
どうせ私には無理だよね、また同じことを繰り返しそう
何かに挑戦しようとしたとき、こんなふうに思ってしまった経験はありませんか?
実はそれ、自分の“能力のなさ”ではなく「自己効力感(エフィカシー)」が下がっているサインかもしれません。
自己効力感とは、「自分はきっとできる」と思える感覚のこと。
この感覚があるだけで、人生の選択や行動が大きく変わってくるのです。
この記事では、そんな「自己効力感」の意味や仕組み、そして高め方まで、わかりやすくお伝えしていきます。
Contents
自己効力感って、そもそも何?
人生に悩んだとき── たとえば、人間関係でうまくいかないと感じたり、キャリアに行き詰まりを感じたり、恋愛で繰り返し同じ壁にぶつかったり。
「このままじゃダメな気がする」と思って、自己啓発の本を読んだり、講座に通ったり、何かを学び始める人は少なくありません。
最近の自己啓発の多くは、脳科学の知見をベースにしていることが多くて、 その中でもわりと重視されている概念のひとつが、「自己効力感(エフィカシー)」なんです。
エフィカシーが高い人が恋愛もうまくいくとか、 ビジネスで成功している人は自己効力感が高いとか── いろんな場面で応用されているから、名前だけは聞いたことがある人もいるかもしれません。
人生をもっとよくしたい、現実を変えていきたい。
そんなふうに思って、学びを深めていくと、だいたいの人が一度はこの「自己効力感=エフィカシー」という言葉に行き着きます。
このコラムでは、その“エフィカシー”という言葉の正体を、わかりやすく整理しながら、 よく似た言葉たち──たとえば「自己肯定感」「自己信頼」「自己受容」などとの違いにも、触れていきたいと思います。
① 自己効力感=エフィカシーとは?
自己効力感(self-efficacy)とは、心理学者バンデューラによって提唱された概念で、 「自分にはそれを成し遂げる能力がある」と信じる感覚のこと。
脳科学やコーチングの世界では、「エフィカシー(Efficacy)」という呼び名で親しまれています。
たとえば、自己肯定感が「自分には価値がある」と思える気持ちだとすれば、 自己効力感は「私はやればできる」という、実行力に対する信頼。
つまり、「私はここにいていい」と思えるかどうかが自己肯定感で、 「私はこれをやれる」と思えるかどうかが、自己効力感なんですね。
② 自己肯定感との違いとは?
自己効力感(エフィカシー)の話をしていると、よく一緒に語られるのが「自己肯定感」という言葉です。
どちらも「自分を信じる力」みたいに見えるから、つい同じようなものとして扱われがちなんですが、 実はこの2つ、まったく別の性質を持っているんです。
たとえば── 自分に自信がなくても「私はやってみる価値がある」と思えるとき、それは自己肯定感が高い状態。 でも、そこで「やればうまくいく気がする!」と感じるなら、それは自己効力感が高い状態なんです。
自己肯定感=“存在”への自信
自己効力感=“行動”への自信
というように、 「今の自分に価値があると思える感覚」と、「未来の自分がやれると信じる感覚」は、似ているようで、まったく違うもの。
そして、これはあくまで私の感覚なのですが──
自己肯定感は「静」のエネルギー、自己効力感は「動」のエネルギーのように感じています。
自己肯定感が、「今ここにある私」に深く根を下ろすような静けさや安らぎの感覚だとしたら、 自己効力感は、「未来に向かって動いていく私」を後押しするような、前進のエネルギー。
どちらかだけでは、人生のバランスが取れません。 ちょうど、呼吸の“吸う”と“吐く”のように── 静と動、肯定と実行。その両方があって、初めて心の健やかさが保たれるのかもしれません。
③ 自己効力感が高いと、なにがいいの?
では、実際に自己効力感が高いと、どのような変化が現れるのでしょうか。
以下に挙げるような感覚や行動の変化が、多くの場面で見られるようになります。
失敗を「次の挑戦材料」として受け止められる
うまくいかなかった経験を、ただの挫折として終わらせるのではなく、 「次はこうしてみよう」「この部分は改善できそうだ」と前向きに捉え直せるようになります。
失敗のたびに自信を失うのではなく、「経験値が増えた」と実感できるようになるのです。
不安やプレッシャーに押しつぶされにくくなる
大丈夫、なんとかなる。きっと私ならやれる。
そうした内側からの信頼感が育っていると、たとえ不安があっても、それに飲み込まれずに前へ進むことができます。
どんな状況でも、自分の“心の足場”が揺るがないことは、大きな力となります。
モチベーションが安定し、挑戦を楽しめる
行動に対する「怖さ」よりも、「やってみたい」という気持ちのほうが自然と上回るようになります。
結果だけでなく、プロセスそのものを味わう余裕が生まれ、日々の取り組みに集中しやすくなります。
継続力や粘り強さも、こうした感覚に支えられていくのです。
恋愛や人間関係でも「自分らしさ」を出せる
「好かれるため」ではなく、「私としてここにいる」ことに重きを置けるようになります。
相手の反応に一喜一憂しすぎず、自分の感情や価値観を丁寧に扱うことができるようになります。
その結果、無理のない関係性や、心の通ったつながりが育ちやすくなるのです。
「現実を創る力」が強くなる
「できる気がする」「やってみよう」という意志が内側から湧いてくることで、行動が伴いやすくなります。
思いや願いにとどまらず、実際に現実を動かす力が育つことで、自分の人生を主体的に創っていく力が高まっていくのです。
こうした変化を見ていくと、 自己効力感が高い状態とは、「自分の人生を自分の手で舵取りできている感覚」にとても近いものだといえるでしょう。
「どんな状況でも、私は私の航路を進んでいける」── そんな芯のある安心感が、日常のなかにじわじわと根づいていくのです。
自己効力感が低いと、どんな影響が出るの?
恋愛でも、ビジネスでも、人生全般において── 「自己効力感(=エフカシー)を高めることが大切」と、よく言われます。
それはつまり、自己効力感が低い状態のままだと、人生がうまくまわりにくくなったり、余計なトラブルを引き寄せやすくなったりするということでもあるのです。
自己効力感は、単なる“自信”とは少し違います。
自分の未来に対して、「私は、やれる」と信じられる感覚があるかどうか。
その“内なる信頼”の有無が、行動力や判断力、ひいては人生の選択にまで、大きな影響を与えていくのです。
では、具体的にどんな影響があるのでしょうか?
ここでは、自己効力感が低いときに起こりやすい代表的なパターンを、3つに分けてご紹介します。
① 自分を信じられず、行動にブレーキがかかる
どれだけ頭では「やったほうがいい」とわかっていても、 「私には無理かも」「またダメだったらどうしよう」と思うと、無意識のうちに行動が止まってしまいます。
これは、“失敗を恐れる”というより、“失敗して傷つく自分が怖い”という状態。
新しいことに挑戦したり、理想に向かって一歩を踏み出すことができず、停滞感が続いてしまいます。
② 外からの評価がないと、自分を保てなくなる
自己効力感が低い人は、「自分で自分を信じる」ことが難しく、 つい周囲からの評価や承認に頼ってしまいがちです。
誰かに認めてもらわないと、自分の価値を感じられない
そんな状態が続くと、行動の軸がどんどん他人軸になり、自分らしさを見失いやすくなります。
③ 恋愛・人間関係で「関係を進める力」にブレーキがかかる
自己効力感が低いと、「自分から動いてもうまくいかないかもしれない」「どうせ嫌われるかも」といった不安から、恋愛や人間関係において一歩を踏み出せなくなります。
たとえば…
- 気になる相手がいても、自分からデートに誘えない
- 関係を深めたいのに、素直に好意を伝えられない
- 距離を縮めるチャンスがあっても、つい様子見してしまう
- パートナーとの関係改善に向けて話し合いをしたいけれど、動けないまま我慢してしまう
こうしたブレーキが積み重なることで、本来なら進展するはずだった関係性が停滞してしまうこともあります。
“愛される価値”という存在レベルの自信(=自己肯定感)と同じくらい、“関係をつくっていける自分”という行動レベルの自信(=自己効力感)も、恋愛や人間関係には大切なのです。
自己効力感が育つ4つの要素(バンデューラの理論より)
自己効力感(エフィカシー)という概念は、数ある心理学の中でも非常に体系的に研究されてきたテーマです。
なかでも代表的なのが、心理学者バンデューラによる理論で、「自己効力感は、ある4つの要素によって育つ」とされています。
これは恋愛や人間関係といった特定の分野に限らず、キャリア・挑戦・習慣形成・セルフケアなど、人生全般に通用する“軸”のような考え方です。
今回は、その中でもとくに日常に活かしやすく、取り組みやすい4つの要素をひとつずつご紹介していきますね。
① 過去の成功体験(成功体験)
もっとも効果的なのが、「できた」という実体験。
たとえば、「最初は怖かったけど、話しかけてみたら仲良くなれた」「仕事で一つのプロジェクトをやり遂げた」など、小さな成功でも十分です。
そうした経験が積み重なることで、「次もきっとできる」という感覚が、少しずつ育っていきます。
② 他者の成功を見た経験(代理経験)
自分ではまだ経験していなくても、誰かの成功を見たり聞いたりすることで、「私にもできるかもしれない」と感じることがあります。
とくに、自分と似たような立場・背景の人の成功例は、大きな後押しになります。
③ 周囲からの励ましやフィードバック(言語的説得)
信頼している人からの「あなたならできるよ」という言葉には、思っている以上に力があります。
ときには、自分の中にまだ確かな手応えがなくても、他人の声が“仮の自信”になってくれることもあるのです。
④ 感情や身体の状態(情緒的覚醒)
緊張や不安が強いとき、人は本来の力を発揮しにくくなります。
逆に、リラックスして心身が整っているときほど、「できそう」という感覚が自然と湧いてきやすいもの。
日々のコンディション管理やセルフケアも、自己効力感を育てる大切な土台になります。
日常で自己効力感を育てる、5つの具体策
自己効力感を高める4つの要素(成功体験・代理経験・言語的説得・情緒的覚醒)は、心理学的に確立されたベースではありますが、それを日常の中でどう実践していけばいいのか?という視点は、また少し違ったアプローチになります。
ここでは、前項の理論を踏まえつつも、「日常でできること」「恋愛や人間関係にも活かせる視点」を中心に、5つのヒントをご紹介していきます。
① 「できた経験」を見逃さず、言語化する
自己効力感は、「私はできる」という実感の積み重ねから育っていきます。
そのためには、どんなに小さなことでも「うまくできた」「やりきれた」と思えたことを、自分で認識してあげることが大切です。
たとえば、「ちゃんと朝起きられた」「気が進まない用事を済ませた」など、日々の中の“ささやかな達成”を言葉にすること。
日記に書く、SNSでシェアする、信頼できる誰かに話す──どんな形でもOKです。
「私はできることを、ちゃんと増やしている」という手応えが、じわじわと自己効力感を育ててくれます。
② 「どうせ私なんて」を手放す練習を
失敗やうまくいかない出来事があると
やっぱり私には無理だった
どうせ私なんてうまくいかない
と、自動的にネガティブな自己評価が湧いてくることがあります。
でも、その思考はほんとうに“真実”でしょうか?
そんなときは、「それって本当?」と自分に問い直す習慣を持ってみてください。
「どうせ無理」ではなく、「それでも、やってみてもいいかも」
「私なんて」ではなく、「私“にも”できるかもしれない」──
そんな小さな言い換えが、あなたの内側にある信頼感の“土壌”を耕してくれるはずです。
③ 近くの人の“挑戦”に目を向ける
SNSやメディアに出てくる“成功者”ではなく、少し前の自分と似たような人の頑張りに触れてみましょう。
たとえば、同僚の努力、友人の小さな一歩、身近な誰かの変化
この人にもできたなら、私にもできるかもしれない
と感じる瞬間が、自己効力感を優しく押し上げてくれます。
完璧な誰かより、「ちょっと前の自分」に似ている誰かの方が、ずっとリアルに力をくれることもあります。
④ 心が整う“環境”をつくる
「自己効力感=心のエネルギー」だとしたら、そのエネルギーを注げる器=環境が大切になります。
たとえば、
- 散らかった部屋では集中しづらい
- 疲れすぎているとやる気が出ない
- 睡眠不足だと挑戦する気力が湧かない
そんなふうに、外側の状態が内側の自信にも影響を与えるのです。
まずは、寝る時間を整える、五感が喜ぶ空間をつくる、デジタルから離れる時間をつくる──
小さな「心地よさ」を意識することで、「私は私を整える力がある」という実感が育っていきます。
⑤ “信じてくれる人”とつながる
自己効力感が下がっているときほど、「大丈夫だよ」「やれるよ」と信じてくれる他者の存在が、何よりも心強いものになります。
たとえ自分が信じられなくても、「あなたなら大丈夫」と言ってくれる誰かの声が、未来への扉を開く“鍵”になることもあります。
もちろん、誰かの期待に応えるためではなく
私は誰かにとって、信じるに値する存在なのかもしれない
という視点を持つことで、自分への信頼も少しずつ取り戻されていくのです。
まとめ|「私ならできる」と思える感覚を、少しずつ育てていこう
自己効力感とは、「私ならできる」と思える感覚のこと。
それは、生まれつき備わっているものではなく、過去の体験や、誰かとの関わりのなかで、少しずつ育っていくものです。
恋愛でも、仕事でも、人間関係でも──どんな未来をつくっていくにも、必要なのは行動する勇気。
そしてその勇気は、「きっとできる」という感覚から生まれてきます。
大切なのは、「できるかどうか」ではなく、「できると思えるかどうか」です。
その“思える感覚”が、これからのあなたの未来を分けていきます。
もし今日のあなたの中に、「できるかもしれない」と思える瞬間がほんの少しでもあったなら──それはもう、あなたの中に“自己効力感”が芽吹き始めているサインなのかもしれません。