと感じていいんだ」と思えるだけで、安心感が生まれます。
⑥ 日常に“立ち止まる時間”をつくる
自分を見つめ直すには、じっくり時間を確保することが必要ですよね?
忙しくて難しいです…
と聞かれることも多いのですが、自分を見つめ直すことは日常のちょっとした“間”から始められます。
- 朝、コーヒーを飲む数分間
- 通勤電車のなかの静かな時間
- 夜、布団に入る前の数呼吸
今日の私、どんな感じだった?
今、何が引っかかってる?
そんなふうに声をかけてみるだけでも、充分な“内省”です。
「しっかり書かなくちゃ」「ちゃんとやらなくちゃ」と思わなくて大丈夫。
まずは、自分に目を向ける時間を“取ってあげること”が、何より大事です。
この6つのガイドラインは、うまく見つめ直せないと感じたときにも、「そのままの自分で、まずはここからでいいんだ」と思える土台になるはずです。
書けなくても、整理できなくても、問いが浮かんだ時点で、もう見つめ直しは始まっています。
まとめ|うまくできなくても、もう始まっている
「自分を見つめ直す」という言葉は、最近では本当によく聞かれるようになりました。
でもその実態は、明確な形があるようでいて、実はとても人それぞれで、曖昧なものです。
ある人にとっては、ノートを1ページ書くことかもしれないし、ある人にとっては、静かな夜道を散歩することかもしれない。
大切なのは、“見つめ直すこと”が完璧にできるかではなく、「ちょっと立ち止まってみようかな」と思えたかどうか。
そして、その立ち止まりを、自分で丁寧に扱ってあげられるかどうかです。
「変わらなきゃ」「生き方を変えなきゃ」と焦る必要はありません。
“見つめ直す”というのは、大きな決断をするための時間ではなくて、「今の私はどう感じているのか?」をただ静かに確かめるための時間です。
ノートが書けなくても、考えがまとまらなくても、「何かが少し違うかもしれない」と感じたとき、ふとこのページを開いて読んでみたとき──
その瞬間から、もう見つめ直しは静かに始まっているのだと思います。
📝次に読みたいオススメ記事
①「自分探し」の本当の意味とは?──“見つける”より、“思い出す”ための旅
②本当の自分って何だろう? 私を深く知る5つの質問