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自己対話で“感情”との関係を深める方法

買い物かごを持つ女性と「自己対話と感情の関係」の文字が描かれた、感情との関わりを表すアイキャッチ画像

自己対話とは、文字通り「自分自身と対話(コミュニケーション)する」ことです。
→自己対話とは?「本音がわからない」を解消するメンタルスキル

ですが、「自分と対話する」と言われても、少し不思議に感じる人もいるかもしれませんよね。

自分は一人しかいないのに、誰と対話するの?
“自分”とはそもそも何なのか?

実際、自分という存在の中には、さまざまな要素があります。

今の自分、過去の自分、本音、建前、思考、感情…

自己対話とは、そうした自分の内側にある要素とコミュニケーションを取っていく行為でもあります。

今回の記事では、その中でも自己対話における“感情”との関係について、整理しながら解説していきます。

Contents

自己対話の主な相手は感情

対話の相手としては、思考や過去の自分などさまざまありますが、中でも大きな変化につながりやすいのが「感情」とのコミュニケーションです。

人は年齢を重ねるほど、自分の感情よりも“思考”や“役割”を優先するようになっていきます。

「ちゃんとしなきゃ」
「大人なんだから」
「社会人として振る舞わなきゃ」

そうやって建前や正しさを優先し続けるうちに、“本当は何を感じているのか”が分からなくなっていくことがあります。

ですが、人は感情の生き物と言われるように、感情がわからなくなってしまうと「自分がわからない」という状態になりやすくなってしまいます。

そのため、自己対話の相手として、まず最初に「感情」と繋がることをおすすめします。

感情は自分の輪郭を知る情報源

自己対話で感情を重視する理由のひとつに、「感情は自分の輪郭を知るための手がかりになる」という点があります。

そもそも、自己対話の相手“自分”とは何なのでしょうか?

肉体であれば、自分の皮膚の内側が自分だと比較的分かりやすいかもしれません。

ですが、思考、価値観、本音、不安といった「目に見えない自分」は、どこからどこまでが自分なのか曖昧です。

そこで感情が大きなヒントになります。

なぜなら、人の信念や価値観の背景には、必ずと言っていいほど感情体験が存在しているからです。

たとえば、

「弱いものを傷つけたくない」
「人を見下したくない」

という価値観を持っている人がいたと仮定しましょう。

その背景には、過去に傷ついた経験や、悲しかった記憶、怖かった体験などが存在していることがあります。

つまり、自分の価値観や人格に深く関わっている核のようなものが「感情」とも言えます。

感情は「自分がどういう人間なのか」を効率的に知る手掛かりになるのです。

なぜ人は感情から離れてしまうのか

ここまで、自己対話の相手として「感情」が重要である理由についてお伝えしてきました。

ですがその一方で、人は感情と向き合うことを避けようとすることも少なくありません。

実際、このメディアを運営している「自己対話の学校」でも、感情と向き合うのが苦しくて、なんとか別のことを考えようとしたり、忙しく動き続けたりして、感情から距離を取ろうとする人は多く見られます。

それほど感情というものは、人にとって扱いが難しいものでもあるのです。

では、なぜ人は感情から離れてしまうのでしょうか。

ここからは、実際の相談現場でもよく見られる代表的な背景を5つご紹介します。

1. 感情を表現して傷ついた記憶

人は過去に、感情を表現したことで傷ついた経験を持っていることがあります。

  • 悲しいと言ったら否定された
  • 怒ったら「面倒くさい」と言われた
  • 寂しいと伝えたら、重い空気になってしまった

そうした経験を繰り返すうちに、「感情は出さない方が安全なんだ」と学習していくことがあります。

特に子どもの頃は、自分の感情をどう扱えばいいのか分からない状態で周囲と関わるため、否定された体験がそのまま深く残りやすい時期でもあります。

その結果、大人になってからも、本音を感じる前に無意識で抑え込んでしまうことがあります。

2. 感情に飲み込まれた体験

感情そのものが怖くなっているケースもあります。

たとえば、自分の怒りや悲しみが強くなりすぎて、自分でもコントロールできなくなってしまった経験がある人もいます。

  • 怒鳴ってしまった
  • 感情的になって傷つけてしまった
  • 頭が真っ白になって、自分でも何をしているのか分からなくなった

そうした体験があると、「感情を感じると危険なことになる」という感覚を持ちやすくなります。

また、自分の感情ではなく、“他人の感情”によって強い恐怖を感じてきた人もいます。

  • 家族がヒステリックに泣き叫んでいた
  • 父親が怒鳴る家庭だった
  • 機嫌によって空気が激しく変わる環境で育った

そうした環境では、「感情=怖いもの」という認識が強くなりやすくなります。

すると、自分の感情に対しても、「触れてはいけないもの」「暴走する危険なもの」のように感じやすくなっていくことがあります。

3.感情=子供っぽい・未熟なものと感じている

感情そのものに対して、「子供っぽいもの」「未熟なもの」というイメージを持っている人もいます。

たとえば、厳格な家庭や、しきたり・礼儀・正しさを重視する環境で育った人の中には、小さい頃から“感情を抑える訓練”をしてきた人もいます。

本来、子どもというのは感情を全身で表現する存在です。

嬉しい、嫌だ、悲しい、寂しい。
そうした感情をそのまま外に出しながら、自分という存在を育てていきます。

ですが、

「感情をあらわにするなんてみっともない」
「もっと冷静にしなさい」
「ちゃんとしなさい」

と言われ続ける環境では、感情を出すこと自体に恥ずかしさを感じやすくなります。

すると次第に、「感情を抑えられる人=大人」「感情を出す人=未熟」という認識が強くなり、自分の感情そのものから距離を取るようになっていくことがあります。

4. 感情を受け止める器がない

感情と向き合えるかどうかは、“どれくらい感情を受け止められるか”にも大きく関係しています。

人によって痛みに対する耐性が違うように、感情に対する耐性やキャパシティもそれぞれ違うのです。

他人から見たら「そんな小さなことで?!」と思うような出来事で、心を病んでしまう人もいれば、誰が考えても倒れてしまいそうな出来事があったにも関わらず、メンタルを保てている人もいます。

つまり、「どれくらいの感情を自分の中に留めておけるか」という器の大きさには個人差があるのです。

たとえば、ある人は給食のカレー鍋のような大きな器を持っているかもしれませんが、ある人はお猪口(おちょこ)くらいの小さな器しか持てない感覚で生きていることもあります。

お猪口に大量の感情を流し込めば、すぐに溢れてしまいます。

「自分には感情を受け止める余裕がない」「感情に触れたら壊れてしまう」という感覚を持っている人ほど、無意識で感情との対話を避けやすくなります。

5. 感情を蔑ろにしてきた後ろめたさ

意外かもしれませんが、感情そのものを危険だと思っているわけではなくても、感情と向き合うことを避ける人もいます。

その理由のひとつが、「これまで自分の感情をずっと蔑ろにしてきた」という感覚です。

  • 本当は苦しかった
  • 寂しかった
  • 限界だった

それでも、「今はそんなことを言っている場合じゃない」と、自分の感情を後回しにし続けてきた。

すると時間が経ったあと、いざ感情と向き合おうとしても、どこか気まずさや後ろめたさを感じることがあります。

これは、ずっと子どもを後回しにしてきた親のような感覚に近いかもしれません。

「見て」
「かまって」
「話を聞いて」

そう言っていた子どもを、仕事や日々の忙しさを理由に、長い間後回しにしてきた。

そして落ち着いた頃に、ようやく向き合おうとしても、「もっと早く向き合っていればよかった」という気まずさが残ることがあります。

感情に対しても、それと似たことが起こる場合があります。

長い間無視し続けてきたからこそ、今さら向き合うことに怖さや後ろめたさを感じてしまうのです。

感情を抑え続けると人生が停滞する

ここまで、自己対話の相手として、なぜ「感情」が重要なのか、そしてなぜ人は感情から離れてしまうのかについて整理してきました。

では実際に、感情とのつながりが切れてしまうとどうなるのでしょうか。

もちろん人生そのものが完全に止まるわけではありません。

  • 仕事に行く
  • 結婚する
  • 子育てする

日常は普通に進んでいくことも多いです。

ですがその一方で、

「自分の人生を生きている感じがしない」
「どこかずっと噛み合っていない」
「理由は分からないけど停滞している」

そんな感覚が強くなることがあります。

感情と切り離された状態では、自分の本音や限界にも気づきにくくなるためです。

なお、自己対話ができなくなることで具体的にどのような状態が起こりやすいのかについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

自己対話できてる?できてない?見分ける基準を解説

感情との関わり方

ここまで、自己対話の相手として「感情」がなぜ重要なのか、そしてなぜ人は感情から離れてしまうのか、それらの背景について整理してきました。

とはいえ、感情と向き合うことには怖さや抵抗を感じる人も少なくありません。

ここからは、感情と対話するときに意識しておきたいヒントを、3つご紹介します。

1. 「実行命令」ではなく「情報」として扱う

感情と対話するときの大切なポイントのひとつが、「感情を実行命令として扱わないこと」です。

自己対話をしていると、感情からさまざまなリクエストが出てくることがあります。

「もう嫌だ」
「逃げたい」
「休みたい」
「分かってほしい」

ですが、それを“絶対に従わなければいけない命令”として扱ってしまうと、感情との関係が極端になりやすくなります。

実際、自己対話を始めた人を見ていると、感情に対して極端な印象を持っているケースは少なくありません。

たとえば、過去に感情へ飲み込まれた体験がある人ほど、「感情は自分を支配する強いもの」という認識を持ちやすくなります。

すると、感情から何か強い要求が出てきた時に、

「感情の言うことは絶対に聞かなければいけない」

と感じやすくなってしまうのです。

また、これまで感情を蔑ろにしてきた後ろめたさから、今度は逆に“感情を最優先しすぎる”状態になる人もいます。

たとえば、ずっと子どもを後回しにしてきた親が、罪悪感から「これからは子どもの言うことを全部聞かなければ」と極端になるようなイメージです。

ですが、感情との関係は、「無視する」か「全部従うか」の二択ではありません。

感情は、自分の状態や本音を教えてくれる大切な情報源です。

だからこそ、「私は今こう感じているんだな」と参考情報として受け取りながら、どう行動するかは落ち着いて選んでいくことが大切になります。

2. 感情のみに主導権を持たせない

そしてもうひとつ大切なのが、「感情だけに主導権を渡しすぎないこと」です。

これは、ひとつ前の「感情を実行命令として扱わない」という話とも繋がっています。

自己対話を通して感情とのつながりを取り戻し始めると、人によっては一時的に“感情ファースト”の状態になることがあります。

特に、これまで長い間感情を抑え込んできた人ほど、

「本当はこうしたかったんだ!」
「もう我慢なんてやめてやる!」
「もっと自由に生きるんだから!」

という反動が一気に出やすくなるのです。

それまで家庭環境や周囲との関係の中で、感情を出すことを許されなかった人にとっては、「感情を出していい」「感情の声を聞いていい」という体験そのものが、とても解放感のあるものだからです。

すると、人によっては一時的に“感情解放フィーバー”のような状態になることがあります。

今まで我慢していた反動で、感情のリクエストを最優先し続けてしまう。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

ですが、強い反動のまま感情だけに主導権を渡し続けると、それまで築いてきた人間関係や信頼関係を大きく壊してしまうケースもあります。

だからこそ大切なのは、感情の声を無視することではなく、「私は今こう感じているんだな」と受け取りながら、その感情にどこまで主導権を渡すかは落ち着いて考えることです。

3. 抑圧せず存在を許す

そして最後にお伝えしたいのが、感情に対して「ただ在ることを許す」という関わり方です。

これまで感情とのつながりが切れていた人ほど、いざ感情と向き合おうとすると、極端に振れやすいことがあります。

罪悪感から感情を最優先しすぎてしまったり、逆に“感情解放フィーバー”のような状態になったり。

もちろん、人間には感情がある以上、そうした時期があっても不思議ではありません。

ですが最終的には、「感情をどうにかしなければ」と力むよりも、“ただ存在していることを認める”くらいの距離感の方が、落ち着いて関わりやすくなることがあります。

イメージとしては、道端に咲いているタンポポのような感じです。

タンポポがそこに咲いているからといって、必ず水をあげなければいけないわけでもありません。

写真を撮ってSNSに投稿しなければいけないわけでもありません。

ただ、「ああ、そこに咲いているんだな」と存在を認識する。

感情に対しても、それに近い感覚です。

  • 悲しい
  • 腹が立つ
  • 寂しい

そう感じている自分がいることを、まずは否定せず認識する。

その上で、必要なら行動を選べばいいし、何もしなくてもいい。

そのくらいの距離感の方が、感情とは穏やく付き合いやすくなることがあります。

自己対話は感情に専用席を設けること

ここまで、自己対話を通して感情との関係を深める方法について、感情から離れてしまう背景や、感情との関わり方のヒントをご紹介してきました。

感情というのは、私たちの「自分らしさ」や、「自分とは何か」という感覚の輪郭を作る、とても大きな要素です。

ですが感情は、本能的でコントロールが難しいものでもあります。

人によっては付き合いづらさを感じたり、抑え込もうとしてしまったり、逆に飲み込まれてしまったりすることもあるでしょう。

また、感情との心地よい距離感も人それぞれです。

感情と強く繋がっている方が自然な人もいれば、ある程度距離がある方が落ち着く人もいます。

そのため、「感情とはこう付き合うべき」という絶対的な正解はありません。

ただどんな距離感であったとしても、自分の中に“感情という存在がある”ことを認識し続けることは、とても大切なのではないかと思います。

イメージとしては、感情に「専用席」を用意するような感覚です。

追い出すわけでもない。
運転席を全部渡すわけでもない。
ちゃんと席を用意して、「そこに居ていいですよ」と存在を認める。

そして、自己対話をしたい時には、その席に座っている感情に向かって話しかける。

そんなイメージで感情と関わっていくと、少しずつ自分との関係も変わっていきます。

感情を蔑ろにしないことは、自分自身を蔑ろにしないことにも繋がっていくのです。

この記事を書いた人

江藤有紀 自己対話の学校主宰。女性向け商業施設の運営に従事したのち、人間心理についての発信を始め、人生相談を受けるようになり独立。
人生の悩みは、自分との繋がりが薄くなっているサインと捉え、自己対話を体系的に学ぶプログラム企画などを行う。 著者プロフィールを見る

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自己対話の図書館とは

自己対話の図書館は、人生の停滞や繰り返す悩みなど6つのテーマを中心に、自分との繋がりを取り戻すことで解消していくヒントをまとめた場所です。
自分と向き合う時間を、少し豊かにすることを目指しています。

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